プロフェッショナル「パンチラの流儀」

 とある平日、我々取材班は田中徹也という男の一日を追っていた。

 実家暮らしの田中は、今日もいつも通りの「仕事」に出かけているという。彼の「仕事」とは一体何なのか、我々はその謎を追うべくカメラを回し続けた。


 午前11時、公園に現れた田中は、突然風速計を取り出し風の具合を測り始めた。 

 風速4.2メートル。


「悪くない、むしろ今日は理想的だ」と彼の目が光る。


 通りかかる女子高生たちのプリーツスカートが風に揺れ、ふわりと舞い上がる瞬間――田中さんはその瞬間を見逃さなかった。

 「見えそうで見えない」その絶妙なバランスに、彼は満足そうに頷きながら、その光景を心に刻んでいるようだった。


 次に彼が向かったのは、近くのショッピングモールの階段。

 昼間のショッピングモールは、多くの人々が行き交う場所であり、田中にとっては「宝の山」なのだろう。

 彼は階段の脇で立ち止まり、上る人々の姿を見つめている。

 女子大生のミニスカートが微かに揺れ、その下にはスニーカーが見えるラフな装い。田中はその揺れに期待を込めながらも、心の中で慎重に「今ではない」と判断しているかのようだった。


 午後1時、ショッピングモール内のエスカレーターに立つ田中。

 ここは彼にとって、パンチラを狙う上で非常に重要なポイントらしい。前方にはシックなタイトスカートを履いたOLがゆっくりと上がっていく。田中はスカートの揺れ、足元のパンプス、そして風の流れに意識を集中させていた。

 そんな中、我々取材班がついカメラを向けようとしたところ、田中は手で静かに制止した。


「まだだ、早まるな。風が違うんだよ」


 その言葉には何か確信めいたものがあった。

 彼には何かが足りないことが分かっていたのだ。その直感は、何年もかけて培ってきた経験からくるものだろう。


 しかし、次の瞬間、警察官の姿が目に入った。田中はその姿に気づくと、一瞬で表情が変わった。


「ヤバい、逃げるぞ!」


 田中は全力でその場を離れた。エスカレーターを駆け下り、ショッピングモールの通路を縫うように走る。後ろから警察官の声が響くが、田中は振り返らない。

 風速計を片手にしっかりと握りしめ、そのまま全力疾走だ。通行人たちが驚いた表情で道を開ける中、田中は息を切らせながらも逃げ続ける。


「俺にはまだ、やらなきゃならないことがあるんだ!」


 その言葉は、まるで彼自身に言い聞かせるようなものだった。


 午後4時、何事もなかったかのように公園に戻った田中。

 夕方の風が強まり、絶妙な瞬間を生み出す予感がするという。

 風速計が激しく揺れ、田中の表情がパッと輝いた。

「この風…これだ!」と呟き、彼は公園のベンチに座る女子高生に目を向ける。

 スカートがふわりと揺れるが、決定的な「見えた」瞬間には至らない。

 田中は少し肩をすくめ、微笑んでいた。


「見えたらおしまいなんだよ。見えないからこそ、そこに希望があるんだ」


 その言葉には、彼なりの深い哲学があるように思えた。


 夜になり、田中は自宅へと帰る。

 夜の街は、昼間とはまた違う顔を見せていた。ネオンがまばゆく輝き、ビルの窓から漏れる灯りが都会の夜を彩っている。道行く人々は一日の疲れを背負いながらもどこか浮かれた雰囲気で、笑い声が交じる。

 田中はその中を静かに歩く。人々の雑踏の中に彼の姿は溶け込み、彼にとってはこの夜の風景もまた何かをを求める舞台の一部なのかもしれない。


「今日の仕事はどうでしたか?」


 そう問うと、田中は少し考えたあと、満足そうに頷きながら答える。


「まぁ、悪くなかったかな。でも、まだまだだな。理想には届いていないよ。」


 田中はふとポケットから風速計を取り出し、軽く振って確認する仕草を見せた。

 その動きには、まだ足りないものを探し続ける彼の執念が滲んでいるようにも見えた。


「あなたにとってプロフェッショナルとは?」


 田中は少しうつむいたあと、微笑みながらこう答えた。


「見えないものを見ようとすること、ですかね」


 彼の目には何が映っているのか、我々には想像すらできなかった……。


 パンチラを追う田中の姿は、滑稽でありながらもどこか純粋で、彼は心の底から信念を持つ男だった。

 誰も気づかない美学を追い求め、誰にも理解されなくても構わないという孤独な決意。彼の姿は、一瞬の風に乗せた希望を探し求める挑戦者そのものだった。


 田中徹也の挑戦は、これからも続く。

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