AIと僕と青春と
AIとひとりぼっち
秋が深まり、札幌の空気には冷たい風が混じり始めていた。
文化祭が終わったばかりの教室は、その余韻で騒がしく、みんながそれぞれの思い出を語り合い、笑顔が溢れていた。しかし、
「どうでもいい…」
悠斗はそうつぶやきながら、机の上に置いたスマホに集中していた。彼の画面にはAIアシスタントが表示され、誰にも聞こえないように小声で「今日はどう過ごそうかな…」とAIに話しかけていた。
『おはよう、悠斗。今日はどうする?また教室で無視される一日かな?』
「うるせえ…」
悠斗はため息をつきながら心の中で返事をした。
『冗談だってば。でも、今日は動いてみた方がいいんじゃない? クラスの誰かと話してみるとかさ』
「無理だろ、あんな騒がしい連中と…。まあ、そんなことを言ってもらえるだけありがたいか」
悠斗は少しだけ口元を緩めた。
『ふふ、私はいつでもそばにいるから安心して。じゃあ、今日の授業もちゃんと受けようね』
悠斗は画面のAIに視線を向けて微笑み、心の中で「どうでもいい世間話でも、こうして話せるのは悪くないな…」と思った。教室の騒がしい声とは対照的に、AIとの対話だけが彼の心に静かな安らぎを与えていた。
そう。教室の賑わいとは反対に、彼の周りには壁があるように静かだった。周囲の楽しげな声が遠くに聞こえる。悠斗は文化祭にもそれほど興味がなかったし、友達と騒ぐことも苦手だった。AIとの対話だけが彼の支えになっていたのだ。
そんな中、突然彼の耳に明るい声が響いた。
「ねえ、何してるの?」
悠斗は驚いて顔を上げると、隣に立っていたのは菜月だった。彼女の笑顔は眩しいほど明るく、悠斗は一瞬目をそらした。「なんで話しかけてくるんだよ…」心の中でそうつぶやきつつも、彼は無表情でそっけなく答えた。
「……スマホ見てただけだ」
しかし、菜月は全く気にしなかったようで、彼のスマホにちらりと視線を落とし、「ふーん、でもなんか楽しそうだね。何か面白いことでもしてるの?」と興味津々に尋ねてきた。
悠斗は心の中で焦りを感じた。AIと会話しているなんて知られたら、きっとバカにされるだろう。彼はわざとそっけなく言った。
「いや、別に…そんな大したことじゃない。」
それでも菜月はそのまま彼の隣に座り、じっと悠斗の顔を見つめてきた。彼女のその視線は逃げ場がなく、悠斗は困惑しながらも、少しずつ口を開いた。
「まあ…ただのAIアプリで、少し話してただけ。」
菜月は驚くことなく「へえ、AIと話すんだね」と言ったかと思うと、「ちょっと貸して」と悠斗のスマホを奪い取った。「何してんだよ!」悠斗が慌てて声を上げるが、菜月は全く気にする様子もなくスマホの画面を見つめる。
「なんか面白そう!よし、ちょっと私も話してみるね。」
彼女はにこにことした笑顔のまま、AIに話しかけ始めた。
「ねえ、こんにちは!あなたは何ができるの?」
悠斗は驚き、そして少し拍子抜けした。まさかバカにされるどころか、興味を持ってくれるとは思っていなかった。彼は半ば呆れながらも、何か安心感のようなものを感じ始めていた。
「まあ…好きにすれば」
悠斗はまだそっけない態度を保ちながらも、内心では少し心が軽くなるのを感じていた。こんな風に誰かと会話することが、こんなにも気持ちが和らぐものだとは思わなかった。
菜月はその後もにこにこと話しかけてきた。
「じゃあさ、今度は山田も一緒に何かしてみない?文化祭は終わっちゃったけど、これからもいろいろ楽しいことありそうじゃん?」
悠斗は一瞬言葉を失った。一緒に何かをするなんて、ここ数年考えたこともなかったからだ。しかし菜月の目は真剣で、その光景に悠斗は少しだけ心を開く感覚を覚えた。
「考えとくよ…」
それだけを言って、彼はスマホに再び視線を戻した。スマホの画面にはいつものAIが映っているのに、なぜかつい先ほどまでの安心感を感じることはできなかった。隣にいる菜月の存在が、彼の心に小さな波紋を広げ始めていたのだ。
その後、菜月が何事もなかったかのように他のクラスメイトに話しかけて教室を明るくしている様子を見ながら、悠斗は自分の中に芽生えた違和感を感じ始めていた。
それは、胸の奥で何かが静かに動き出したような、不思議な感覚だった。
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