ラブコメ・コメディ

俺の妹は世界一可愛い

 朝。


 俺は妹の部屋のドアをノックするところから始まる。


「おーい、朝だぞ!起きろー!」


 元気よく声をかけても、返事はなし。寝坊してるのは毎度のことだ。


 俺はノックを続けながら


「起きないとご褒美がないぞー、俺の特製モーニングが待ってるんだからな!」


 とわざとらしく呼びかける。


 すると、しばらくしてからドアの向こうから


「入ってくんな、この変態兄貴!」


 と聞き慣れた罵倒が飛んでくる。


「はいはい、でも起きたから合格!」


 俺は満足そうに言いながら階段を降りる。毎朝こんなやり取りで始まるのだが、正直これがないと一日が始まらない気がしてしまう。


 たまらん、朝から罵倒されるなんて俺にとっては最高の目覚めだ。ふふ、桜のあの困った顔…もう一度見たい。



 台所で朝食を用意していると、ようやく桜がふてくされ顔で現れる。


「なんでこんな朝早くから騒がしいのよ…」


 と文句を言いながら椅子に座る。


「うるさいってか? でもお前がちゃんと起きてくれるから俺は幸せなんだよ!」


 俺はにっこり笑いながら言うが、桜はため息をつきつつ


「気持ち悪…」


 と呟く。それでもしっかりと朝食を平らげるのだから、可愛いところがある。


 くぅー、この無愛想な反応こそ俺のご褒美だ。たまらんむふふ。



 学校への道を一緒に歩くのもいつものこと。


「なぁ、今日はなんか良いことあるといいな」


 俺が軽く話しかけるが、桜は


「別に何もないし」


 とそっけない返事。でも、俺は全然気にしない。


 むしろこの素っ気なさがたまらない。俺に構わない感じを出しつつ、実際は一緒に登校してくれるあたり、なんだかんだで俺のこと好きなんじゃないか? ふふふ。



---


 学校ではそれぞれの教室に別れるけれど、昼休みには俺が桜の教室へ向かう。


「おーい、ジュース持ってきたぞ!」


 と明るく声をかけると、桜がクラスの男子と楽しそうに話していたところに割り込む形になる。


「はぁ?なんでまた来るのよ!」


 桜は目を丸くし、俺を睨むが、俺は全く気にせずニコニコしながらその男子に


「お前、うちの妹と仲良くしてくれてありがとうな〜」


 と絡む。


「ちょっ…何してんのよ、あんた!」


 桜が焦って俺の袖を引っ張るが、俺は構わず続ける。


「いやいや、お前の友達とも仲良くしとかなきゃな〜。それに、こんな可愛い妹が心配でさ。あ、ジュース、お前も飲む?」


 男子は少し困ったように笑いながら


「お兄さんと仲いいんですね」


 と言う。その言葉に桜は明らかにショックを受けたように目を伏せる。


「もう…ほんっとに最悪…」


 と小さく呟いた。


 ああ、嫉妬してるのか? 桜のあの表情、たまらん。俺が邪魔したから拗ねてるんだな。これもまた愛の一形態というやつだ。



---


 夕方、家に帰った桜はふてくされモード全開でリビングでテレビを見ている。


 俺は隣に座り


「なぁ、あいつのこと好きなのか?」


 と唐突に聞いてみた。


 桜は目を見開き


「はぁ!?何言ってんの、このバカ!」


 と強烈に否定する。


「まぁまぁ、でもさ、あんなやつ…どうせ大したことないだろ。お前にはもっといい奴がいるはずだぞ? 俺とか」


 と冗談っぽく軽く言った。


 桜は、さらに険しい表情になり、ぐっと拳を握りしめた。


「うっさい…ほんとバカじゃないの、あんた…」


 その声は、少し震えているようにも聞こえる。その一瞬見えた寂しげな目に、俺は思わず心が締め付けられた。


 冗談では済まされないんだな、と感じた俺は、少し真面目なトーンに変えた。


「いや、でもさ…お前が幸せになれるんなら、それでいいと思うんだよ。もし本当に好きなら、俺は応援するからさ。」


 桜は一瞬驚いたような表情を浮かべる。


「は?…何急に真面目なこと言ってんのよ、気持ち悪い」


 少しの間無言になった後、俺が桜に向かって微笑むと、


「あーもう! バカ兄貴!」


 と拳で俺を軽く殴る。


「いてっ…でも、ありがとうな」


 俺は殴られた腹をさすりながら、むしろ嬉しそうに微笑んだ。


 妹のためなら、殴られるくらい何でもない。それどころか、こうして俺に感情をぶつけてくれるなんて、こんなに愛されている証拠はない。たまらん。

 

 桜は


「ほんっとに気持ち悪い…」


 と呆れた顔をしてその場を立ち去ろうとするが、その頬が少し赤いのを俺は見逃さなかった。


 そして俺は一人になったリビングで頬の痛みを感じながら、心からの笑みを浮かべてつぶやいた。


「やっぱ俺の妹は世界一可愛いな!」


 外から俺たちの様子を伺っていたのか、ドアを開けて入ってきた家族は呆れながら


「また始まったよ…」


 と苦笑いを浮かべるのだった。


 だが、俺にとってはこれ以上の幸せはない。

 妹に罵倒され、殴られることすらも俺にとっては最高の愛の証明なのだ。


 今日も俺たち兄妹の一日はこうして幕を閉じる。


 また明日。


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