第19話 頼み事

 さて、なんやかんや色々あったが無事に文化祭も終わりそうだな。


 人の出入りも落ち着いてきたので、教室の奥の方の椅子で休んでいると、な〜んか懐かしい気配が教室に入って来た。


「夜月君、お客さんだよ〜」


 クラスの女子に呼ばれたので、表に出ると懐かしい声が聞こえてくる。


「久しいのぉ、刀命や」


 クラスの男共や男性のお客さんだけでなく女子や女性のお客さんですら見蕩れている。

 まぁ、そりゃそうなるわな。


 黒と深紅の混じりあった着物を着た、12~14歳位の幼い見た目でありながら、年に似合わぬ妖艶さを放っている、絶世の美少女?美女?が堂々とした洗練された佇まいでお茶を飲んでいたら仕方ないよな。


「...あぁ。菊理くくりさんでしたか。てか、なんで居るんですか?」


 少し驚きつつ問いかける。


「うむ。お主に頼みがあってきたのじゃからな」


「いや、大抵の事は菊理さんの力があればどうにかなるでしょう?」


 すると、苦い顔をして言う。


「それがのぉ...出来はするんじゃが、こちらの世界まで被害が出かねんのじゃ」


 言いたいことが分かったぞ。


「手伝えばいいんですね?」


「すまんのぉ」


 申し訳なさそうにしているが、俺としてはに頼られて嬉しいんだよなぁ。


「師匠の頼みですからね」


 笑って言うと、俺の想いを正確に汲み取ってくれたようで、クスッと笑う。


「持つべきは慕ってくれる弟子じゃな」


 そして、菊理さんが立ち上がり、背伸びをして手を伸ばすので、俺はしゃがむ。

 すると、頭を撫でながら褒めてくれる。その手つきが気持ちよくて、しばらく目をつぶって撫でてられていると、日向が転移して来た。


「師匠っ!!」


「おおっ!日向ではないか!!元気にしておったか?」


「はいっ!」


 日向も菊理さんと会えて嬉しそうだ。俺と同じように頭を撫でてもらっている。


 しばらくして、撫で終わると座り直してお茶を一口飲んで唇を潤す菊理さん。


「して、そこな女子おなごらや、儂に聞きたいことがあるのじゃろう?」


 後ろにいた、海とよっちゃんに声をかけ、海の方が口を開く。


「今、僕達の友人達を呼んでいるので、揃ってからでもいいですか?」


 俺達の師匠だと知って、ガチガチに畏まっている海を見て、微笑みながら頷く。


「それと、あまり畏まらんでも良いぞ?刀命の友なのだろう?ならば、いつも通りで良いからのぉ」

 

 それから、星火達が集まるのを待ちつつ菊理さんと話をする。

 その間に、よっちゃんは菊理さんに気に入られ、膝枕されながら頭を撫でられていた。


 ...やっぱ、菊理さんでもよっちゃんは可愛いと思うんだなぁ。


 すると、教室のドアが開いて、星火、リア、アナさんが入ってくる。この時間はシフトから外れていたため、文化祭を一緒に楽しんでいたらしい。


「お待たせ?何かあったのかしら?」


「すみません。お待たせ致しました」


「ただいま参りました」


 3人を海が手招きして呼ぶ。


「あら?この子は、刀命の...従姉妹かしら?」


「まぁ!とても可愛らしいお方ですね」


「もしや、このお方...」


 3人の反応にクスクス笑いながら自己紹介を始める菊理さん。


「そこのメイドは気付いたようじゃな。...何?夜奈も気付いておった?そうかそうか、偉いのぉ。さてと、揃ったようじゃし、わしの自己紹介でもするかの。儂の名は『菊理媛命くくりひめのみこと』じゃ。縁結びの神の側面が有名じゃの。そして普段は、黄泉ノ国とこの世の狭間におることが多いのじゃ」


 皆がポカンッとしているのを見て楽しそうに笑い、さらに続ける。


「これは夜月の者以外には知られておらぬ事じゃが、『閻魔様』は聞いたことあるじゃろ?」


 その言葉に皆は頷く。


「その『閻魔様』というのは、実は儂なんじゃよ」


 そう言って、ニシシと笑う。


「「「「「えぇぇぇ〜〜〜〜!!!!!」」」」」


 俺としては、日本人じゃないリアとアナさんが閻魔様を知っている方が驚きなんだけど...


 あっ、前に、リア達とドラ〇ンボ〇ルのアニメをイッキ見したから知ってるのか。


「良い反応をしてくれるのぉ」


 嬉しそうにしながらも、俺を「ほらな?」といった具合に見てくる。


 ...俺が初めて聞いた時に無反応だったこと、まだ根に持ってんのかよ。


「あと、俺と日向の師匠だな。例え、俺と日向がが本気で同時に殺しに行っても秒で返り討ちにあう。多分、神々で一番強いんじゃないか?」


 そう補足すると、今度は教室にいた全員が叫び、星火とリアの顔が真っ青になる。

 今度は、その様子を見かねた2人を安心させるように日向が補足する。


「お兄ちゃん、意地悪しちゃダメだよ。師匠はめちゃくちゃ優しくて良い人じゃないや、いい神様だよ!」


 そして、俺と日向は声を揃えて言う。


「今の俺(私)があるのは、師匠がいてくれたお陰だな(だよ)!!」

 

 俺達の言葉には照れ臭そうにする菊理さん。

 

「ゴホン...お主らも、日向と同じようにいつも通りに接して欲しいのじゃ。儂は、お主らとも仲良くなりたいからのぉ」


 俺に怒ったような表情を向けてくる菊理さん。


 「刀命よ。昔みたいな感じで構わんぞ?その感じだと、距離があるみたいで寂しいぞ」


 怒った表情、一変ホントに寂しそうな表情をしだしたので、昔の感じに戻す。


「すまん、師匠。ちゃんと接しないと失礼かなぁって思って」


「ど阿呆。今更、儂らの仲で失礼も糞もあるか」


 少し怒りながらも、昔の感じに戻したからか嬉しそうにする師匠。


「じゃあ、僕は菊理ちゃんって呼んでもいい?」


 先にある程度打ち解けていた海が聞くと、嬉しそうに頷く師匠。それを見て、残りも続く。


「なら、私は菊理ね」


「そうですね。私は菊理さんとお呼びしますね」


「ん、菊理」


「私は様付けが基本ですので、菊理様でお呼び致します」


 皆が、普通に接してくれるので嬉しそうに頷きながら「よろしく頼むのぉ」と言っている。


 そして、師匠は真面目な顔をして呟く。


「ふむ、この実力なら問題なかろう」


 そして、頭を下げて言う。


「頼む。失礼を承知でお願いさせてもらう。改めて、儂のことを手伝ってはくれんか?」




 




 

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