第一話:魔法使い、誕生 ⑦

◆春風が吹く②◆

「契約?」

 【契約】という言葉に、智也はピクリを肩を震わせた。

 いきなり現れ追いかけてきたバジリスクもその【契約】を迫ってきていたからだ。

 智也は颯から目をそらすように俯いた。恐怖から喉がしめつけられ、つっかかって声がうまく出せない。

 それでも、それでもだ。

 このまま何もしなければ、もっと恐ろしいことが起こってしまう。

 智也は小さな手でギュッと握りこぶしを作った。

「……颯君と【契約】をすれば、バジリスクを追い払うことができる? 俺の力で、何とかすることができる?」

「あぁ。できる。俺と智也の力で追い払えるよ」

 颯は『できる』と言い切った。

 その言葉に勇気をもらった智也は顔を上げ、颯と目を合わせた。

「わかった。俺、颯君と【契約】する」

 智也の鳶色の瞳に鋭く、強い光が宿った。その光は一直線に颯の若草色の瞳を射貫き、二人の間を風が駆け抜けていった。

「ありがとう」

 颯は智也と同じ視線になるように膝を付くと、コツンとお互いの額をつけた。智也は驚きのあまり「わっ」と小さく声を漏らす。


「我が名のもとに、【魔法使い】と【契約】す」


「えっと……?」

 颯の宣誓に対してどう返して良いのか分からずにいると、颯がフッと笑い智也にある言葉を教えた。


「……我が名のもとに、【精霊】と、【契約】す」

 

 智也は颯が教えてくれた通りの言葉を唱えると、颯は額を離した。すると、智也のパンツのポケットから強烈な光が漏れ始めた。

「えっ、なになに?」

 智也が急いでポケットの中身を取り出すと、光は智也のスマホの画面から出ていた。

「なにこれ? 俺のスマホ故障した?」

「大丈夫、すぐにおさまるから」

 颯の言う通り、光はすぐに収まった。

「一体何が起こったんだ……?」

「俺達の【契約】が成立したんだ。これで智也は【魔法使い】になった」

「【魔法使い】? 俺が?」

 智也は困惑した。

 颯に魔法使いになったと言われても全くと言っていいほどに実感がないのだ。

「魔法の使い方を教えるよ」

 颯がすっと智也のスマホを指差した。

「スマホに入っている【グリモワール】アプリを起動させて」

 颯があの謎のアプリを指差した。

 智也は言われたとおりにアプリを起動させると、前回と様子がちがっていた。

 模様が光っているのだ。

「あれ……模様が、光ってる?」

「それは【魔法陣】っていうんだ」

「魔法陣?」

 颯はニコリと微笑むと智也の頭を撫でる。

「智也、俺の言ったようにやってみてくれるか?」

「うん、わかった」

「まず、魔法陣に指を乗せて」

 智也はスマホの画面で光る魔法陣に指を乗せる。

 すると、魔法陣の光が強くなった。


 ドクン。


 智也の心臓が強く鼓動を打った。

(あれ……、頭の中に言葉が浮かんできた……!)

「頭に浮かんだ言葉……【呪文】を、ゆっくりでいいから声に出してくれ」

 智智也は恐怖で足がすくんだが、それでも颯を信じて呪文を唱えた。

 心臓の鼓動が耳に響き、全身に冷たい汗が流れる。也は頭に浮かんだ言葉を声に出す。

 


「……芽吹きを告げる【春風の精霊】よ、その清らかなる風で、邪なものを吹き祓い給え」


 颯の周囲に光輝く風が集まりはじめ、街路樹の葉が大きく揺れ始めた。

 バジリスクはその風が吹く度に苦しいのか、身体を左右に揺らす。

「俺の名を呼んでくれ、智也!」

 智也は、大きく息を吸った。


「来いっ! 【ゼピュロス】」

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