2章 第8話 守るための力!


 アンジュ学園。

 

 天使の逸話を元に、世界の変革を目指す施設だ。

 

 よって各所に天使の象があり、その全てに特殊な力が施されている。

 

 それは天使たちが残した力なのか、人間たちの想いなのか定かでは無い。

 

 中でも聖堂に祀られているビスラの像は、強力な力を有している。

 

 争いの根絶を願い、現在では宗教の対象にまでなっている天使だ。

 

 闘技場を除く全ての学園施設において力と武器を使用することが封じられる。

 

 そのため、闘技場以外では人や物を傷つけることは出来ないだろう。

 

 また少しの傷であれば癒しの力が働くと言う。

 

 現在はルネがいることによって、回復するために利用するものも多いだろう。

 

 逆に闘技場にはウルローズの像がある。

 

 学園内で唯一、戦闘を許される施設だ。

 

 聖なる戦いのみ許される空間であり、ダメージを負うことがあっても体を傷つけることは出来ない。

 

 そして学園内の重要施設、書庫。

 

 そこには無数の知識が朽ちることなく保管されている。

 

 悪しき心を拒絶する力を持ち、魔導天使メアの像がある。

 

 Aクラスの者か教師しか入ることを許されない施設だ。

 

 常識を覆すほどの知識が保管されており、人によって精神を崩壊させてしまうという。

 

 そのため選ばれたものしか入ることを許されていない。

 

 ーーーーーー。

 

 進級試験が着々と進んでいく中、次はルネの試合である。

 

 気持ちを落ち着けるかのように聖堂に足を運んでいた。

 

 ここに来ると心が安らぐのだ。

 

 「私に祝福をください、ビスラ様。」

 

 ルネにとっては、最後になるかもしれない戦いだ。

 

 戦えることを証明しなければならない。

 

 「熱心にお祈りしてるね?」

 

 気配を感じることなく、横に現れた青年。

 

 ルネは驚き顔を上げる。

 

 そこには白銀の髪を靡かせる美青年がいた。

 

 黒の半袖パーカーをまといラフな格好だ。

 

 だが、不思議と惹き付けられる整った顔をしている。

 

 見るからに格好は平民であるが、どこか風格を持っていた。

 

 異質という表現が適切だろうか。

 

 とにかく整った顔立ちと身分、服装、雰囲気がバラバラなのだ。

 

 「ビスラ様、好きなの?」

 

 「えっと……好きというか信仰してます。」

 

 困惑しながら答えると、青年は笑ってみせる。

 

 なぜだか嬉しそうだ。

 

 「この学園ってさ、天使様の加護あるけど、勇者だけ力を持ってないよね。なんでだと思う?」

 

 「え……?記録では勇者は人間に絶望し大戦後行方不明になったって。だから加護がない……とかでしょうか?」

 

 「そうかもね。……でももし、俺が勇者ならかつての仲間と一緒に居たいと思うけどな。ビスラ様も寂しがっていたりするかな?」

 

 「どうでしょう?でも、ビスラ様と勇者様は一番仲良かったって記録にありますよ?」

 

 「そうなんだ。それは素敵なことだね。」

 

 「ですね。……ところであなたは?」

 

 「ああ、ごめんごめん。ビスラ様に会いたくなったってとこかな。それで、ここに来たら熱心にお祈りしているもんだから、つい話しかけちゃった。」

 

 「そうだったんですね。私と同じです。……落ち着きますよね、ここ。」

 

 「そうだね。それじゃあ、俺は行くよ。」

 

 「もういいんですか?私が出ていきますから、ゆっくりお祈りなさっては?」

 

 「ああ、大丈夫。それにもう試合始まるしね。待ってるよ、『ルネフィーラ』」

 

 「え?どうして、私の名前を?」

 

 青年は答えることなく、聖堂を後にする。

 

 なぜかルネの名前を知っていた青年。

 

 あっけに取られていると、一瞬ビスラの像が光った気がした。

 

 「……気のせいでしょうか。いいえ、祝福ですね。頑張ってきます。ビスラ様。」

 

 決意が固まったルネ。良い顔つきで、その場を後にする。

 

 ーーーーーー。

 

 試合が開始され、入口から闘技場へ辿り着くルネ。

 

 対峙するのは先程の青年であった。

 

 「やあ。また会ったね。ルネフィーラ。」

 

 「あなたは……先程の……」

 

 「うん、『テンダリア』だよ。よろしくね。」

 

 「なぜか私を知っているみたいですけど……ルネフィーラです。……同じビスラ様を信仰していますが……手加減は出来ませんからね!」

 

 「うん、よろしくね。俺も君の本気を見たいからね。」

 

 お互いに名乗ると構える。

 

 テンダリアは構えると言うより、ルネフィーラを見つめているだけだ。

 

 構うことなく、ルネは右手を懐に隠し、左手を少し前に出す。独特な構えだ。

 

 「テンダリアVSルネフィーラ、試合開始っ!!!」

 

 ーーーーー。

 

 「戦えることを見せます!見ていてくださいね!師匠、アノンくん!!」

 

 ルネは気合を入れると、構えていた左手を押し出すように解き放つ。

 

 「リベレイトっ!『ウォーター』」

 

 つよく押し出すように解き放たれる水のリベレイト。

 

 それを片手で受け止めるテンダリア。

 

 「うん、水圧変化で押し出すってとこかな?でもエーテルを使ったら防げちゃうね。」

 

 いつの間にかエーテルを解放していたテンダリア。何事も無かったように防ぐ。

 

 「君の力は攻撃に向いていないみたいだね。」

 

 「確かにそうですね。でも、使い方次第です!!!」

 

 ルネは畳み掛けるように、頭上に水滴を撒き散らす。

 

 それは闘技場全体を包み、光り輝くシャワーとなる。

 

 「うん、気持ちいい雨だね。」

 

 ただの雨のように降り注ぐ水の力。

 

 だが、次第に冷えてくると霧のような状態に包まれる。

 

 「温度も変化できるんだ万能だね。視界を奪ってどうするのかな。」

 

 「こうするんですっ!!!エーテル解放っ!」

 

 エーテルを解放し、懐から短剣を抜くルネ。視界が悪い中、テンダリアへ不意打ちする。

 

 不意打ちには成功したが、元々低い身体能力。

 

 エーテルを解放しても余裕で回避される。

 

 「手数を増やして戦うわけだね。誰かの知恵かな?」

 

 「師匠に教わりました!私はひとつの事に目が行きがちだって……だからもう、自分の魂を決めつけないっ!!私は私にしかできない力で戦ってみせます!!」

 

 交わしながら優雅に語るテンダリア。

 

 対して、息を切らしながら短剣を振るうルネ。

 

 消耗戦が続けば、ルネが力尽きるだろう。

 

 自在に霧を操り、姿を巧みに隠しながらの攻撃。

 

 かなりの消耗だ。

 

 だが、次第にテンダリアの動きが鈍くなる。

 

 「ん?」

 

 気がつくと足が氷で覆われていることに気がつく。

 

 「これで終わりですっ!!!」

 

  隙をついて短剣を突き刺すルネ。

 

 「うん、今のは良かったね。でも決定打にはならない。」

 

 笑顔で受け止めるテンダリア。

 

 ルネの腹部に軽く触れると、壁際まで吹き飛ばされる。

 

 「かはっ!?」

 

 強烈な痛みに一瞬呼吸が出来なくなる。

 

 ルネが吹き飛ぶと霧も氷も消える。

 

 「もう終わりかな?じゃあ決めようかな。リベレイト、『グラビティ』」

 

 「あああああああっ!!!」

 

 突然体が重くなるルネ。

 

 押しつぶされるように、体が地面にめり込んでいく。

 

 「降参しなよ。そんなに戦う意味ないじゃん。」

 

 「あ、あります……あるんですッ!!!」

 

 ルネはどうやったのか少しづつ、立ち上がっていく。

 

 「あれ、すごいね。どういうことかな?」

 

 予想していなかったのか立ち上がるルネに驚くテンダリア。

 

 「私は……ずっと、戦いが嫌いだった……だから人を傷つけるような力は上手く使えなかったんです。」

 

 「いいんじゃないのそれで。それが君の在り方じゃないか。」

 

 「そう思って、少し諦めていたんです。でも、気づかせてくれたんです。アノンくんがっ!!!」

 

 「では聞こう。君はなんのためにその力を使うのか。」

 

 「私の魂は……私の力は『人』を守るために使います。守るために戦うことが必要なら、惜しみなくこの力を使います。たとえ、正しい使い方でなくてもっ!!!」

 

 ルネはようやく立ち上がると、テンダリアのグラビティを打ち破る。

 

 「受けてください、私のもうひとつの力『バリア』っ!!!!」

 

 「っ!?」

 

 テンダリアが困惑していると、彼を包むように目に見えない障壁が出現する。

 

 「これは……」

 

 軽くノックするように叩くテンダリア。

 

 まるで出ることが出来ない。

 

 「へえ、スピリット能力か。普通はひとつなんだけどね。人を守りたいという想いが癒しの力と守る力を与えたと。」

 

 興味深そうに呟くテンダリア。

 

 どこか嬉しそうだ。

 

 「気に入ったよ、やっぱり君はいいね。他とは違う。……さあ、閉じ込めてどうする?」

 

 「これで終わりですっ!!!『ウォーター』っ!!!」

 

 ルネが唱えると、バリア内に水が流れ溜まっていく。

 

 「あらら、これはまずいね。」

 

 「降参してください!!!そこから氷の刃を作ることもそのまま固めることも窒息させることも出来ます!!観念してください!!!」

 

 「負けてあげたいところなんだけど、そうもいかなくてね。ごめんね。『リジェクト』」

 

 追い込まれているにもかかわらず、微笑むテンダリア。

 

 いとも容易くバリアとウォーターを消滅させる。

 

 「そんな……」

 

 唖然とし、倒れるルネ。

 

 力を使いすぎたのだろうか。

 

 「勝者テンダリア!!!!」

 

 試合は呆気なく終わりを告げた。

 

 「楽しめたよ、ルネフィーラ。」

 

 微笑みながらルネの手を取り起き上がらせるテンダリア。

 

 「あ、ありがとうございます」

 

 残念そうにお礼を言うルネ。

 

 負けたのだ、もしかすると学園を辞めるしかなくなるかもしれない。

 

 あとは学園側の評価次第なのだ。

 

 「落ち込むことは無いよ、君は出せる限りのチカラを出した。ナイスファイト。」

 

 「……はいっ!戦えて良かったです!!」

 

 新たな出会い、圧倒的な強さを見せたテンダリア。

 

 だが、負けじと戦えることを証明したルネ。

 

 優しい心根から生まれた2つ目のスピリット。

 

 守るための力はこれからもルネを導いていくことだろう。

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