2章 第6話 諸刃の剣!
夏休みも終わり、ついに幕開けとなる進級試験。
アノンはウキウキで出場する。
両前腕から手の甲にかけて装備された籠手。
イリスから渡されたものだ。
大会に出るならフィジカルだけでは倒せないこともある。
不意の斬撃や自分の手を守るためにも必要だろうと、渡されたのだ。
嬉しそうに籠手を触れて、闘技場へと進む。
「よーし!いっくぞー!!」
アノンは夏休みを満喫しつつも、楽しく森で過ごしていた。
今日この日のために。
アノンにとって、己の力を高めることは自分のことを知るための手段のひとつ。
より高みへ行きたいのだ。
そして、この試験で認められるとより高度な授業を受けられる。
つまりそれは、より深く世界のことを知れるということである。
アノンにとっては、戦う理由しかないのだ。
ーーーーーー。
闘技場の舞台に立つと、歓声が湧き驚く。
「すっごい人!!」
未来を担う若者たちの闘争。
王族や多くの有力貴族が押しかけているのだ。
もちろん、学園の関係者や子供たちの親なども見に来ている。
あくまでも平民を覗いての話だが。
観客席には試合を控えている生徒も視界に入る。
シルビアやルネ、クラスメイト、先生方、そのひとつにイリスの姿もあった。
「みんな見に来てくれてる!頑張ろ!!!」
アノンは意気込み、対戦相手を待つ。
前方に捉えられたもうひとつの入口から、見覚えのある少年が現れる。
整った身なりに緑色の髪の毛。
剣と盾、それに鎧を身につけアノンの前に立つ。
「やあ、久しぶりだね。アノンくん。」
ニコッと微笑む少年。
そう、『ライム・コリアンダー』である。
「えっへへ!楽しもうね!ライム!」
「ああ、そうだね。……全力で行くよ!!!」
「こいっ!!!」
「進級試験、アノンVSライム・コリアンダー。試合開始!!!」
審判の掛け声と共に、試合が開始される。
ーーーーー。
先制したのはアノンだ。
ライムは突撃してきたアノンの拳を盾で防ぐ。
「硬っ!!!」
「エーテル、解放!!!」
盾によって弾かれるアノンの拳。
体勢を崩したタイミングでエーテルを解放し、剣で突き刺すライム。
「えっへへ!ボクだって装備してるんだよ!!」
それを読んでいたかのように、籠手で防ぐアノン。
そのまま腹部目掛けて、拳を放つ。
「ぐふっ!!?」
あまりにも強烈な一撃に身を怯ませるライム。
「終わらせるっ!!!エーテルっ!!!」
アノンはエーテルを解放し両手を組み、ライムの背中に一撃を放つ。
「終わらせない!!!」
ライムは力強く気合を入れると、全身からエーテルを溢れ出させる。
「リミット!!!!」
全身のエーテルを解き放つように両手を広げると、強いオーラが溢れ出てアノンを吹き飛ばす。
「ぐああああああっ!!!」
「はあはあ、ここまでやってようやく君に近づけるわけか。」
肩で息をしながら、苦しそうに膝をつくライム。
エーテルの高まりは一時的なようで元の姿に戻っている。
「すっごーい!!!!今の何!!!」
闘技場の端まで飛んで行ったアノンだが、すぐ起き上がりライムのところまで一瞬で移動する。
「くっ……全然きいてないみたいだね」
「効いたよ!吹き飛んだもん!」
「まったく、君は。……長くは持ちそうにない。……君の底がどれだけだろうと、僕は本気で行くしかない。」
「うん!ボクも負けられないよ!」
「この技はリミット。……エーテルを限界まで高める技さ。通常の5倍の力で戦うことができるんだ。」
「すごい!!!リベレイトと同じぐらいの力出せる方法を編み出したんだね!!」
「ヒントは君だよ。……いつもエーテルを高める練習してたでしょ?僕はどれだけ頑張ってもリベレイト発動には至らなかった。だからいっその事、エーテルを極めることにしたんだ。」
「でもすごいよ!!!それで本当に極めたんだから!!!」
「アノンくん、君には感謝してる。狭くなっていた僕の世界を広げてくれたから。……でも僕は負けられない。……行くよ!!」
ライムはきっとアノンが想像するよりもずっと力を磨き続けてきたのだろう。
誰よりも高みを目指してきたはずだ。
だが、その頑張りは実ることが少なかった。
周りにはどんどん追い抜かれて行った。
アノンもそのひとりだ。
強くなりたい、追いつきたい。
その一心でライムは今アノンに立ち向かおうとしている。
アノンはその強い意志に答えようと、構える。
「……リミット」
ライムが呟くと、そのままアノンに突撃する。
「うわっ、はやい!!」
アノンが素早さに驚いていると、盾で殴られる。
「えぇっ!?」
アノンは焦ったように籠手で身を守るが、気がつくと腹部に剣が刺さっていた。
「うぐっ!?」
闘技場の力で血が出ることは無いが、強烈な痛みが走る。
あまりの痛さに流石のアノンも膝を着く。
「い、いた……い。」
そのままライムの蹴りがアノンの顔面目がけて繰り出される。
だが、アノンは右手で掴みエーテルを開放させる。
「だぁあああああっ!!!」
そのまま叩きつけるように地面に投げ飛ばす。
ライムは瞬時に受身を取るが、盾が吹き飛ぶ。
焦ったように剣を構えるライム。
アノンはそのままライムへ突撃し、拳を何発も解き放つ。
その拳を避けつつ、斬撃を放つライム。
その斬撃を見事に籠手で防ぎ、その度に拳を繰り出す。
激しい攻防が続くが、アノンがはね上げるように斬撃を防ぐ。
すると剣は宙を舞う。そのまま隙を狙って回転し、アノンの強い裏拳がライムの顔面に直撃する。
ライムは顔面を抑えながら、一旦ひくと悔しそうな表情を浮かべる。
アノンも善戦してるとはいえ、慣れない剣との戦い。ようやく剣を無力化したが、かなり疲弊している。
「……まだだ!!!僕は負けられない……負けられないんだ!!!……強くならないと……いけないんだ!!!」
ライムは歯を食いしばるように、さらにエーテルを高める。
「君を超えて、僕は強さを証明する!!!」
「ライムっ!!!ダメだ!!!そんなに、エーテルを高めたら怪我しちゃう!!」
以前エーテルを限界まで高めて大怪我をしたアノン。
ライムの鬼気迫るエーテルの高まりに、自分と同じように怪我をすると注意する。
「体の外側に限界があるのなら……内側で爆発させる!!!……『バースト』!!!」
「なっ!?」
刹那、大きなエーテルの高まりにより、視界が白く染まる。
あまりの大きなエネルギーに目を伏せるアノン。
視界が晴れると、とてつもないエーテルを身に纏うライムが立っていた。
全身は濃く赤いエーテルに包まれ、ライムの髪は逆立っている。
「これがバースト。……エーテル10倍だぁっ!!!」
「あがっ!?」
ライムは叫ぶとアノンに、強烈なアッパーをお見舞いする。
そのスビードはアノンが反応できないほどであった。
離れていたライムは一瞬にして、アノンに近づき攻撃したのだ。
速さだけでは無い。力も先程と比べ物にならないほど上昇しており、アノンは打ち上げられたまま動けない。
ライムはそのまま、打ち上げるように、何十発もの拳をアノンに叩き込む。
空中での一方的な攻撃。さらにライムは回し蹴りを放ち、落下していくアノンの腹部に最後の一撃を放つ。
「僕の勝ちだァあああああっ!!!」
高められた最大のエーテルを一点に集中し、解き放たれる拳。
大きすぎるダメージに、アノンは動けず直撃。
そのまま地面に落下する。
力を使い果たしたように、着地するライム。
大きすぎる力はかなりの負荷をかけるようで、辛そうに呼吸を整える。
だが、アノンはフラフラしながら簡単に起き上がる。
意識を朦朧とさせながらもしっかりとライムを視界に捉えていた。
「すごいよ、ライム。……こんなに強いなんて……でも君が強いから、僕はもっと強くなれる。」
「な、なんで……なんでだよ。……なんで立てるんだよ!!!」
決着が着いたかに思われた戦い。
クタクタながらも立ち上がるアノンに恐怖するライム。
同時にどうやっても自分は強くなれないと言われているように感じる。
「かたせてよ……勝たせてよ、アノン!!!」
悔しくて、負けたくなくて、涙を流すライム。
ようやく手に入れた力もアノンに届くことは無かった。
ライムの中で次第に、進級試験よりもアノンに勝ちたいという気持ちが強くなっていた。
それだけアノンを認めており、アノンに勝つことで自分を認められるのかもしれない。
「僕はきみに勝ちたい!!!」
ライムは涙ながらにアノンに思いの丈を吐露する。
しかしアノンは微笑むようにライムを見据える。
「この戦いは勝敗じゃない……でしょ?……一緒に強くなろうよ、ライム。……ボクも負けないからさ!!!」
朦朧としていたアノンの瞳に光が指す。
初めて話したあの日のように、アノンは優しく言葉をかける。
あの日、初めてライムをみてくれて、手を差し出したように微笑む。
「……君は……眩しすぎるよ……」
「……みんながボクをさらに高みへ連れていってくれるんだ。色んなことを教えてくれる。…ライムもそのひとりだよ。……行くよ『アクセプト』」
「な、なんだよそれ……なんなんだよ!!!」
アノンの肉体から青白い光が放出される。
ライムから攻撃を受けた箇所全てが光り輝き、全てがアノンへと吸収されていく。
「そ、そんな……僕から受けたダメージを力に変えている……?」
「人の経験は魂に刻まれて、記憶となり、力となる。……ボクにとっては、全部大切だから。全部受け入れていくんだ。えっへへ、また戦おうね。ライム。」
アノンが微笑むと全身の光が拳に集まっていく。
そのまま手を開き解き放つ。
「楽しかった!!」
「……僕もだよ」
眩い光がアノンから解き放たれ、大きすぎる光はライムを包み込む。
ライムは満足したように気絶する。
「そこまで!勝者、アノン!!!」
目が離せない一進一退の攻防に会場からは拍手が湧く。
「かて……た」
アノンはニコッと微笑みそのまま倒れる。
ーーーーー。
「ダメージを力に変える……でも、回復する訳では無いんだね。……諸刃の剣ってとこか。」
観客席から大きな拍手が湧く中、イリスは冷静に分析する。
「ちょっと!師匠!アノン倒れてるからね!?」
叱るように怒るシルビア。見ていて気が気ではなかったのだろう。
ずっと、立ち上がりながら見ていたようだ。
汗をかいていることからも、大きな声で応援していたことが分かる。
そんなシルビアとは対照的に冷静に見つめていたイリス。
微笑むと、会場を指さしてみせる。
するとそこには倒れた2人を治療するルネの姿があった。
「ああああっ!!いつの間に!!!」
焦って会場へと走るシルビア。
イリスは微笑みながら、4人を見つめる。
そのまま思考を再開する。
「(それにしても、アノンちゃん、追い詰められて『スピリット』能力かあ。やるねえ。……ライムくんは、ちょーっと危ない感じだねえ。まあでも、とりあえず見守りかな。……次のシルビアちゃんが心配ね。」
心の中で思考するイリス。弟子のことを心配しながら、見守っているようだ。
ついに始まった進級試験。
アノンはライムとの激闘の末、スピリット能力「アクセプト」を使えるようになった。
ダメージを力に変え一時的に能力を飛躍させるスピリット。
しかし、ダメージが前提の力。体力や傷を癒す訳ではなく、ダメージは蓄積されていく。諸刃の剣だ。
だが、まるで周囲を受け入れていくアノンにふさわしい力なのかもしれない。
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