2章 第5話 夏休み!
ついに始まった夏休み期間。
アノンはシルビア、ライム、ルネと共にプールに来ていた。
本来であれば、海水浴に行きたいものだが、外は魔物が沢山いる。
また、過激派の魔族に遭遇する恐れもある。
国や街に展開されている結界の中が生活する上では一番安全だ。
商業施設をまとめたアーケード。そこを抜けると巨大なプール施設がそびえ立つ。
大きな戦争を退けて、20年ほど。こういった娯楽も必要である。
徐々にだが、平和な世界に進んできているのかもしれない。
「じゃ、着替えてくるね!」
アノンはウキウキで更衣室に向かう。
「いい、いくわよ!」
「は、はいぃ!」
ぎこちない雰囲気で女子更衣室へと向かうシルビアとルネ。
同じクラスであるにも関わらずぎこちない。
「……平和だね。」
ライムは一人周囲の賑やかな声と笑顔溢れる風景に呟く。
ーーーーーー。
アノンは瞬時に白のビーチパンツを履くと、にこーっと微笑む。
「よーし!終わったぞ!行こう!ライム!」
「少しゆっくりしてから行こう。女性陣はきっと時間がかかるよ。」
「そうなの?」
「うん、きっとね。」
ライムはそう話しながら着替え終える。
水色っぽいラッシュガードに黒のパンツだ。
ライムはそのままロッカーの鍵を閉め、ベンチに座る。
促されるようにアノンも座る。
ライムは少しばかり元気がなく、気にかけるようにアノンが覗き込む。
それに気がつくと話始めるライム。
「こうやって平和な時の中にいると、戦いをしていることを忘れてしまう。……少し怖いんだ。」
「いいんじゃないかな、それで。」
「でも、外では大なり小なり戦いは起きている。それに過去にはたくさんの人が死んでる。……これでいいのかなって。」
「今のボクたちには学びが必要だよ。……それにきっと、こうやって平和な時の中にいることも大事なことだよ。」
「そうだね、ごめん。せっかく楽しい時なのに。」
「ううん、大丈夫だよ。……ライムはどうして学園に?」
「話してなかったかな?父上……クバーツ先生みたいになりたいんだよ。英雄になりたいんだ。僕は。……僕が小さい頃に母上も兄上も死んじゃってるからさ。こんな戦い終わらせたくて。」
「素敵な夢だね!応援するよ!」
「ありがとう、アノンくん。」
どこか不満と焦りを見せるライム。
そんな気持ちを優しく受け止めるアノン。
学園での待遇を見れば、ライムが周りから評価されていないことが分かる。
リベレイトが出来ないだけで、技術も知識も高い。
英雄の息子だということで厳しい目線が、向けられているのかもしれない。
思い悩む少年にとってアノンの存在は大きかったのだろう。
初めて会話をした時より随分と心の内側を見せてくれている。
アノンは優しく微笑むのであった。
ーーーーーー。
「あ、アンタは、その、えっと、アノンのなんなのよ……!」
「え、えーっと。お友達?だと思ってます。」
「そ、そう?ふーん。」
「クリムゾンさんこそ、とても仲良いとか……よくアノンくんお話してくれます。」
「そ、そうでしょうね!……私が1番付き合い長いんだから!」
「そ、そうですよね!!」
「そ、そうなのよ!!」
なんとか会話をしようと試みる二人。
だが、人に避けられてきたシルビアにとって、同年代の女の子の会話などとても難しい。
同じくルネにとっても、女子同士の親しい会話など経験がない。ずっとシルビアと話したいと思っていたルネだが、いざ話すとなるとどんな会話をしていいか分からなかった。
「学園は……慣れましたか?」
「え、ええ。それなりには。」
「クラス……居心地わるいですよね」
「べつに……慣れたわ。アンタは人気者よね……」
「私はその……長く学園にいますから」
「そう……なんだ」
徐々にテンションを下げていくふたり。
クラス内での立ち位置は正反対だ。
お互いに何かを感じ、思うところはあるのだろう。
ルネにとってはもっと中に入ってきて欲しいと思う反面、過去の事件に踏み込む勇気が持てない。
シルビアにとっては物腰が柔らかいルネであるが、少し遠くに感じてしまう。
2人は育った環境も、周囲に与える影響も大きく異なる。
打ち解けるには少しばかり時間がかかりそうだ。
ようやく水着に着替えると、2人は顔を合わせる。
「行きましょ」
「そうですね」
「あんた胸大きわね」
「そうですか?クリムゾンさんは体のラインが綺麗ですね。」
「そう?」
「はい!可愛いです!」
「あ、あんたもね。」
「はっ……はい!!」
だが、少しだけ話せるようにはなったようだ。
短時間の会話だったが、ルネの寄り添う姿勢とシルビアのちょっと強気な態度が上手く合ったのかもしれない。
入室前よりも少しだけ2人の緊張は解けていた。
ーーーーー。
「うぉおおおお!!2人とも超似合ってるよ!!!」
女子二人が更衣室から出てくると、テンションを上げるアノン。
ライムはニコニコしながら頷いている。
シルビアはフリルの着いたピンク色と黒の水着にスカートを合わせている。
年相応の体つきだが、健康的で元気な印象を持たせる。
ルネはお姉さんのような水色のワンピース風の水着だ。
実はアノンやシルビアよりすこし年上のルネ。
体のラインを隠すように大人っぽい雰囲気を出している。
「シルビアはめちゃ可愛い!女の子って感じ!ルネは大人っぽくてとっても素敵!」
「あ、あんまジロジロ見ないでよねっ!」
「て、照れます」
2人とも素直なアノンに顔を真っ赤にする。
ルネは顔から火が出そうな勢いだ。顔を両手で覆い隠している。
シルビアは照れながらもどこか顔はニヤけている。
ライムは引き続き頷く。
「(やっぱり、僕いらなくない?)」
そんなことを思うのであった。
ーーーーーー。
「まずはドボンとプールで遊ぼう!!!」
アノンの掛け声とともに、プールに入る四人。
ひんやり冷たく心地よい。
ぷかぷかと泳ぎながら流れていくように進む。
「あぁ、冷たいです〜」
「中々いいものね」
「最近暑かったですからね」
「ひゅーい!やっほー!!気持ちいい!!!」
ーーーーー。
そのまま流れていくとウォータースライダーを見つけ、大はしゃぎのアノン。
「あれ!!あれやろう!!!」
「やりたい!!!私もやるー!」
普段は素直じゃないシルビアも楽しくなってきたのか、純粋に楽しむようになる。
こうなると歳の近い兄妹のようだ。
「ああっ!?ふたりとも走ると危ないですよ!!」
「あはは、元気だなあ」
注意する年上のお姉ちゃん、後ろから見守るお兄ちゃん。
そんな感じだろうか。
ーーーーーー。
「続いてはパレー大会!!」
少しプールに飽きてしまったアノン。続いては広場でのバレーだ。
順番待ちをして借りることが出来た体を動かしていい場所だ。
「あんたもう飽きたの?プールとは一体って感じね……」
「まあまあ、楽しみましょう!」
「僕は負けない!!君には負けないよ!アノンくん!!!」
「それはこっちのセリフだよ!!ライム!!」
「めっちゃくちゃ盛り上がってるわね、ライムさん。」
勝負はアノン&シルビアVSルネ&ライム。順番待ちもあるため、先に10点先取した方が勝ちだ。
「最初から本気で行くよ!ライム!!」
「こい!!!」
アノンのサーブから始まる。
空中に思いっきりボールが上がると、強くボールを解き放つ。
アノンの身体能力の高さゆえか、とんでもない爆音が響く。
凄まじい勢いで飛んでくるボール。
「任せてください!」
前方にいたルネが飛び上がり、掌から水のリベレイトを発動させる。
「リベレイト!ウォーター!!」
掌から発せられる水のエネルギーはボールを包み勢いを殺す。
そのまま水圧を上げ、上空に飛ばす。
「今です!!」
「決める!!エーテル、解放!!!」
ライムは飛び上がると、全力の一撃を叩き込む。
「うそぉっ!?2人とも本気出しすぎぃいいいい!!!」
そのままシルビアへと一直線に向かい直撃する。
「シルビアぁああああっ!!!」
アノンの全力の叫びが響き渡るのであった。
そのまま楽しく試合は白熱し、決着がつかないまま終了となった。
「次は……負けないッ!!」
「ぼ、ボクもだよ……」
熱い友情を語るように倒れる二人。
「あ、あんたらねぇ!!!私にボール当てすぎなのよ!!!」
何度もふたりの攻防の被害にあったシルビア。ボロボロで怒っている様子だ。
「ま、まあまあ!ほら、私が回復させるから!」
なだめるようにルネが治療を施す。
ーーーーーー。
バレーで汗を流し、再びプールで遊ぶ面々。
疲れと空腹から施設内にあるパフェを食べることになった。
「わああああっ!素敵です!!美味しそうです!!!」
キラキラと瞳を輝かせるルネ。パフェ3つをペロリと食べる。
「え、えぇっ!すご!!」
その食べっぷりはアノンを感動させるほどであった。
「そうか……クリームね、クリームがあの乳を……」
どこか違う目的でシルビアもたくさん食べるのであった。
「くっ……バレーで本気出しすぎたか……トレーニングが足りない証拠だ!」
バレーで体力を使い切ったのか疲労で食べ物が口に入らないライム。
彼も見ている目的が違うようだ。
そして、あっという間に時間は過ぎていった。
ーーーーーーー。
プールを後にした四人。元の私服に着替え、施設の前で別れを惜しむ。
「いやあ!楽しかった!またみんなで集まりたいね!」
「そうね、悪くないものね。こういうのも。」
「ですね!とっても、リフレッシュ出来ました!!!」
「僕も楽しかったよ、アノンくん。これで明日からトレーニングに集中できる。」
「うん!!みんなが楽しかったなら、よかったよ!それじゃあ、僕はお姉ちゃんのとこ、帰らなきゃ行けないから!!また、学園でね!!」
颯爽と帰っていくアノン。
アノンを通じて、仲良くなった三人。
アノンらしいとその背中を見届ける。
「私達も解散ね」
「名残惜しいです……」
「べ……べつに同じクラスでしょ。フィーラ。」
「っ!!!……ですね!!る、ルビアちゃん!!」
「か、帰るわよっ」
「はいっ!!!」
2人は遊ぶ前よりも確かに仲良くなった様子で帰っていく。
「さて、僕も帰りますか。」
ライムは一人、微笑みながら帰っていく。焦りを見せていたライムだが、ほんの少し気持ちが軽くなったのかもしれない。
ーーーーー。
夏休みはあっという間に過ぎていく。そんな中確実に強さを磨き続ける者がいた。
「……それで?まだ、アノンちゃんに隠すつもりなの?」
「ええ、もちろんです。彼には私がきちんと、二本足で立てる姿を見せたいんです。」
「立派な心がけね。」
暗がり。イリスから指導を受ける一人の少女。
少女は微笑み確実に力を増していた。
「だいぶ様になってきたね、ルネフィーラちゃん。」
ーーーーーー。
「まさか、シルビア・クリムゾンがこの学園にいるなんてね!!!疼くよ……この、傷があっ!!!」
闘技場。
夏休みにも関わらず、訓練を続ける少女。
黒いフードを深く被っており、その素顔はわからない。
憎しみを高め、顔面に巻かれた包帯に触れる。
「あぁあああああっ!!!」
狂気とも思えるその絶叫は、誰もいない深夜の闘技場に響き渡る。
ーーーーーーー。
「あと……すこし。もう少しで掴める……はすだ……君の高みへ……!!」
屋敷の庭。
何日も何日もその力を強め続ける。
その様子を心配そうに見つめるクバーツ。
「ライム……無理すんなよ」
ーーーーーー。
そして日々は過ぎていき、いよいよ進級試験が幕開けとなる。
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