1章 第6話 未来への希望!
アノンはエーテルを使えるようになるため。
シルビアはリベレイトを制御できるようにするため。
2人とも。学園にはいるために、修行を重ね1年が経過した。
メキメキと成長を遂げる2人を見つめるイリス。
そんな光景は彼女は過去の自分と、偉大なる魔導士を思い出さずにはいられなかった。
イリスは決意を固め、成長する2人に希望を見出しているのかもしれない。
「メア師匠、約束果たしますからね。2人なら、きっと。」
ーーーーーー。
「さて、2人とも。最後の修行だ。」
「え?最後?まだ僕、エーテル使えてないよ?」
「私も力を制御出来てません。」
「まあまあ、期限ってことでやってみようよ。ね?」
イリスは微笑み2人の前に立ち塞がる。
修行に行こうとしていた二人は困惑した表情で向き直る。
「もう、タイムリミットですか?」
「そんな!!僕まだやれるよ!!!」
「うーん。まあやればわかると思うよ。とりあえず、挑戦してみてよ。」
イリスは歯切れ悪くそう言うと、構えてみせる。
圧倒的な殺意に、ふたりの全身に緊張が走る。
「さて、最後の修行だよ。……私と戦いなさい!!!」
開始の合図とも取れる気迫。
気圧されるように二人は身体を震わせる。
「そ、そんな!?」
呆気に取られるシルビア。
体全身が冷たくて、思うように動けない。
イリスから視線を逸らした刹那、目の前に現れ腹部に強烈な蹴りを受ける。
「うくっ!?」
「よそ見しない!!!」
「うわぁあああっ!!」
続けざまに手のひらを腹部に押し込み、シルビアは衝撃で吹き飛ぶ。
「だぁああああああっ!!!」
いつの間にか気配を消していたアノンは、イリスの頭上に飛び上がり渾身の一撃をぶつける。
「なっ!?」
その攻撃を指2本だけで止めてみせる。
流石のアノンも驚愕している。
「気配を消した所までは合格。でも間合いの把握ができてないね。」
「くっおおっ!?」
指2本だけでアノンの動きは完全に止まり、そこから離れることも出来ない。
そのまま手首を捕まれ、地面にたたきつけられる。
「がぁあああああっ!!!」
あまりの衝撃に出したことも無い声が自然と漏れる。
たったの数回の攻撃で、ふたりとも立ち上がることが出来なくなる。
「私、遠慮しないよ?」
こんなところで終わらせる気は無いと言いたげなイリス。
シルビアとアノンに向けて掌を向け、呟く。
「ホーリー……」
あまりの痛みから動けなかったふたり。ようやく顔を上げると、閃光が解き放たれる。
「しまっ……!?」
反応するよりも先に閃光がシルビアに直撃。
アノンは反応すら出来ず、至近距離から食らってしまう。
ーーーー。
威力の高さから気がつくと2人は双方離れた所へ飛ばされる。
ボロボロで砂埃の中から咳き込み、体を起き上がらせるアノン。
「お姉ちゃん……よ、容赦ねえ……エーテル使えるようになっても勝てるイメージが湧かないよ……」
エーテルを発動させようとしたり意識を研ぎ澄まそうと努力したが、あまりの攻撃の速さと威力に集中すらさせて貰えない。
「……あれ、でもこの感じ……ぼく耐えれてる……?なら、あとは…踏み込む勇気だけ……もしかして、お姉ちゃんはそれを狙って……?」
だが、そんな中アノンはとあることに気がつく。
もしかするとアノンとシルビアは能力の覚醒を終えているのかもしれない。
あとは単純に覚悟と勇気の問題。
そんなことを思い、アノンは決意を固めていく。
「……世界を……自分を……知るんだ……!!」
ーーーーー。
一方シルビアは、吹き飛ばされながらもエーテルを肉体に張り巡らせ痛みを抑えていた。
シルビアはアノンよりも直感的に能力を発動させていた。
1年にも及ぶエーテルコントロールの賜物だろうか。
最初は緊張して上手く動けなかったが、今なら戦えるはずだ。
シルビアは両頬を叩き、気合いを入れ直す。
「エーテルは肉体の方がコントロールしやすい。まだ未熟な私はこの力で何とかするしかない。……でも吹き飛ばされたおかげで、対応できることがわかった。……やってやろうじゃないの!」
じぶんのつらいかこ。人を傷つけてしまった過去。
そんな過去があって、もう同じ思いはしたくなくて、踏み出した。
「今更、躊躇わない!今の私には……信じてくれるアノンやイリス師匠がいるんだから!!!」
ーーーーーー。
「そろそろ来るね」
刹那、イリスが呟いた通り、2人は中距離を保って戻ってくる。
「お姉ちゃん、僕その領域に踏み込んでみるよ!肉体の外側の力エーテル、解放させる!!!」
強い決意をするアノン。
一瞬、シルビアに視線を送り、シルビアはうん、と頷く。
1年間、お互いに目標は違えど共に過ごした時間が信頼を形作っている。
そして、アノンは戦闘中にも関わらず瞳を閉じ、脱力する。
そのまま力無くその場に倒れるアノン。
まるで死んだかのように呼吸も鼓動も聞こえなくなる。
「無理やりたどり着くつもりだね?アノンちゃん!させると思う!?」
アノンの行動の意味を理解すると、再びホーリーを放つ。
アノンとイリスの間にシルビアが割って入り、ホーリーを受け止める。
「へえ、受け止めたか。」
「ぐっ!!!いつも背中を押してくれる無邪気なやつ………でも、私はそれで進める!!!」
シルビアは両手でホーリーを押さえ込んでいたが、左の手を離す。
「私も恐れない!!!自分の力を信じる!!!」
さらに集中力を高め、人差し指のみで、受け止める。
「分散は効率が悪い!!!一点に集中させて……貫く!!!!」
凄まじい集中力によって一点に集中していくエーテル。
大きな力がホーリーの一点に集中し、中心から爆発させる。
「はあ、はあ……やってやったわよ!!!師匠!!!」
肩で息を整えながら、微笑むシルビア。
「やるじゃん!シルビア!!」
満足気に微笑むイリス。
「いっけぇえええっ!アノン!!!!」
叫ぶシルビア。アノンはシルビアを信じ、シルビアはアノンを信じる。
分かっていたんだ。アノンがエーテルに目覚めることを。
だが、イリスは背後から迫るアノンにも、もちろん気がついている。
「はあぁああああっ!!!!」
背後から解き放たれるアノンの拳。
いとも容易く受け止めるが、アノンはさらに加速し側面へと移動する。
ノーモーションで放たれる高速の蹴り。
上手く肘を使ってさらに防ぐ。
一瞬のうちに30発ほど目に見えない攻防が繰り広げられる。
「凄い!すごいよ!アノンちゃん!君のエーテルの高まり!たどり着いたんだね!」
イリスは微笑んでみせると力み集中を続けているアノンに、もう一撃返す。
「でも、力みすぎだよ!」
「へへっ!僕は1人で戦ってないよ!お姉ちゃん!!………僕は君を信じてる!シルビア!!君ならできる!!!」
結果的にはアノンが吹き飛ばされるが、シルビアから更なる力の高まりを察知し振り返る。
「うそっ!?」
「もう、見失わない!!!だって、アノンが信じてくれてるから!!!あの時の私とは違う!!!……これが私のリベレイト!!『フレイム』!!!」
両手から繰り出される巨大な火球。
以前のような大爆発ではなく、綺麗に出力を調整されている。
エーテルを纏えるものであれば、傷を負うことはないだろう。
「いいよ!2人とも!最高だ!!!さすがに本気出すしかないよ!?」
イリスは微笑むと、肉体から黒く染った瘴気を発生させる。
直撃を喰らうが、イリスに触れた途端瘴気に飲まれ火球は消滅する。
「そ、そんなあ!」
吹き飛ばされ、倒れ込んでいたアノン。
苦笑いをしながら眠りにつく。
「くっ……だめ……か!」
シルビアも力尽きたようでその場に倒れる。
「何言ってんのよ、『合格』に決まってるじゃない。」
ーーーーーー。
いつものベッドで目を覚ますアノン。
寝ぼけながら起き上がる。
ベッドに手を着くと違和感が走り、右手の中指に視線を送る。
そこには見慣れないアヤメの花があしらわれた指輪がしてあった。
「こ、これって!!!」
ーーーーー。
「おはようございます師匠、私どのぐらい寝てました〜?」
寝ぼけながらふにゃふにゃ話すシルビア。
イリスはご飯支度をしながら、振り向く。
「3日ぐらいね〜体はどう?」
「だるおもです〜」
「じゃあこれはいらないかな?」
そう言うと、イリスの両手にはサルビアの花とバラの花がデザインされたリボンが握られている。
「これは……?」
「本当は指輪あげるんだけど、シルビアちゃんはもう貴族で持っているでしょ?」
指をさされ右手の人差し指を見る。
するとそこにはクリムゾン家の赤い指輪がはめられている。
貴族の証だ。
「だから、これをあげようと思って」
「ま、まさか!!!これって!!!」
「シルビア!!!ぼく!僕ね!!」
「アノン!!!私!私も!!!」
待ち望んでいた証明。
寝室からそのまま走ってきたアノン。
アノンを起こしに行こうとしたシルビア。
2人は顔を合わせ互いに指輪とリボンを見せつける。
「「合格した!!!!」」
2人はイリスに認められたことに気がつくと、声をハモらせて喜ぶ。
そこにはなんとも素敵な笑顔があった。
「1年もよく頑張りました!2人とも、合格よ!……これからも頑張ってね!!!」
「「はい!!!!」」
イリスは微笑みながら2人を抱き寄せ、微笑む。
そこにはかつてメアと過ごした記憶があったのかもしれない。
成長する弟子の姿はかつての思い出と共に新たなページを刻む。
2人は1年もの修行の末、ついにイリスに認められることとなった。
当初の目的であった力を制御すること、エーテルを獲得すること。
そのふたつはイリスとの戦いの中で手に入れた。
2人は戦いの中で、自分の成長を実感し、恐れずに勇気をだして能力を覚醒させたのだ。
もしかすると、それはイリスが最初から見抜いていたことなのかもしれない。
でも確かにそこには自分で考え実践し、踏み出したからこそ手に入れたモノがあった。
何も分からず異世界にやってきたアノン。
だが、今の彼は目標を持ち、未来への希望を託されたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます