1章 第5話 特訓!
英雄イリスの元で暮らすことになったアノン。
そして、シルビアと共に弟子入りすることとなった。
「学園に行くと言っても、王都側から認められた者から推薦を貰う必要があるってわけ。」
「つまりイリス……師匠に認められる必要があるってことですね」
「そーいうこと!わかったかな、アノンちゃん。」
「つまり、強くなればいいってことだよね!」
「全然違うわよ!全く脳筋なんだから」
「えっへへ!違ったか!」
風吹き抜ける森の中。アノンとシルビアはイリスから指導を受けようとしていた。
英雄と呼ばれるイリスから指導を受け、認められる。
それによって、ようやく学園へと入ることが出来るのだ。
「まず、アノンちゃんは、この世界の基本的なことを学ぶこと。そして、エーテルを使えるようになること。これが最低条件だね。」
「おっす!わかったよ!お姉ちゃん!」
「よろしい!そして次にシルビアちゃん!」
「は、はい!師匠!」
「君は基礎的な知識はある。だからこそ偏った知識に陥りやすい。……だから規格外なアノンちゃんと過ごすことは大きな経験になると思うよ!」
「そ、そうかもしれません。」
「うん!いいね!それから、約束していた力の制御はゆっくり私とやっていこう!……それでいいかな?」
「はい!よろしくお願いします!!」
ーーーーーー。
「じゃあ、アノンちゃん!この森を好きなだけ回ってくるんだ。この森にはたくさんの魔物が生息している。沢山戦って、沢山経験をしてくること!これが今日の課題だよ。」
「え?それだけでいいの?余裕だよ!」
「まあまあ、やって見ればわかるよ。魔物の勉強になるし、君のパワーだけじゃ倒せない魔物もいるだろう。経験は知識と共に力となる。さ、行ってきな!」
「なるほど!!!わかったよ!!!行ってくる!!!」
アノンは納得してみせると瞳を輝かせながら、森の中へと消えていく。
ーーーーーー。
「次にシルビアちゃんだ。エーテルは使えるね?」
「はい!」
「いいね!纏ってみよう!」
「了解です。……エーテル解放。」
シルビアが呟くと赤いオーラが彼女を包み込み、闘志が漲る。
「うん、いいね。じゃあこれを破壊してみよっか!何日かかってもいいからね」
イリスがそう言うと、どこからともなくシルビアの目の前に藁人形が現れる。
「えっと?」
藁人形はシルビアと同じ背丈で、体の至る所に魔法陣が描かれていた。
「まあやってみれば、分かるよ。シルビアちゃんは賢いからノーヒントね。じゃ、頑張ってね。」
「あ、あの!リベレイト使ってもいいんですか!?」
「いいけど、森燃やさないでね?」
「それって使うなってことじゃないですか……」
「どうかな?私はそう思わないけどね。ま、無理せずのんびりやるといいよ。」
「仕方ない……やってみるしかない!」
シルビアは決意を露わにして、構えをとる。
イリスはその様子を見て安心したように家の中へと入っていった。
ーーーーーー。
「っ!はあ、はあ!僕の攻撃、全然当たらない!!!」
アノンは森の中で魔物と戦っていた。
最初のうちは簡単に魔物を倒し進んでいたアノン。
だが、今対峙している魔物だけは苦戦を強いられていた。
鳥のように空を舞う魔物。
翼を使って、空を自由に駆け回り、アノンの攻撃は届かない。
「降りてこいよ!卑怯者!」
イタズラに体力ばかり奪われ、アノンは疲労困憊だ。
「く、くそぉ、当たれば絶対倒せるのに!!!」
ーーーーーー。
「なによ!この藁人形!全く壊れないじゃない!!!」
エーテルを纏い何度も攻撃を繰り出すが、微動だにしない藁人形。
拳はヒリついて、もう攻撃は繰り出せそうにない。
「こうなったら、剣でやってやる!!!」
腰の鞘から剣を抜き、斬撃を放つ。
刹那、藁人形に触れた剣はとんでもない威力で跳ね返される。
「うわあっ!?」
あまりの威力に体勢を崩し、倒れるシルビア。
「くそおっ!!!」
ーーーーーー。
それか10時間が過ぎ、2人はヘトヘトになって帰宅する。
ご飯とトイレ以外ほとんど休まず、修行に明け暮れる二人。
過酷な修行は始まったばかりだ。
ーーーーー。
翌日。同じメニューで再開される修行。
2人は思考をめぐらせながら、再挑戦する。
「昨日と同じだと思うなよ!魔物さん!!!」
アノンは、魔物に向かって宣戦布告する。
大きな袋から弓矢を取り出し、魔物目掛けて放つ。
「くっそ!外した!!!」
何発も放ち続けるが、簡単に避けられてしまう。
想像の倍疲労を感じるアノン。
「な、なんだこれ。ちょっと弓つかっただけなのに、すごい疲れる」
アノンは昨日から極度の集中状態に入っていた。
そして弓というさらに集中力を要する作業に視界が暗くなる。
一瞬意識を失いかけるアノン。
刹那、昨日イリスと交わした会話を思い出す。
ーーーーーー。
「いいかい?アノンちゃん。エーテルに人間が目覚めたのは魔族と戦うためだ。極限状態の集中したときに偶然、外のエネルギーに意識が向いたんだ。」
「極限状態の集中……」
「そう、肉体の外側。体の外に流れるエネルギーを理解するには、それだけ強く意識を研ぎ澄ます必要があるんだ。」
ーーーーー。
「……意識を研ぎ澄ます……!!」
アノンは思い出したかのように、意識を体の外へと向ける。
瞳を閉じ、視覚情報をあえて遮断し、外のエネルギーに意識を集中させる。
刹那、猛スピードで迫る魔物の気配を手に取るように感じ取る。
「そこだあああっ!!!!」
瞳を開けると、瘴気とともに消えていく魔物。
「た、たおしたあ!」
達成感と疲労感により、膝を着くアノン。
「はぁはぁ、でもこれじゃない。これはまだ、体の内側だ。……僕はまだ肉体にとらわれてる!」
ーーーーーー。
「……エーテル解放。」
一方シルビアはエーテルを高めるが、昨日とは異なり剣にエーテルを込めていく。
「昨日、剣で攻撃した時跳ね返ったのは物理攻撃だったからだ。……剣に集中させれば、跳ね返らない!!」
試すように解き放つ斬撃。
跳ね返ることは無いが、藁人形は微動だにしない。
「やっぱりね!…でもこれじゃあ、ダメ。肉体に纏った時と変わらない!」
シルビアは分析すると、今度は剣先にエーテルを込めていく。
「これなら、どうだあっ!!!」
突くように剣を解き放つ。すると驚くほどすんなり、剣の刃先がめり込む。
「っ!?やっ、やった!!入ったわ!!!」
1歩前進したことで、喜んでみせるシルビア。
2人とも着実に成果を見せていた。
ーーーーー。
「ああ!もう!今度は的が小さいし動きが早い!!これじゃあ当たらない!!!」
またまた新しい魔物に遭遇するアノン。
どうやら、さらに苦戦しているようだ。
ネズミのような小さな魔物で、かなりスピードが早い。
意識を集中させて、拳を繰り出すが、直前で避けられている。
また、小さいため先程よりもさらに意識を集中させる必要があった。
「こんにゃんろぉ!!!待ちやがれ!!!」
ーーーーーー。
「だ、ダメだ!一点に集中すると想像以上にエーテルを消費しちゃう。攻撃が通ってもこれじゃあ、私がもたない!」
なんとか攻撃を通すことのできたシルビア。
だが、もともと意識を集中させる必要のあるエーテルをさらに一点に集中させるのは至難の業だ。
一度成功したものの、2度目、3度目と繰り返すうちに集中が途切れたり、シルビアのエーテルが枯渇したりと問題は山積みだ。
しかも、この藁人形適切にエーテルを込めないと、攻撃が跳ね返る仕様になっている。
一点に集中させ、適切にエーテルを込めなければ、強い攻撃となってはね返る。
想像以上に精神をすり減らす修行だ。
「くそ!こんな人形、焼き尽くしてやる!!!!」
案の定、シルビアは限界を超え、リベレイトを解放させる。
「あぁああああああっ!!!」
シルビアから溢れ出す炎。
刹那、シルビアの中でサクラの悲痛な表情が浮かぶ。
「あああっ!?なに、やってんのよ!私!!!だめだめだめ!!!」
暴れかけた意識の中、なんとか力を抑えることに成功する。
「はあ、はあ、だめね。休憩しないと…」
クタクタになりながら、その場に横になる。
本人は気がついていないが、以前なら暴走させそのまま森を燃やしていたことだろう。
自制心によって出力を抑えることに初めて成功したのだ。
確実にシルビアの力になっているだろう。
ーーーーー。
それから、早いもので1年が過ぎようとしていた。
アノンはイリスに仕立ててもらった衣服をまとい、森の中を飛びまわる。
もうすっかり森は彼の庭だ。
半袖の白いシャツにクロの長袖インナー。ズボンは動きやすい青色で膝丈だ。
風を感じながら木々を飛びまわり、移動しながら魔物を倒していく。
意識することなく、魔物を探知し拳を繰り出していく。
地形を利用し盛りの中を飛びまわり、地面を走れば目にも止まらない速さだ。
自分の身体能力を最大限活かしながら戦っている。
過酷な環境の中で自然と身についた力とも言えるだろう。
だが、まだエーテル獲得には至っていない。
ーーーーーー。
シルビアはコーデを一新し、白のブラウスに黒のフリルスカート、ロングブーツを合わせた服装がお決まりとなっている。
修行では剣を使うのをやめて、拳の一点にエーテルを込め藁人形に解き放つ。
魔法陣の一つ一つに拳を叩き込み、藁人形の姿勢を崩すところまでは成功している。
だが、時間が経つと藁人形は再生し、再び起き上がる。
シルビアもまた、力のコントールには至れていない。
ーーーーー。
「うんうん。ふたりともいい感じで仕上がってきてるね!」
「お姉ちゃんスパルタだよねー!こんなにきついとは思わなかったよー!」
「2人がすごく頑張ってくれるから気合い入れちゃって!ごめんね!」
「早く認めてもらえば、この地獄も終わります。アノン、行くわよ。」
「うん!シルビア、今日も頑張ろう!」
「はは、ふたりとも逞しくなってきたね!」
昼食。
イリスに振る舞われ、黙々と2人はご飯を食べる。
この後は勉強の時間だ。
修行の成果を確実に上げる二人。
2人に合わせて次々とイリスは課題を増やしている。
最初の課題は午前中のみで昼からは勉強の時間と読書の時間。
知識と集中を高めるために必要な時間だ。
それが終わったあとは息が続くまで水の中に潜ったり、地中から外に抜け出すというような過酷な状況からの脱出を行った。
これは精神力を鍛えるための特訓だそうだ。
エーテルやリベレイト、これから手に入れるかもしれない力の数々は魂にさや精神の力を強く受ける。
そのために肉体だけではなく心も鍛えるという目的がある。
最初のうちは混乱していた2人だが、今ではイリスに突然水の中に沈められても、土の中で目を醒めしても、冷静に対処している。
二人はイリスの猛烈な特訓を乗り越えつつあったのだ。
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