1章 第3話 封印されし魔王!


 無事に魔物を倒した2人。向かうは英雄イリスの元だ。

 

 道中2回も魔物と遭遇しクタクタなシルビア。

 

 楽しそうに隣を歩く少年。

 

 2人はようやく森の奥へとたどり着いた。

 

 ーーーー。

 

 「ここがイリスさんのお家?」

 

 少年が指さす方向には古びた木の家があった。

 

 三角屋根に丸太を積み上げたような壁。

 

 周りはツタや葉に覆われている。

 

 家の中からは魔物と同じく瘴気が漂っており、不気味さを感じる。

 

 「入ってみれば、分かるわ。行きましょう。」

 

 「そうだね!」

 

 物怖じすることなく2人は扉を開けた。

 

 ーーーーー。

 

 扉を開けても人の気配はまるでなく、瘴気が強く漂っているだけだ。

 

 中も真っ暗で視認できない。

 

 「誰もいないよ?」

 

 「おかしいわね……この森に住んでるはずなんだけど……」

 

 刹那。

 

 家の周りに張り巡らされたツタや枝、植物たちが動き出す。

 

 「……なに?」

 

 僅かな音を聞き分けたシルビアだったが、疲労していたため簡単に捉えられ足首に植物が巻き付く。

 

 「うぁあああっ!!」

 

 「シルビアっ!!!」

 

 異変に気がついた少年であったが、足が全く動かないことに今更気がつく。

 

 「足、足が動かない!!!」

 

 「は、離れなさいよ!!」

 

 シルビアは暴れるが、宙吊り状態で身動きが取れない。

 

 一方少年も地面にどんどん沈んでいき、手をバタバタとさせて抵抗している。

 

 「おわっ!なんだこれ!?」

 

 「罠よ!罠!!イリスって用心深いのね!!!」

 

 「罠!?なんでそんなことを!?お家に遊びに来ただけだよ!」

 

 「知らないわよ!英雄ともなれば、色々事情があるんじゃない!?」

 

  「なに分析してんだよ!ボク埋まっちゃう!!」

 

 「いつもの馬鹿力で何とかしなさいよ!!」

 

 「シルビアこそ、リベレイトして逃げればいいじゃん!」

 

 「無理!さっき使い切ったわよ!」

 

 危機的状況に言い争いをする2人。

 

 ふたりとも超人的な力を持つが、まだまだ子供。

 

 力だけではどうにでも出来ない状況には不慣れだ。

 

 そんな言い争いをしていると、中から声が聞こえてくる。

 

 「あらあら。ごめんねー。今なんとかするからね。」

 

 大人びた女性の声がし、指を鳴らしたような音が響く。

 

 すると、2人を拘束していた土や植物は動きを止め、解放する。

 

 「どぅわあああああっ!!!」

 

 宙吊りにされていたシルビアは真っ逆さまに落ちる。

 

 だが、目に見えない速さで中から女性が飛び出し、抱き抱える。

 

 「ナイスキャッチー!怪我はないかな?」

 

 「あ、ありがとうございます。」

 

 現れた女性は黒のローブを纏う灰色の髪をした綺麗な人だ。

 

 「立ち話もなんだし、家入る?」

 

 女性はシルビアを下ろすと家の方を指さし、2人に視線を送る。

 

 「あ、はい。」

 

 「はいる!はいる!入ります!」

 

 「よろしい!では、いらっしゃい。かわいい男の子くんと可愛い女の子ちゃん。」

 

 ーーーーー。

 

 女性に案内され中に入ると、暗闇が2人を襲う。

 

 「ああ、ごめんね。見えないか。『ホーリー』」

 

 女性は謝りながら唱えると、指先から綺麗な光を形成する。

 

 「ホーリー……光属性のリベレイト……ですね。」

 

 「そだよー!物知りだねえ!」

 

 「すっげえ!光ってるよ!シルビア!!」

 

 「見ればわかるってば。」

 

 女性の放つリベレイトのおかげで、部屋全体が明るくなり瘴気が消えていく。

 

 すると部屋にも何も無いことが明らかとなる。

 

 「なんも無い部屋ですね!」

 

 「なんも置いてないからねー。こっち、着いてきてね。」

 

 部屋の奥、言われるがままついて行く。

 

 すると、台の上に水晶が置いてある。

 

 「ここがおうち。入ろっか。」

 

 ニコッと微笑むと、女性は2人の手を引き水晶の中へと飛び込む。

 

 「えっ!?」

 「おわっ!?」

 

 理解できない2人は焦ったように声を漏らすが、数秒後身体が水晶の中へと溶け込んでいく。

 

 刹那、閉ざすように部屋全体は黒く染まり、家の扉は閉じていく。

 

 ーーーーー。

 

 「うっ……」

 

 恐る恐る瞳を開ける二人。

 

 そこにはオシャレな部屋が形成されていた。

 

 シックな色で染められ、綺麗な装飾や家具が取り揃えられている。

 

 中央には丸いテーブルと背もたれ付きの椅子があり、女性は向かい側の席へと座っている。

 

 「さあ、座って座って。」

 

 困惑しながら促されるように座る2人。

 

 瞳を閉じ、ふたたび女性が指を鳴らすとクッキーやチョコレート、カップに注がれた紅茶が出てくる。

 

 「私はイリス。イリス・グレイス。……いらっしゃい、可愛いお客さん。」

 

 そう、彼女こそが伝説を継ぐ英雄イリス。その人である。

 

 ーーーーーー。

 

 「すご!めちゃ綺麗!!!お菓子うま!!!お茶もいい匂い!!!」

 

 次々に新鮮なリアクションを見せる少年。

 

 嬉しそうにお菓子やお茶を堪能する。

 

 そんな少年を他所にシルビアは警戒した眼差しをイリスに向ける。

 

 「名乗ってくれないの?シルビアちゃん。」

 

 「どうして、私の名前を……?」

 

 「そりゃあ、あの炎の悪魔を知らないわけないじゃない。」

 

 「くっ!!!!」

 

 炎の悪魔。その言葉がシルビアの感情を逆撫でする。怒りに任せてテーブルを叩く。

 

 その揺れによってテーブルのお菓子が落ちる。

 

  「ちょっと!シルビア!お菓子落ちたよ!もう!」

 

 2人の空気をまるで感じとれていない少年。

 

  少年は何も考えずお菓子を拾っていく。

 

 構うことなく、イリスは怪しげに話を進める。

 

 「落ち着きなさいよ。シルビアちゃん。私に用があって来たんでしょ?」

 

 動じることなくお茶を飲むイリス。

 

 その灰色の瞳は怪しげにシルビアを映す。

 

 「その前に質問させてください。」

 

 「なあに?」

 

 「……あなたは魔族ですよね?」

 

 「だったらどうするの?」

 

 「魔族?魔物さんとは違うの?」

 

 「……帰ります。」

 

 「ふーん。私は全然いいけど。勿体ないかなって思うかな。」

 

 「どういう意味ですか?」

 

 「私なら、あなたの望みを叶えてあげられる。力の制御、覚えたいんでしょ?」

 

 「っ!!」

 

 「シルビア?なんか怒ってる?」

 

 ようやく険悪な雰囲気を察知した少年。

 

 そんな声掛けに気が付かず、2人は睨み合いを続ける。

 

 何度目のスルーだろうか。少年は「おーい!ふたりともー!」と声をかけている。

 

 「あなたの狙いはなんですか?」

 

 「人と魔族の共存。……あなたにはその初めのひとりになって貰えるかなって。」

 

 「人と魔族は戦争しているんですよ!!!無理に決まってます!!!」

 

 「もう20年も前の話でしょ?今は膠着状態。」

 

 「でも魔族は人を殺します。街も破壊します。そう教えられてきました。」

 

 「……魔族も人間に家族や仲間を殺されてるわ。」

 

 「っ……。」

 

 「魔族をよく思わないのは当然。人として生まれたのなら。…わたしが特殊なだけ。……勘違いしてるけど、私も人間よ。」

 

 「えっ?」

 

 「魔力をたまたま強く浴びたせいで、人間にも魔族にも敵対する立場になってしまった。それだけよ。」

 

 「だから、魔王討伐の旅に出たんですか?」

 

 「まあちょっと違うけど。今はその理解でいい。で?私は魔族では無いわけだけど、どうするの?私の弟子になる?」

 

 「わ、私は……!」

 

 「もう!二人で話し進めて全然わかんないよ!」

 

 言葉を遮られるシルビア。

 

 2人のなんとも言えない空気を少年が壊す。

 

 ずっと2人に話しかけていたが、もう我慢の限界なのだろう。

 

 知らないワードが出る度、間に割って入ろうとしていたのだ。

 

 「ああ、ごめんね。君は私に用あるのかな?」

 

 苦笑いをしながら、答えてくれるイリス。

 

 怪しげな雰囲気があるが、根は優しいようだ。

 

 きっと彼女にも何かしらの目的があるのだろう。

 

 「用?……うーん。あっ!そうだ!僕にこの世界のこと教えてくれませんか?僕記憶喪失で!!!」

 

 二人の会話を聞いていたからだろうか。

 

 間違いなくイリスは深い事情までこの世界のことを知っている。

 

 流れで着いてきた少年だったが、記憶を取り戻したいとは思っているようだ。

 

 世界を知ることが、記憶を失ったヒントになると思ったのかもしれない。

 

 「記憶を?」

 

 「うん!ぜーんぶなくて!」

 

 何か思うことがあるのか不思議そうに少年の頭に触れるイリス。

 

 「えっへへ、くすぐったいよ!」

 

 人に触れられ慣れていないのか、恥ずかしそうな顔を浮かべる少年。

 

 気にすることなく意識を集中させるイリスであったが、弾かれるように手を離す。

 

  「……いたっ!?」

 

 「イリスさん?」

 

 「……私の力でさぐれないなんて……。」

 

 「なにか、わかったの?」

 

 「ええ。あなた、記憶を失ったのではなく『記憶を奪われている』みたい」

 

 「奪わ……れた?」

 

 「そうよ。残っていた記憶は別の世界から来たこと、なにか目的があったこと……このふたつだよね?」

 

 「うわぁ!!!すごいね!なんでもお見通しだ!」

 

 「別の世界……。通りで強いわけか。こっちの世界の常識の外にいるんだもの。」

 

 イリスの不思議の力に驚く少年。

 

 シルビアは少し少年のことを知れてほっとした様子だ。

 

 「……とにかくあなたの存在は誰かにとって都合が悪かった……そう思う。」

 

 「都合が悪かった?ほかの世界から来てるっていう記憶が?……なら、簡単な話殺してしまえばいいじゃない。」

 

  「怖いこと言わないでよ!シルビア!」

 

 「殺そうとした……けど、殺せなかった。それで仕方なく記憶を消したと解釈したら?……その人と同等の力、それ以上を持っていた。少なくとも、私以上の。」

 

 「いやいや、言ってる意味わかってます?だとしたら記憶を消したのはあなたより強いひとってことですよ?……英雄イリスより強い規格外の存在。そんなの一人しかいないじゃないですか」

 

 「……20年前、メア師匠が封印した災厄。『魔王サタエル』」

 

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