1章 第2話 伝説を継ぐもの!
突如魔物に襲われた少年。
だが、超人的な力で見事倒すことが出来た。
あまりの衝撃的な出来事に驚愕するシルビア。
開いた口が塞がらない、そんな状況だ。
「まも、魔物、魔物をい、一撃で……!?」
「あれ!?ダメだった!?……魔物さん命を感じないし、シルビアも倒していいって言ってたから!!……うう、ごめんなさい!!!」
少年は焦ったように魔物がいた場所に手を合わせる。
もうそこに魔物はいない。跡形もなく消えている。
この世界における魔物は魔力の塊。
魔王が作り出した人々に危害を加えるだけに作られた存在だ。
本能でそれを理解したのか、はたまた初めから知っていたのか少年は命を奪ったわけでは無い。
だが、シルビアはそんなことに驚いているわけでは無い。
「……はあ。わかったわよ、行くわよ。」
「え?」
シルビアは観念したかのように、先に進む。
呆気に取られ困惑する少年。
その様子を見てシルビアは振り返る。
「ほら、行くわよ。倒してくれたお礼に約束守るわ。」
「本当!?やった!!!!」
ようやく少年のことがわかってきたのか、深く考えるのをやめたようだ。
少年はシルビアの返答に喜んでみせる。
「危ない目に遭わせて悪かったわね。……『知らないこと』が多いと危険な目にあうわ。」
「あ、うん。そうだね。気をつける。」
シルビアは何事もなくて良かったと安堵する気持ちと自分の不甲斐なさを感じていた。
どこか抱えているようなシルビアの面持ちに少年は素直に反省してみせる。
ーーーーーー。
森の奥へとさらに進む2人。
歩きながら、少年の疑問にシルビアは淡々と答える。
「あんたも分かってるように、魔物に命はないわ。人を襲う危険な存在よ。逃げるに越したことはないわ。」
「よかったあ、倒しても良かったんだね!安心!安心!……でも倒すの大変なんだあ。……シルビアも強そうだから勝てそうだけどなあ。」
「まあ、森じゃなかったら何とかなる……かもしれないわ。」
「というと?」
「私には炎のリベレイトが使えるの。」
「リベレイト……って?」
「人が持つ外側のエネルギー『エーテル』。それを解放し具現化する力のことよ。」
「すっごい!!!!やって見せてよ!!!」
「はあ。話聞いてた?こんなところで使える訳ないでしょ?」
「あっ!そっか!確かに危ないね!!」
「そう、だからエーテルを使って逃げるしかないのよ。」
「へえ、じゃあそのエーテルっていうのはどんな力なの?」
「肉体の外に広がる力ね、簡単に言うと。……目に見える物質的なエネルギー、そして外に広がる精神的なエネルギー。大きな括りの二つがあることで肉体は存在するって、考えられているのよ。」
「へえ!体の外と内ってことだね!」
「そうね。……エーテルは内側の肉体を支えてくれている力なの。そしてその外にある高次元の力にアクセスできるのよ。」
「すっごい力なんだね!!!」
「私たちの記憶や感情、思考、知識、運命でさえも外側のエネルギーから強く影響を受けているの。」
「じゃあ意識したり身に纏ったりできたら、すごい力が出るってことなんだね!!!」
「まあ、そういうことね。身体能力を2倍以上に引き出すって言われてるわ。リベレイトなら5倍以上。」
「す、すごいよ!!!僕も使えるようにならないかな!?」
「とんでもない化け物の誕生ね。そんなの。ま、そんな簡単には身につけられないけどね。」
「えぇ〜なんでそんな酷いこと言うのさ〜」
「魔物はリベレイトを使ってようやく倒せるような相手よ。……あんたは余裕で倒せるんだからいいじゃない。」
「そうかなあ?だって強かったらかっこいいじゃん!」
呆れながら話を進めるシルビア。エーテルの力に興味津々な少年。少年は興奮したように言い放つ。
「強い力なんて……危険なだけよ。」
「シルビア……?」
どこか思うところがあるのか強い力に不快な表情を見せるシルビア。
流石の少年も何かを感じとったのか心配する。
「なんでもないわ。……目的地の話をしてなかったわね。」
「そうだった!どこ向かってるのか気になってたんだよ!!!」
「人を探しているの。」
「ひと?どんな人!?」
「……伝説を継ぐ英雄『イリス』よ」
「伝説!!!英雄!!!」
興味の引くワードの数々に興奮してみせる少年。
刹那。
森の影に怪しく光る無数の光。
その光が2人を捉える。
「っ!どうやら囲まれたようね。」
「もう!また魔物さんか!今いい所なのに!」
「さすがに逃げられないわね……囲まれてる。」
「……シルビア、大丈夫?」
「私じゃ、倒しきれないわ……どうにかできる?」
「僕が倒すまで耐えてて!……なんとかする!!!」
「無茶言うわね!!」
2人は戦闘態勢となる。
2人の闘志が合図となったのか茂みから10体ほどのオオカミのような魔物が現れる。
「虫さんの次はオオカミさんか!色んな生物がモデルなんだね!」
「呑気ね!!行くわよ!!」
「あいさー!!」
相変わらずマイペースに話す少年。リベレイトを使えないシルビアは切羽詰まった様子。
そんな中戦闘は開始される。
「えい!やあ!てえええい!!」
少年は掛け声とともにどの魔物も一撃で仕留めていく。
飛び上がった一体を右の拳で、近くにいたもう一体に左の拳で撃破。
走って反対側の一体に強烈な蹴りを、ジャンプして打ち付けるようにもう一体を撃破。
シルビアは腰の剣を抜くと意識を集中させる。
「……エーテル、解放。」
その言葉と共に全身に赤いオーラを身にまとい、魔物に対峙する。
少年と出会った時よりもかなり意識を集中させているのわかる。
シルビアは表情を強ばらせると、剣を構え前方の魔物に突撃する。
そのスピードは普通の人間であれば見失うほどのスピードだ。
一瞬で間合いを詰め、何度も切りつける。
「ギャルルル!!!」
しかし、致命傷には至らず魔物は威嚇するように喉を鳴らす。
「ちっ、やっぱりダメか!!!」
舌打ちをし後退するシルビア。
その速度もまた恐ろしいほど早く、一瞬で元の位置に戻る。
再び意識を集中し、思考するシルビア。
だが、囲まれている状況に変わりはなく背後から魔物が飛び上がりシルビアを襲う。
「しまった!?」
「シルビア!!!」
魔物に襲われ体勢を崩し、魔物の牙や爪がシルビアを傷つけていく。
「あああっ!!!」
「シルビア!!!くっそお!!!」
少年は焦ったようにシルビアに駆け寄るが、前方後方と魔物が現れ進路を妨害される。
「なんだよ、もう!!どんどん湧いてくる!!!」
倒しても倒しても森の奥から魔物が出現し、気がつけば少年はシルビアからかなり離れている。
「ちっ!!離れなさいよ!!!」
シルビアはなんとか噛みつかれるの剣で抑えているが、時間の問題だ。
「シルビア!!!炎、炎だよ!もう使うしかない!!今は森のことより、君の命だ!!!力を使うんだ!!」
「……っ!!嫌!!いやよ!!無理!!」
「でも!!死んじゃう!!!」
「嫌なものは嫌!!……サクラを傷つけたこんな力!!!使える訳ないでしょ!?」
「……え?」
少年は叫びながらシルビアに着々と近づく。
だが、その姿はまだ遠い。
対するシルビアはどんどんと力負けしている状況だ。
どう考えても力を使うべきだが、強く拒絶する。
「私はこの力で!!大好きな親友を傷つけたの!!」
「でも今は状況が違う!!魔物は倒してもいいものなんでしょ!なら暴れちゃっていいじゃん!!」
「違う!!!あんたを巻き込む!!巻き込んじゃうの!!!私の力は大きすぎるの!!!」
「大丈夫!!僕を信じて!!絶対傷つかないから!!!僕はシルビアを失いたくない!!!『友だち』になりたいから!!!」
「っ!!!」
きっとシルビアには想像も出来ないほど辛い過去があるのだろう。
そして人や自然、命を傷つけることに強い抵抗があるのだ。
その全てが自分の責任であると強く抱え込んでいる。
だが、そんな拒絶など気にせず少年はまっすぐシルビアに向かってきてくれる。
友達になりたい。
その言葉がシルビアの心を熱く燃え上がらせる。
「なんなのよ!!あんた!……でも、信じたからね!どうなっても知らないわよ!!!」
「うん!見せてよ!シルビアの本当の力!!!」
「リベレイトぉおおお!!!!」
刹那、少女の叫びが大きな爆発を巻き起こす。
一瞬で炎に包まれ次々に魔物を消滅させていく。
大きすぎるその爆発は、一度収束しそしてまたさらに拡散する。
爆音とともに視界は真っ白に染まり、辺り一面の木々を灰にしていく。
「……はあはあ。」
肩で息をしながら、立ち上がるシルビア。
想像を絶する威力。
近くの生い茂っていた木々はもう見る影もなく朽ちている。
魔物たちの瘴気がそこら中に溢れ、壮絶さを物語っていた。
「また……私は……」
過去の苦しみだろうか。
その光景はシルビアの心を強く痛めつける。
力無く膝をつき後悔が止まらない。
「こんなことにならないために……イリスの力が必要なのに……!また私はっ!!!」
「そうそう!イリスさんに逢いに行くんだよね!!」
刹那、耳に馴染んだ声がしてシルビアは顔を上げる。
そこには少年が笑顔で立っていた。
「無事だったの?」
「うん!シルビアが信じてくれたからね!」
「……あんた本当に何者なのよ」
「えっへへ!何者なんだろ?わかんない!」
「本当に……呆れるぐらい、強いのねあんた。」
「……へへ!でもそのおかげでシルビアと一緒にいれるね!」
「……そうね」
眩しいぐらいの笑顔。
シルビアは仕方がない、というように微笑んでみせる。
少年の真っ直ぐな心は僅かばかり少女の心を癒した事だろう。
「じゃあ行こっか!英雄イリスの元へ!!」
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