第6話 6人の推理が冴え渡る

ギルバード先輩は続けて、みんなに言い聞かせるように話し始めた。

「今回の暴走事故、それに実行犯の殺人も複数に上っている。誰かが責任を取らなければ、ケジメというものが付かない」

ポットからカップに紅茶を少し注いで、言葉を繋いだ。

「そして、列車が大破した以上、ここの村人が気付かないはずがない。警察を呼ばれると考えた方がよさそうだ。また、諸君は、容疑者の汚名を着せられて、連行されていくことになる。さらに、逃げ切れたとしても指名手配の対象となって、地の果てまで追い掛けられる。だから、学園に戻るどころか、むしろ、遠のくわけなのだよ」

言葉を重ねるように、クウヤが考えを深める。

「追っ手が掛かるということは、完全に濡れ衣だ。しかし、ぼくたちに、冤罪を晴らす証拠はない。なぜなら、第一発見者が、必ず、犯罪者だと疑われるということと、ここから逃亡しようと思っても、土地勘という地の利がまったくないうえに、人脈も何も持っていない。それにワームホールも、いつ開くか、まだ未知数だ」

ジャマンサも持論を述べ始める。

「<世界の弾丸>というテロリストは、列車の操作系を、ある程度、知っていた。しかし、無茶を重ねて、結局、ふたりとも誰かに殺されてしまった。よく調べてみれば、判明するだろうが、激しく頭部を打っている。私からみれば、これは事件と不慮の事故が絡まっている。それなら、私たちの無罪を証明するものは、むしろ、根拠が薄弱として、状況証拠だけが積み上がっていくことになる」

アンドロの推理も冴えていた。

「論を前に進めるとだな。とにかく、おれたちは、テロリストに狙われてるということと、ここの治安当局に追われるということの、ダブルの逃亡者だということであってだな、本当にイヤだが、誰とも云わん村人が通報することもありえる」

そして、彼女はガウンを羽織って、少し寒い素振りを見せながら、

「ということは、ここの村人の目を避けて、どこか治外法権のような場所に逃げ込むしか、一息つく場所はないっつうことだ」

ギルバード先輩は一言だけ、「いい心がけだな」と相槌を打った。

ムスカ=スートラは、汽車の中にあった新聞を、ギルバードの机に置いて、大きく開いて、自分たちの将来を案じた。

「ここは、墓地の側から侵入したとして、ゲインズプールの城下町に隣接する田園地帯だ。澤田さん、ゲインズプールは安全だと思うか?」

澤田角行は、「恐らく」と即答した。

「そうか、しかし、ゲインズプールまで逃亡できるとは思えない。城下町まで走破したとしても、何処か泊まる場所があるとも考えられない」

そこまで話して、

「絶望的だな」と結ぼうとした。

「イヤ」と澤田さんはさえぎって、「ゲインズプールは、日雇いの不法入国者で溢れている。正式に、傭兵の募集も定期的に行っている。入国ビザがなくても、この大所帯じゃなければ、逃げ切ることは可能なのさ」

ギルバード先輩は、「ひとり多かったか、随分、粗相をして悪かったな」と皮肉っぽく区切って、紅茶をごくりと飲む。

アンドロは、反対側の座席に座り込んで、机をドンと叩いて、頭を抱え込んだ。

「そうじゃねぇ。みんなが団子みてぇに、行動を共にしていれば、警察にも村人にも犯罪者にも見つかる。しかし、バラバラに動き始めれば、この世界の迷子になって、小説の中の主人公みたいに、ひとりずつ逮捕されたり、事故死に見せかけて殺害されるに決まってる!」

ジャマンサは、「打つ手なしってわけか。そうか。なるほどな」と考えて、「列車は大破していて、さっき見た所、燃料切れだ。具体的に云えば、たきぎが足りないから、基本的に戻って行って、ワームホールを拾うのも、無理だとは思う」

ムスカ=スートラも、「そんなこと証明されても困るんだけどな」と性分にないことを言いつつ、「魔法学園の生徒なのにな・・・」と諦めの境地に至った。

澤田さんは「敵が大軍勢だったら、シヴァを召喚して、全滅させるんだけどな」と冗談半分に云う。

ムスカは「召喚魔法か。今度は、ひとりでやってくれよ」と釘を刺した。

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