第41話 天界市場

 天界市場を開くと、バイザー越しに無数の商品が表示された。

 それはまさに、ネットショッピング。

 しかも商品自体、俺は目を見開いた。


「なんだよ、これ。ネットショッピングだ」


 まさにもなく、完全にネットショッピングだった。

 ズラリと商品が表示され、俺はボーッと流し見する。


「凄いな。こんなに商品が網羅されているなんて」


 流石にユーザー目線で感心する。

 商品の品揃えが余りにも充実しており、しかも身近なものがほとんど。

 馴染みある商品の数々に、俺は胸を撫で下ろした。


「なんだ。天界市場って書いてあるから、もっと凄いものが売ってるのかと思ったけど、全然そんなこと無かった」


 スクロールしていくも、一向に珍しいものが無い。

 むしろ日用品はほとんどで、俺は見飽きてしまう。


「……なんか、当たり障りないな」


 現状表示されているのはマジの日用品。

 トイレットペーパーにティッシュペーパー。歯ブラシやタオル、鉛筆にノート、謎のパズルが画面に表示されていた。


「い、異世界っぽくないな」


 展開市場と言う名前に反し、あまりにも日常寄りだった。

 商品ラインナップが貧弱という訳ではない。

 単純に、異世界感が一切無いのだ。


「まあ、使うものなんだけどさ」


 とは言え消耗品はどんな時でも使う。

 無駄に使わない物が永遠と表示されるより、普段使いできるものの方が断然需要が高かった。


「ちなみに値段は……高っ!?」


 俺は口から泡を吹きそうになった。

 咄嗟に跳び起きると、あまりの値段設定に悲鳴を上げる。


「トイレットペーパー十二ロールが2,000P!? シングルだぞ!」


 流石の俺にも分かる。

 あまりにも正気の沙汰とは思えないぼったくり価格に、消費者を舐めていた。


 もちろん、俺自身がPの価値を理解できていないのもある。

 だがしかし、いくら貧困国とは言え、ファンタジーな異世界に俺馴染みの物を購入できるようにしてくれたとは言え、この値段はおかしい。常軌を逸しており、絶望してしまった。


「歯ブラシが1,000P、鉛筆が一ダース600P。ノートが350Pって、なんで紙の方が安いんだよ!」


 もはや適当に付けたとしか思えない驚愕の設定。

 気合が充分空回りしており、俺は仰向けでベッドに倒れ込む。


「こんな高額な日用品、今の俺には手が出せないな」


 正直、Pの稼ぎ方は分からない。

 今の所、投げ銭システムで何とかPを貯めている状況だ。

 無駄遣いはできないと、俺は溜息を付く中、天界市場を更に見てみる。


「なんか他にないのか? 異世界っぽい面白いものは……」


 スクロールに神経をすり減らされ、俺はダイヤルを回し続ける。

 しかし出て来るのは、キッチン用品、掃除用品、浴室用品、更には衣料品に衣類など、当たり障りが無かった。


「マジでなんにもない……おっ!」


 諦めかけたその時だった。

 俺の目に留まったのは、まるで知らない装置。

 拡声器のような形をしているが、明らかに異質な品だ。


「なんだコレ。思い込みメガホン?」


 何処かで聞いたこのある様な名前だった。

 誰かの何処かの団体に抵触しそうだ。

 けれどそんなこと、この異世界には関係ない。

 俺は説明欄を見てみると、とんでもないことが書いてあった。


「えーっと、なになに。このメガホンを使うことにより、周囲の人間に自分の感情を流布することができる。流布された人間の感情を変化させることができる……洗脳アイテムとかヤバいだろ」


 あまりにも危険すぎるアイテムだった。

 俺はゾッとしてしまうが、もちろんゾッとするのはそれだけじゃない。


 気になる値段を見てみると、50,000Pとなっていた。

 今俺が持っているP、全部使わないと購入できない。


 それほど強力なものを、逆に言えばこの価格帯で買えるなんて。

 絶句してしまう程狂ったショッピングだった。


「まあ、今の俺には必要ないか」


 俺は天界市場を閉じると、目を瞑って寝落ちしようとする。

 正直、やることも無いのだ。

 暇で暇で仕方が無く、まるで異世界に来た気がしない。


「そうだ。コメントでも見るか」


 もはや友人A&Bがすることを俺が代わりにすることにした。

 今一度アーカイブを確認しに行くと、俺は配信のアーカイブを見直した。

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