第40話 Pの使い道

「ふぅー」


 俺は魔王城に戻って来た。

 ミュシェルとあんな形で別れてしまったのは、少しだが心苦しい。


 けれどミュシェルは強い。

 俺なんかが居た方が、逆に迷惑になると思う。


 だから俺は一人魔王城に戻って来ると、客室の一つに転がり込む。

 ベッドの上に仰向けで横になると、天井をボーッと見上げ、息を吐いた。


「なんだかな」


 正直、後腐れしか残らなかった。

 最低なことをしたと後悔するがもう遅い。

 それになにより、俺はミュシェルと何か縁がある訳じゃないので、気にしないように目を伏せた。


「おっと、それはさておきだ。早く戻って来たのは、Pの正体が知りたくて……」


 俺は配信サイトを開く。

 もちろんそこからログインして、マイページをクリック。

 俺自身の新アカウントが何故か表示されると、登録者数を表示する。


「登録者……百人。嘘だろ?」


 一体何があったんだ。今まで俺が頑張って来た実績が全て消えてしまった。

 ましてや登録してくれている新しい視聴者層は、まるで知らない人達。

 年齢や性別も調べられないのか、ただバグっているだけなのか、××××と文字化けの次元を超えていた。


「はぁー。まあそれはそれとして、問題はこのPって奴だ」


 異世界で収益化が通る訳が無い。

 そもそもこの配信サイトがμTubeなのかすら怪しい。

 謎の配信サイトの皮を被った何かに踊らされる中、何故の投げ銭Pの存在が俺のことを追い詰める。


「このPって奴、一体なにに使えばいいんだ? 気が付いたら五万くらい貯まってるけどさ」


 残念なことに、このPの謎は解けていない。

 もしかすると、転生者特権ギフトで得られた、俺だけの金策手段なのかと想像していた。けれど蓋を開けてみれば、そんな甘い話じゃない。

 この世界の通貨単位はPでも何でも無いのだ。


「Pってなんなんだよ。ポイントのPじゃないだろうけど……あっ!」


 俺はPが何か想像してみる。

 単純にポイントのことかと思ったが、そんな安直で捻りがない訳ない。

 自分でフラグを立てつつ、つい目を離すと、?マークがチラつく。

 ここにヒントが隠されているかもしれない。俺はクリックしてみた。


「やっぱりヘルプだ」


 今の現代人、説明が多すぎて説明書を見ない人が多い。

 俺はそんな勝手な妄想をするが、実際の所は知らない。

 けれど俺はちゃんと説明書を読むタイプなので、ヘルプに釘付けになると、キーワードからPの謎を探った。すると、思った以上に感嘆に答えが分かる。


「えーっと、Pはポイントの略称です。結局ポイントなのかよ!」


 安直だとバカにしていた答えがまさかのせいかい。

 俺は口をあんぐり開けると、更に先を読んでみる。


「Pは天界市場にて売買するために使います」

「なんだよ、天界市場って。そんなアプリ、入って無かったぞ」


 俺はヘッドホンの左側のダイヤルを回す。

 流石に最初から備わっていないアプリを起動することはできない。

 ここまでは、既存のアプリを異世界仕様に書き換えていただけだったが、新しく追加したなんて面倒な事、ある訳が無いと鼻で笑った。


「どうせある訳……えっ、あるんだけど」


 そんな笑い声は一瞬で寒くなる。

 信じられないことに、新しいアプリが追加されていて、はっきりと“天界市場”と表示されていた。


「そんなことあるのか? どんな異世界なんだよ。あまりにも都合が良すぎるって」


 逆に怖くなってしまうくらいには恐ろしい。

 俺はゾクリと背筋を走るが、一応どんなサイトなのかアプリを起動してみた。

 きっとネット通販サイトのようなものだろうが、“天界”って部分に夢を見る。


「天界ってことは、きっと便利なアイテムがある筈。っていうか、Pの使い道って今更……まあいいか」


 答えは常に傍にあり、いつも自分が口にしている。

 実際、今回は俺の想像通りだった。

 Pはポイントであり、このPを使うことで、便利な買い物ができる。

 色んな異世界転生ものの要素がまじりあう中、俺は天界市場を開いた。

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