第42話 コメント欄を見てみよう

 俺は自分の配信アーカイブを覗き見る。

 もちろん、動画を観る気はほとんどない。

 俺が観たかったのは、配信に集まったコメントだった。


「もしかすると、有益なコメントがあるかもしれない」


 正直、俺の住む世界で配信していた頃とはまるで違う。

 視聴者層が明らかに傾いていて、あまりにも上から目線。

 民度が分かっていないのか、本当に自由人だった。


「とは言え、大抵は……」



天の星:いやぁー、これは愉快愉快

太陽の主:なかなか勘が鋭いですね

水の声:どうして水の魔法を使ってくれないんだ!

紅蓮の神:炎もだぞ!

雷神の太鼓:雷もだぞ。しかも戦わないとは情けない

風祭の矢: 風の魔法もよ。全く、ちゃんとよね!

……



 酷い言われようだった。

 あまりにも自由な発言が飛び交っていて、俺の気持ちを考慮していない。

 いや、考慮なんてする気が無いんだろう。


「とは言え、視聴者層は増えてない……おっ」



黄泉の死者:ふふっ、これは闇の眷属か

天の星:おっ、黄泉黄泉。来たんだねー

太陽の主:こんにちは

黄泉の死者:ええ、こんにちは。それにしても、彼は闇の眷属の様ね

……


「闇の眷属? 俺のことなのか?」


 突然現れた謎の視聴者。

 “闇の眷属”という謎単語ワードに目を奪われるも、如何やら話の流れで俺じゃない。



紅蓮の神:やっぱりお前の回し者か!

黄泉の死者:いいえ、違うわよ

水の声:それじゃあ、あれ? 闇の眷属ってことは

黄泉の死者:多分、光に抗う存在。恐らくは吸血鬼?

……



「吸血鬼?」


 直接的な単語ワードの登場に、俺は目を見開く。

 配信アーカイブのコメント欄を更にスクロールする。

 この“黄泉の死者”って人はかなり有益な情報を出してくれる。


「吸血鬼……ってことは、あの赤い瞳は」



太陽の主:何か証拠はあるのでしょうか?

黄泉の死者:証拠なら瞳の色

紅蓮の神:瞳の色だと?

黄泉の死者:赤い瞳を持つ人間は多い。だが、この赤は特徴的だ。現に吸血鬼の眷属化の影響を受けている

……



「あの赤い瞳、もしかして全員眷属になっていたってことか? ってことは、例の屋台が怪しいな」


 瞳の色が異様な赤に飲み込まれている。

 それは傍から見ても明らかで、全員があの男性、スーレットと同じ赤い瞳を持っていた。


 もしもスーレットが吸血鬼ならば、答えは一直線になる。

 例の屋台を発端として、街に住んでいる人達を、次から次へと眷属に変えていた。


 そうすれば、自分に都合が悪い情報を見向きさせないように動ける。

 何処まで眷属化した人達の意識を操れるのかは知らないが、少なくとも、俺一人を執拗に追い詰めるには充分だった。


「とは言え、どうして俺なんだ? 何か都合の悪いことでもあるのか?」


 つい考え込んでしまうと、不意にミュシェルが心配になった。

 あんな感じで離れてしまったが、スーレットはミュシェルを危険視している。

 逆に言えばミュシェルもスーレットを危険視していて、一触即発もあり得そうだった。


「まあ、ミュシェルもそんなにバカじゃないだろ。スーレットが仮に吸血鬼だとして、今まで大事を起こしてこなかったんだ。今更……いや、それならなんで今なんだ?」


 俺には考えれば考える程、負のスパイラルに落ちていく感じがした。

 螺旋状に広がる坩堝に落ちると、ますますミュシェルが心配になる。


「俺なんかが心配してもな……はっ!?」


 ふと視線を落とせば、気になるコメントがあった。

 例の有益コメントをくれる、“黄泉の死者”だった。



天の星:にゃはは。でも、スーレットってなにがしたいんだろ?

黄泉の死者:おそらく転覆だ

太陽の主:転覆ですか?

月の巫女:どういうこと?

黄泉の死者:眷属を増やすことはあくまでも過程。魔王に対し恨みを抱かないなら、行動は起こさない。けれど今回行動を起こしたのは、きっと機を窺っていた証拠。なにか起こす

……



「やめてほしいな」


 あまりにもあたりそうで怖い。

 俺は身震いすると、これ以上は見ないようにアーカイブを閉じる。


 仰向けになり、天井を見つめた。

 不安が込み上げてくる中、俺は気にしない素振りを見せた。


「いや、きっと大丈夫だろ。ミュシェルに限ってそんな……」


 ドーン!!


「はっ!?」


 俺は割り切った上で考えるのを辞めた。

 しかし突然遠くからけたたましい爆音が響き渡った。

 空気が振幅氏、窓を突き破ってしまいそうになると、俺は体を起こした。


「今のは一体……まさかそんな筈ないよな?」


 俺は客室を飛び出して外を見に向かう。

 近くには窓があるのでそこまで向かうも、嫌な予感がヒシヒシと伝わり、俺は心臓が潰れそうになった。

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