第34話 スーレットは何者?
俺とミュシェルは小さなレストランに来ていた。
ミュシェルの行きつけらしく、すんなり通して貰えると、いい席に通して貰えた。
とは言え、小さなレストランだ。
あまり客足も多くは無く、周りを見回してもチラホラ空席が見える。
(シックで落ち着きのある店内だな。カフェみたい)
俺は頬杖を付き、テーブルに肘を預ける。
正面に座るミュシェルも表情を落としている。
何やら気まずい空気が流れると、俺は言葉を交わす。
「ミュシェル、スーレットのことを考えているのか?」
「ええっ、なんで分かるんですか!?」
「いや、スーレットに会ってから、急に表情が暗くなったから」
「あはは、分かりやす過ぎましたね。そうですね、スーレットさんのことを考えていました」
ミュシェルは大人しく考えていたことを明かす。
まさかなことも無く、スーレットのこと。
しかもこの反応、恋心を抱いている訳もなく、むしろ嫌悪している。
「ミュシェル、スーレットのこと嫌いだろ」
「そ、それは……その。分かりますか?」
「分かるよ。スーレットに反発していた態度を見て確信もした」
「あはは、流石はカガヤキさんですね」
ミュシェルは一切隠す気が無かった。
緩い笑みを浮かべると、口角が若干上がる。
細く澄ました目が開くと、丸めていた背筋を伸ばした。
「カガヤキさん、私はスーレットさんのことを疑っているんです」
「疑っている?」
「変ですよね。あれだけ好青年なスーレットさんを疑うなんて真似、私は用心深いのですね、きっと」
ミュシェルは自分がおかしいと思っているらしい。
もちろん、そんなことは無い。なにせ、俺もスーレットを警戒している。
疑うの前に、明らかに怪しいのだ。
「いや、明らかになにかしてると思うけど?」
「そうですよね。実際、ひったくりが横行しているだけではなく、ここ最近は夜な夜な人が街を徘徊する話も出ていて……」
「夢遊病?」
「そうなのでしょうか? 父の下にも、夜な夜な徘徊する人が多くいること。全員、普段の瞳の色とは異なり、真っ赤に染まっていること。しかも調査の結果、夜な夜な徘徊する人は全て、広場に出ていた新しい屋台でジュースを飲んだことが確認されているんですよね」
「えっ?」
なんだ、その情報過多な話。如何考えても因果関係があるに決まっている。
俺は二回瞬きをし、口をパクリと開けると、ミュシェルは更に教えてくれた。
「しかもですよ。この話には続きがあるんです。なんと、事件の元凶となっているであろう屋台を斡旋したのは、この街の領主の下で新しく働き出した若い男性。ずば抜けた手腕で、様々な功績を上げているんですよ」
「それって、さっき言ってた奴?」
「はい。それがなにを隠そう、スーレット・
「……はい?」
それ、もう確定じゃないのか。
俺はスーレットの怪しさがMAXにまで達すると、疑わしくは罰せよになる。
なにせ、俺のことを勝手に魔王だと決めつけて来た人達も、全員例の屋台でジュースを買って飲んでいた。すると瞳の色が真っ赤に染まって、何者かに操られたような統率力を見せたのだ。
その根幹に立っている存在。それこそが全てに元凶だ。
ここまで来ると怪しいのは一人だけで、スーレットになる。
あの赤い瞳も名前も言動も、何もかもが怪しく見えてしまい、俺は疑い度がMAXに跳ね上がった。
「それ確定じゃない?」
「いえ、まだ確定とまではいきませんよ。確信のようなものはありますが、それは私の勘とこれまでの経緯からでは、まだ証拠が足りません」
「証拠は揃ってると思うけど……まあ、あの屋台に営業停止処分でも一時的に喰らわせれば、ある程度事件は片が付くんじゃないかな?」
正直、貧乏くじを引くのは例の屋台だけだ。
とは言え、これはただの噂で、風評被害にでもなれば、この街の風気も治安も悪くなる。
領主に対する信用も激減し、存続自体が成り立たなくなるかもしれない。
(まあ、俺はそこまで背負えないから……ん?)
ミュシェルの顔色が怪しい。
何故か悔しそうで震えている。
唇を噛むと、今にも噛み切ってしまいそうで、俺は心配になり声を掛けた。
「どうしたの、ミュシェル?」
「ダメなんです、カガヤキさん」
「ダメな理由ってこと? なにか弱みでも握られてる?」
「スーレットさんはとても優秀な人です。その功績は本物で、崩すことなんてできません。ですので、斡旋した屋台でなにかあったとしても、簡単にもみ消してしまいます。それでは、なにも解決にならないんです」
世知辛い話だ。世論の権力者相手に、弱者の言い分は届かない。
どの世界でも政治には裏がある。いや、この世のあらゆることには表と裏がある。
けれど絶対に“悪”だと分かっているのに何もできないのは流石に悔しく、正義感の強いミュシェルにとってはたまらなく辛かった。
「まあ、ミュシェル。今は一旦考えないで行こう」
「カガヤキさん」
「美味しいご飯を食べて、気を紛らわす。それ以上にできることはないよ」
まるで解決になっていない。
けれどこれ以上悩むと、ハゲるかもしれない。
現代人はストレスが多い。だからストレスを軽減しようと、俺は淡く伝えた。
「そうですね、そうします」
「おお、物分かりがいい」
「考えても仕方ありません。スーレットさんを止めるには、スーレットさんの正体を明かすしか無いんですから」
自信たっぷりなミュシェルはやはり勇者パーティーのメンバーに相応しい。
これで“元”なんて付けて、今は“可哀そうなコスプレ魔王”と一緒に知れれば、好感度は落ちる。そう考えると、俺はミュシェルと一緒に居るのは良くないと思い、少しだけ歪なものを受けた。
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