第31話 魔道具ってことになりました
俺はヘッドホンのダイヤルを回した。
グルグルとスクロールすると、欲しかったアプリを見つける。
「これだな」
「カガヤキさん。先程からなにを言っているんですか?」
「ん? ああ、このひったくり犯を捕まえる、証拠を見せるだけだ」
「はぁっ!? そんなものあるのかよ。何処に、俺はなにも取ってねぇぜ」
ひったくり犯は調子に乗っていた。
ほくそ笑み、鼻高になっている。
その鼻をへし折ってやろう。仮に今回は未遂でも、常習犯なら痛い目を見せてやる。
「ミュシェル、壁を作れない?」
「壁ですか? 分かりました。主よ、我が祈りを捧げ、我らを守護する壁を贈らん—
ミュシェルが魔法を唱えると、地面から光りの壁が生まれた。
眩り光だが、とりあえず充分だ。
突然のことに解散していた街の人達も視線を釘付けにされる。
今から何か始まるのか? そんな期待と恐怖が入り混じる中、俺はヘッドホンの機能を使った。
「確かこれで、それっ」
俺は左側のボタンを押す。
するとヘッドホンから伸びた赤い角が、赤々と光る。
アプリが起動したらしく、聖壁に向かって照射される、科学的な光が映した。
「今からなにが始まるんですか?」
「プロジェクターで映像を出すんだよ」
「映像?」
知らない言葉にミュシェルは首を捻る。
けれどいちいち説明はしない。
丁寧ではないけれど、見て貰った方が早かった。
『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
『チッ、おい、お前ら退け!』
聖壁に映し出されたのは、俺が撮ったというか、勝手に撮られ配信されていたアーカイブ。
ひったくり犯の男性が。女性から鞄を奪い取る瞬間。
その証拠が映像として、はっきりとくっきりと映し出されていた。
「んだよ、これ!」
「過去の景色を映し出す……これはもしかして魔道具ですか!」
「魔道具?」
「魔法を扱える道具です。魔道具は、道具自体に魔法が付与されているんですよ。そのおかげで、例え魔法が使えない方でも、魔法が使えてしまうんです。」
「へぇー」
ミュシェルは丁寧に教えてくれた。
けれど俺は淡々としてしまい、映像の方に視線が奪われてしまう。
もちろんそれはミュシェルも同じで、カメラで撮った映像が、聖壁に映し出された。
「少し飛ばすぞ」
俺は映像を少し飛ばす。
肝心なのはここじゃない。どのみち俺の姿は映らないのだ。
『う、うるせぇ! そこを退きやがれ』
『退いてもいいが……』
『あー、邪魔だ退けろ。退け退け!』
ひったくり犯の男性は、ナイフを手にしていた。
俺に突き付けると、突っ込んでくる。
けれど直後には俺に転ばされていて、そこで映像を一度止めた。
「って訳だ」
「まさかこんな便利な魔道具があったなんて……」
「そこじゃないから。ひったくり犯は、殺傷事件まで起こそうとした。どのみち、騎士団には突き出して、厳重注意を呼び掛けた方がいい」
「そうですね。これは動かぬ証拠です」
ひったくり犯にとって、映像証拠は動かない。
自分自身を追い詰めるものになってしまい、「ぐぬぬ」と奥歯を噛んでいる。
「大人しく、騎士団に行って貰いますね」
「まっ、待てよ! お、俺が捕まる訳にはいかねぇんだよ」
「ん? もしかして、ひったくりをしなければならない理由があるのですか?」
「へっ、聞いて驚け! この俺はひったくりをして、盗んだものをより高値で闇売買してんだよ!」」
「ダメな奴じゃん」
弁明の一つにもなりやしない。
俺は呆れてしまい、ミュシェルはより一層睨みを利かせた。
「大人しく、騎士団に行きますね?」
「クソッ、クソがっ! 俺は、俺はな……」
ひったくり犯はまるで動こうとしない。
足でも挫いたのか、地面に座ったままだ。
顔色を顰め、誰かを待っているような口振りをすると、遠くの方を見た。
「んおっ!? はっ、はーはっはっはっ! どうやら俺は幸運の女神様に愛されているらしいな」
「「どういうことだ?」ですか?」
「驚くなよ。俺にはな、俺を助けてくれる凄い人がいるんだよ。あの人がいれば、俺はいつだって無実なんだよな」
ひったくり犯は、ニヤついた笑みを浮かべる。
何故だろう。急に空気が変わる音がした。
同時に俺の背筋がゾクリとし、遠くから不気味な足音が聞こえて来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます