第30話 騎士って言葉がそれっぽい

 とりあえず、ミュシェルによって騒動が終わった。

 鎮圧したというべきか、それとも捻じ伏せたというべきか。

 全て“その通りです”過ぎる上に、全員が物分かり良すぎたため、一瞬で蹴りが付いてしまった。おまけに目の色も赤じゃなくなっていて、落ち着きを持って解散した。


(もしかして、ミュシェルってやっぱり……)


 ミュシェルがひた隠しにしようとしていること。

 もしそうなら、全てに合点が行く。

 けれど助けて貰った以上、今更口出しできず、俺は胸の中に仕舞った。


「さて、皆さんには後でちゃんと謝って貰うとして……貴方、ひったくり犯の方ですね」

「な、なんだよ! 俺になんか用かよ」


 ミュシェルはひったくり犯に話し掛けた。

 腰を抜かしてしまい、動けなくなっているひったくり犯に、ミュシェルは言い出す。


「貴方はひったくりを未遂ではありますがしましたね。カガヤキさんが止めていなければ、どうなっていたと思いますか?」

「へっ、今回はたまたまだぜ」

「今回は? つまり、常習犯と言うことですか」


 ミュシェルはひったくり犯の言葉から、ある程度の推察をした。

 同時に、開き直った態度を見せるひったくり犯。

 何か余裕でもあるのだろうか? 俺は鋭い目付きで睨み付けると、ミュシェルはコホンと咳き込む。


「では、こうしましょうか。カガヤキさん、手伝って貰えますか?」

「俺? なにをするんだ」

「いいですから、少し来てください」


 俺はミュシェルに呼ばれた。

 もちろん従順に従うと、ミュシェルは怪我をしていた手を見せた。

 綺麗さっぱり傷は治っているが、爪の間に血が流れていた。


「見てください、私が治しましたが、貴方が投げた石のせいで、カガヤキさんは怪我をしました。傷害罪、と言うことになりませんか?」

「な、なんだよ、それ! そんなんで俺を騎士団に突き出す気か?」

「騎士?」


 異世界っぽい言葉の登場に、俺は少し興奮する。

 とは言え、ただ興奮もしていられない。

 これだけの騒ぎになり、かつこの格好だ。明らかに注意を言い渡される。


(騎士は面白そうだけど、流石に今の俺が会う訳には……まあ、無いか)


 ここは一旦グッと押し殺す。

 ミュシェルとひったくり犯のやり取りに目を向けると、ミュシェルは本気な顔だ。


「はい、そのつもりですよ」

「はぁぁぁぁぁ!? 冗談じゃねぇ。なんで俺がそんな目に」

「事実貴方がひったくりをしたことに変わりありません。ですよね、カガヤキさん。それから貴女も」

「ああ「はい」」


 如何やら事実確認のために必要らしい。

 犯人の男性だけではなく、被害者の女性も残っていた。

 流れを察して広場に残ってくれたらしく、ミュシェルにとって後押しになる。


「証人がいます。それに貴方は常習犯ですね。騎士団の人達も、無碍にはできない筈です」

「くっ、さっきから大人しく聞いてれば」

「いや、大人しくは無いだろ」

「お前は黙ってろ! クソがっ、クソがっ!」


 ひったくり犯は往生際が悪かった。

 時間だけが刻々と流れていく。

 けれどひったくり犯の男性も何かいいアイデアが浮かんだのか、ニヤッと笑った。


「けっ、俺を捕まえるなんて真似、できないぜ!」

「「はい?」」


 急に口調も態度も変わった。

 自信満々で、ミュシェルを指さすと、ペラペラと口出す。


「確かに俺はひったくりの常習犯だ」

「罪を認めるんですね」

「ああ、騎士団にも何度もお世話になって……ないんだな、これが」

「「はっ?」」


 どういうことだ。何故今そんなことを言いだす。

 分からないが、この自信に満ちた様子に、俺は違和感を覚える。


 もしかすると、騎士団となんらかの関係があるのだろうか?

 それとも、証拠が無かったから、今まで捕まって来なかったのか?

 俺は不服に思うと、鼻をへし折ってやりたくなる。


(なにか無かったか? 確か俺は……あっ!)


 俺はヘッドホンの機能を使うことにした。

 丁度今、配信をしていた。というか勝手になっていた。

 もしかするとと思い、ヘッドホンのバイザーをONにすると、緑とオレンジの点滅がある。如何やらカメラもマイクも入っている状態で、全て一部始終を録画……否、配信していた。


「これは使える……」

「使える? なにがですか?」


 ニヤけた笑みを浮かべ、早速ひったくり犯の鼻をへし折ることにした。

 とは言え、この映像が映し出せるだろうか?

 俺は腕を組んで考えるも、とりあえずやってみることにした。

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