第20話 まさかの配信中だった件

 俺は裸になっていた。

 一体誰が野郎の裸なんて見たいんだ。

 いや、如何して衣装が消えたんだ。さっぱり分からない俺は、混乱してしまった。


「どうして俺裸になってるんだよ。一体なにしたんだ? ……ん」


 俺は一度ヘッドホンを外してみる。

 とりあえずじっくり見てみると、特に怪しい所は無い。

 友人A雷斗が作ってくれたヘッドホンで、様々な機能が施されていた。


 その中でも、俺が危惧したのは、何故か赤い点が光っていること。

 確かこれはカメラアプリの機能だ。

 あまり使う機会は多くないが、写真や動画を充分撮れる。だがしかし、俺はカメラアプリを起動した覚えはない。


「まさか……な」


 俺はヘッドホンを再び使用。バイザーを起動し、ボタンを押し、ダイヤルをロールする。

 クルクルと表示したのは、動画配信サイト、μTubeのアプリ。

 ボタンを押してクリックすると、ありえない出来事に絶句してしまった。


「な、なんで……ってか、誰?」


 俺がアプリを起動すると、カメラとスピーカーが連携していた。

 更に配信中の表示がされていて、知らない視聴者から、大量のコメントが送られている。


 無名のタイトルで始まった配信。

 ましてや一人も知らない視聴者。

 俺のチャンネルの登録者数も激減していて、もはや面影すらない。

 あり得ないバグが発生している中、何故か俺のアバター、中堅VTuber:宙の魔王カガヤキ・トライスティルの姿が小さく映し出されていた。


「なんだ、これ? どういう原理だ。っていうか、詰め込み過ぎだろ」


 異世界転移・魔王キャラ・ヘッドホンの機能・それに加えて配信。

 あまりにもてんこ盛りだ。俺は訳が分からなくなると、頭を抱える。

 というか萎えてしまいそうになる中、気晴らしにコメントを見た。


「もういい、もう分かった。なんでもありなんだな、なんでも……よし、俺はもうツッコまないぞ」


 コメントを見る勇気を持った。

きっと何処かの誰かが観ているに違いない。

異世界転移がありなら、次元を超えた視聴も可能な筈。

 俺は全てを諦めると、無表情でコメントを覗き込んだ。



天の星:いや~、面白いね~

太陽の主:そうですね、流石は魔王です

水の声:何故水の魔法を使わないんだ

紅蓮の神:α星の爆炎。なかなかの魔法だったな!

雷神の太鼓:がーはっはっはっ、雷とはまさに轟雷よ

風祭の矢:風の魔法も使って欲しかったわね

……



「なんだ、これ?」


 あまりにも視聴者の偏りがあった。

 いや、それが普通なのだろうが、俺にとってはおかしい。

 こんな全員“漢字”が使ってあって、しかも全員自由。

 民度と言うより、エンタメを通した交流の場に使っているようで、俺は不思議と唖然とする。


「誰だ、一体。天の星さん? 太陽の主さん? いや、一体誰なんだ?」


 一度も聞いたことが無い新規の視聴者層だった。

 もしかしたら、普段の俺の視聴者層よりも、少し年配なのかもしれない。

 そう考えると、逆に嬉しくなると、マイクをONにして、俺は感謝する。


「新しい視聴者のみんな、俺の配信に来てくれてありがとう。なんだかよく分からないことになったが、俺は俺だ。魔王と呼ばれるのは癪だが、ここまでを観た全員知っているな。俺も分かっていないが、俺は魔王を倒した。勇者パーティーも蹴散らした。これが俺の実力って訳だな……運がよかっただけだが」



天の星: にゃ~はっはっはっ、面白かったね~(3,000P)

太陽の主:自分の実力に驕り高ぶらない姿勢はいいですね(5,000P)

水の声:何故水の魔法を、水の魔法を使ってくれなかったんだ!(1,000P)

紅蓮の神:α星の爆炎は最高だったぞ! (5,500P)

雷神の太鼓:がーはっはっはっ、よかったぞ、流石は見込んだ男だ(4,600P)

風祭の矢:次は風の魔法を使ってね。絶対、絶対よ! (10,000P)

……



「P? なんだか分からないが、ありがとうな。今回はあれだったか、次回の配信の時も楽しみに待っていてくれよ。じゃあな」


 俺は配信を終えることにした。

 カメラとスピーカーを切り、マイクも落とす。

 完全に配信から切り離されると、俺は仰向けにベッドに横になった。


「Pってなんだったんだ? それに、この視聴者の民度……ノリがよくていいな」


 俺は天井のシミを数えながらニヤッと笑う。

 何故配信ができたのか、何故配信していたのか。誰が観ていたのか。

 何もかも分からない。あまりにも謎が多すぎる。俺は分からないことだらけ、何もスッキリしない今の時代優しくない異世界転移に、呆れて眠りこけた。

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