第12話 勇者パーティーに挑まれた

 少年は剣を振り下ろした。

 もちろん受けてやる気はない。

 俺はすんなり躱すと、少年は目を見開いた。まさか避けると思っていなかったらしい。


「お、お前、逃げるな!」

「なんでまともに相手をしないとダメなんだ。そもそも、俺は魔王じゃない。魔王ってぽい格好なだけだ」


 唇を尖らせて、俺は言い切った。

 確かに、魔王っぽい格好はしている。だがしかし、あくまで衣装は魔王コスっぽいだけ。

 少し考えれば分かるが、消極的な態度を見せる魔王なら、何故勇者パーティーに挑まれるのか。つまり逆に考えれば、俺が魔王じゃないことくらい、すぐに分かるようなものだ。


「嘘を付くな。お前が、炎の魔王ベルファー・ベルムグリンドだってことは分かっているんだ!」

「ああ、そうだぜ。ユキムラやってやれ」

「とっとと終わらせて帰るわよー」

「皆さん、気を引き締めていきましょう。油断してはいけませんよ」


 あー、ダメだ。話を聞く気が無い。

 完全に見た目だけで人を魔王呼ばわりして来ている。

 俺は呆れてしまうも、まだ一つ、可能性に懸けてみる。


「おい、お前達。本当に俺がベルファーだと思うのか?」

「な、なんだ、急に?」

「こんな避けてばっかりの奴が、本当にお前達の倒すべき魔王なのかって聞いてるんだよ」

「それは……」


 勇者っぽい少年、確かユキムラだったな。

 俺の問いかけに悩まされ、攻撃の手が緩んだ。

 剣を振り上げていたのだが下ろすと、「うーん」と問答を繰り返している。


「ユキムラ、なに考えているんだ。お前のやるべきことは、魔王を倒すことだろ!」

「あ、ああ。そうだった。ありがとう、ゴライアス。よくも俺を惑わしてくれたな。許さないぞ!」

「なんでそうなるんだよ。……仕方ないな」


 こうなった以上、戦うしかない。

 俺はユキムラから距離を取ると、勇者パーティー? 全体を見る。

 数は四人。丁度良いバランスだ。


 一人はユキムラと呼ばれた勇者っぽい格好をした少年。

 もう一人はゴライアスと呼ばれた、ゴリマッチョの武闘家。

 後の二人はどちらも少女で、一人はいかにも面倒臭がりな魔法使い。

 もう一人は真逆で、真面目そうな聖職者……いや、女神官だった。


「基本に忠実、前衛後衛二人ずつのパーティー構成か」


 普通に強そうなメンツだ。

 俺は気を引き締めると、ユキムラが剣を振り下ろす。

 一歩目が早く、俺の懐に飛び込むと、剣の切っ先を突き付けた。


「死ねっ!」

盾座の黒鉄シールド・アイアン!」


 剣が俺の心臓を一突きしようとした。

 冗談じゃない。死ぬ気何て一切無い。

 俺はカガヤキの魔法、盾座の力を解放すると、心臓部分を守るように、盾が出現した。


 カキーン!


「な、なんだと!?」

「少し落ち着けって」


 俺はユキムラを突き飛ばした。

 小さな階段の段差に足を引っかけると、ゴロンと転がって落ちる。

 見事な落ちっぷりを目の当たりにした俺は、プスッと笑いそうになるが我慢した。


「はぁー、いいか。俺はベルファーじゃない。ましてやマジの魔王でもない」

「な、なに言ってるんだ、お前」

「もう答え合わせするけどさ、ベルファーは俺が倒した。そこに転がっている遺体がベルファーだ。分かったなら、俺の話を聞いてくれ」


 俺はベルファーの遺体を指さした。

 しかし、ユキムラ達はなに言ってるんだコイツ顔になる。

 呆気にとられる俺だったが、姿勢を崩さずにいると、ユキムラが口走った。


「魔王の遺体なんて何処にあるんだよ」

「はっ? お前なー……ええっ!?」


 流石に節穴かと思った。

 こんな分かりやすく、というより、遺体が転がっている傍でよく戦えるなと思った。

 けれど間違っていたのは俺の法だったらしい。

 指を指した場所。そこにある筈の、ベルファーの遺体が消えていた。


「はっ、えっ、まさかベルファーの奴!?」

「やっぱりお前が魔王なんだな!」

「ベルファーぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ベルファーの奴、遺体を消しやがった。

 マジか、これマジでヤバいぞ。

 ユキムラ達は勇者パーティーとして、俺のことを、こんな一般人の俺を本気で殺そうと向かって来る。威圧感に刺されながら、俺の顔色が変わると、勇者パーティーとマジバトルになってしまった。

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