第9話 対決:自称魔王VS設定魔王3

 ベルファーの放ったベルボルケーノを俺は喰らった。

 周囲をマグマに囲まれてしまい、身動きが本気で取れない。

 ましてやコートの力でマグマを弾き飛ばすなんて真似できる訳もなく、俺自身を守るだけで必死だった。


「ベルファーって、本当に魔王なのかも。ってなると、こっちも本気で相手するしかないか。それこそ、殺す気で」


 悠長に言葉を交えている暇はない。

 なんとかして、いち早くマグマの中から抜け出す。

 俺はカガヤキの魔法を駆使して、この状況を引っ繰り返すことにした。

 そう、例えベルファーがいくら炎を操る魔王だとしてもだ。炎を操れるのは、ベルファーだけじゃない。


火星マーズ・の吸炎ドレイクファイア!」


 両腕を広げ、俺は大胆に魔法を唱える。

 二つの赤い魔法陣が現れると、周囲を飲み込むマグマを、一気に吸い込む。

 ドロドロと生き物のように蠢くマグマを吸い上げると、黒焦げになった床が見えた。


「な、なんだ。貴様、なにをしている!?」

「決まっているだろ。お前の魔法を貰ってるんだ」

「我の魔法をだと? バカな話があるか。我の魔法は、魔王の魔法。お前のような存在が、きやすく触れていい訳が……な、なに?」


 ベルファーは信じられなかった。いや、信じたくなかったのだ。

 ベルボルケーノがみるみるうちに無に帰り、部屋中を埋め尽くしていたマグマが消えて行く。

 全て俺の魔法に吸収されていき、慄いている姿が目に留まった。

 指先がピクピク震え出し、指輪から光が消えて行く。


「ふぅ。時間はかかったが、とりあえずマグマは消したぞ」

「バカな。あり得ない。そんな筈があって……くっ、カガヤキ。やはり貴様は面白い、だがな、少々やり過ぎだ。我を愚弄する行為、万死に値する」

「殺す気で来いって言ったのは、ベルファーじゃないのかな?」

「黙れ! 我に口答えをするな。我は、我は魔王だぞ」


 調子に乗っていたベルファーは威厳も何も無かった。

 完全に化けの皮が剥がされてしまい、余裕が無くなって行く。

 もはや器とかの問題じゃない。

 ベルファーは心底俺のことを忌み嫌うと、指輪をかざし、最大の魔法を放つ。


「許さんぞ。割れの魔法を侮辱した罪、その命で晴らせ」

「さっきから設定がグチャグチャだな。少しはキャラを保って……」

「黙れ! ベルファイア・ディストラクション」


 ベルファーは右手を天井にかざした。

 魔法陣が展開されるが、その大きさはこれまでとは違う。

 もはや俺とベルファーだけじゃない。この部屋ごと飲み込んでしまいそうで、危険極まりない。まさに命懸けの攻撃だった。


「我ごと飲み込み、全てを破壊する。この魔法の前に、世界は、崩壊する」

「ん? 世界ってことは、この魔法、外にも広がってる?」

「無論だ。貴様を殺すため、世界も壊そうではないか。無論、我以外をな」

「俺のためにそこまで……うざっ」


 俺はベルファーの行いを許せなかった。

 見過ごせないのは最もで、このまま放置すれば、俺もベルファーもただでは済まない。

 更に被害は拡大する。ベルファーの言うことが本当なら、この魔法が発動したら最後、この世界? は崩壊してしまう。

 そんな真似、絶対にさせない。させちゃダメなのは分かるし、今止められるのは俺しか居なかった。


「さぁ、止めてみよ。抗ってもよ。我を楽しませるのだ!」

「いいよ、それじゃあ楽しませてあげようか。俺の本気、カガヤキ・トライスティルの戦い方をな。ふんっ!」


 俺は魔法が発動する前に、ベルファーを止めに走る。

 遠距離からの魔法を放ってもいいが、それだと被害が大きい。

 部屋はいくら広いとは言えど、ベルファーなら余裕を以って防いで来る筈だ。


(それじゃあダメだ。ベルファーを倒せない)


「我に向かって来るか。確かに今の我に攻撃魔法は使えない……が、ただでやられると思うなよ」

「分かってるよ。ピリピリ感じる、ベルファーから放たれる熱がね」


 ベルファーの体からは見えない熱が放出されていた。

 近付いてくるものを簡単に跳ね除けてしまう程で、俺も宙のコートを着ていなければ、無事では済まなかった。

 だがしかし、近付けるのなら怖くはない。

 ベルファーに接近すると、俺は魔法を唱えた。否、武器を呼んだ。


「来い、〈地球の鎖鋸剣アースセイバー〉!」


 魔法陣とは違う、空間の歪みが起きた。

 まるでブラックホールのような穴を作り出すと、そこから一本の剣を呼び出す。

 俺の手の中に収まったその剣は、もちろんただの剣じゃない。

 まるでチェーンソーのような形状をした、特殊な剣で、見た目は完全におもちゃ。けれどその性能は本物で、“あらゆる物体を断ち切る”ことができる……設定になっていた。


「なんだその剣は!」

「これがお前を殺す剣だ。お望み通り、本気で殺しに行ってやる」


 俺はベルファーに飛び込んだ。

 防御が取れないベルファーは逃げることができない。

 かと言って逃げることもしないで、俺と真っ向からぶつかり合った。


「来い、カガヤキ!」

「そうさせて貰うぞ」


 許可が出たので遠慮する必要は無い。

 俺は手にした武器のリコイルスターターを起動させると、チェーンソーが回転する。

 紫色の光を放つと、ベルファーに叩き込んだ。

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