第7話 対決:自称魔王VS設定魔王1

 俺はベタな挑発をした。

 魔王がこんな挑発に乗って来るような、器の小さい人じゃないと思ったからだ。


「ふははっ! この我を愚弄する気か」

「あれ、乗って来るんだ」


 まさかの器の小さい魔王だった。

 俺は唖然としてしまうが、ベルファーの怒りの沸点は臨界点を突破している。

 右手の人差し指に嵌めた指輪がギラギラ輝くと、言葉の矢を俺に突き付ける。


「我を愚弄した行為、素のみを持って償って貰おうか」

「嫌だな」

「問答無用だ! ベルファイア」


 ベルファーは指輪をかざした。

 魔法っぽい掛け声と共に、指輪を中心に、ベルファーの右手が真っ赤に燃える。

 轟々と燃え滾る炎の塊を手にすると、俺に向かって、まるでボールを投げるように放った。


「まずは小手調べだ。我の魔法、どう止める」

「どうって言われても……よっと」


 止めるなんて真似はしない。

 そもそもの話、魔法攻撃を魔法攻撃で相殺するのは普通っぽい。

 そんな無駄な攻防に魔力? を使うのは癪なので、俺は軽やかに飛んだ。


 丁度右側に一歩分避けると、ベルファイアと言う魔法は、俺のことを素通りする。

 別に曲がって来る訳でも無く、ただ真っ直ぐ鉄扉にぶつかった。

 灼熱の炎で鉄扉を焦がすと、ベルファーは俺のことを注視する。


「何故避けた」

「いや、避けるだろ」

「この我の攻撃を避けるなど、不愉快極まりない!」

「また古典的なボキャブラだな。国語の先生やった方がいいよ」


 俺は正直に、ベルファーは凄いと思った。

 自称魔王な設定も、俺と違ってマジでやっている。

 きっと教師になれば、生徒達からの人気は爆上がりだ。

 そう思って一人頷くも、ベルファーは腹を立てた。


「黙れ、カガヤキ!」

「……」

「なにか言え!」

「黙れって言われたから黙ったんだけど?」


 俺はベルファーのことをおちょくった。

 少しでもベルファーのペースを乱し、心の余裕を無くそう言う姑息な技だ。


 もちろん本当ならこんなことしたくはない。

 俺が天河晃陽なら、見え透いたような姑息な業を使いたくない。

 けれど、今は違う。俺は、一応設定では魔王の力を持った人間、カガヤキ・トライスティルなのだから。


「まあいいか。それで終わりか?」

「終わりな訳が無いだろう。ベルフレイム!」


 ベルファーは次の魔法を放つ。今度はベルファイアじゃない。

 一体どんな魔法なのか、警戒していた俺だったが、ベルファーの姿を覆う程、巨大な火球が現れる。

 これがベルフレイム。ベルファイの一つ上。全身が警戒する中、俺はコートを手にし、闘牛をするように煽った。


「そんな安物のコートで、我の攻撃を消せるものか!」

「安物……そっか」


 少しだけ頭に来た。

 確かに如何にもコスプレ衣装なコートだが、デザインや素材には美玲が携わっている。

 せっかくノリノリで作ってくれたものを、罵倒されれば俺でも怒る。

 ムカついたので睨みを利かせると、目の前に迫るベルフレイムにコートを触れさせた。


「確かにいかにも安っぽいコートだけどな」

「ん?」


 ベルファーは異変を感じ取る。ベルフレイムが止まったのだ。

 全てを焼き尽くす灼熱の炎、それがベルファイア。

 ベルフレイムはその上位強化版にもかかわらず、まるでビクともしない。

 圧倒的な威圧感をベルフレイム越しに感じ取ったベルファーは、流石に唇を震わす。


「な、なにが起こって……はっ!」


 ベルファーは腰を抜かし掛けた。

 ベルフレイムが掻き消され、熱風だけが部屋の中を覆う。

 モワッと立ち込めた蒸気に視界を奪われるが、その先に光る、赤い角が見据えている。


「何故だ、何故貴様が立っている」

「当然だ。俺の設定だと、俺は無敵なんだからな」

「無敵だと。面白い、面白いぞカガヤキ!」

「面白がってくれるのは構わない。けどな……」


 今度は俺の反撃だ。

 コートを着直し、軽く誇りも払っておく。

 身丈を整えると、両手をパンと合わせた。


「俺の友達が頑張って作ってくれた努力を、踏み躙るのは許さないからな。ちゃんと謝って貰うぞ」


 もはやノリじゃない。これはカガヤキとしての設定じゃない。

 友人A&B。俺の唯一と言ってもいい親友二人のことを悪く言われれば、流石に頭には来る。

 冷静沈着で、普段から怒らない俺だったが、ベルファーの態度が気に食わないので、本気で叩きのめすことにした。もちろん、俺がソウルで、ボディはカガヤキでな。

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