2-4 ホフゴブリン

 ホフゴブリンと対峙するルナは、全身がこわばるほどの緊張を感じていた。


 目の前の魔物は、先ほどのゴブリンとは明らかに格が違う。

 筋肉質な腕、鋭い牙、まるで知性すら感じる狡猾な瞳。

 巨大な棍棒は、簡単に人間を吹き飛ばせそうな重厚感を放っている。


「みにゃさん、まずはアナリティクスしてみますにゃ!」


 ルナは震える声で呟き、視線をホフゴブリンに向ける。

 淡い光が瞳に宿り、ステータス画面が浮かび上がった。


――――――――――――――

種族: ホフゴブリン


レベル: 20

攻撃力: 300

防御力: 300


スキル: 巨棍乱撃

――――――――――――――


「れ、レベル20で攻撃力300越え……!? そんなの勝てるわけないですにゃ!」


 少女が後ろで震えながら、涙声で叫ぶ。


「私なんて助けなくていいから、逃げてください!あんなの無理に決まってる!」


 にゃん民たちも騒然となる。


にゃん民: 攻撃力300とかヤバすぎ!

にゃん民: これ勝てないだろ…

にゃん民: ルナちゃんどうするよ!?


「とりあえず、一撃だけでも与えてみますにゃ!」


 ルナはネコ発勁を繰り出す。

 拳から弾ける衝撃を、ホフゴブリンの胴体に叩き込む。


 しかし、ホフゴブリンは意に介さず、まるで虫が触れた程度にしか感じないのか、微動だにしない。


「ぜ、全然効いてない……!?」


 ホフゴブリンは巨大な棍棒を振り上げ、ルナ目掛けて一気に振り下ろす。

 空気を裂く轟音、次の瞬間、ルナの身体は木の幹に叩きつけられた。


「か、はっ……」


 息が詰まる痛みが走り、目の前がチカチカする。

 スライムやゴブリン相手とは比べ物にならない圧倒的な力。


にゃん民: ヤバいヤバい!

にゃん民: ルナちゃん死ぬなよ!

にゃん民: 同接増えればワンチャン強くなるだろ!みんな呼べ!


にゃん民: ヤバい!ルナちゃん死ぬなよ!

にゃん民: ちょ、どうすんのこれ!

にゃん民: 同接が増えれば強くなるって話あったじゃん!増やそうぜ!


 ルナは痛みに耐えながら必死に体勢を立て直そうとしている。

 彼女は同接や観客数を気にする余裕など微塵もない。

 ただ、戦わなければ少女を救えない。


「はぁ…はぁ…」


 必死に息を整え、再び構えようとするルナ。

 だが、その様子を見ているにゃん民は違った。


にゃん民: とりあえずSNSで呼びかける!

にゃん民: 掲示板にも貼ってくる!

にゃん民: ヘイト派でもいいから見てもらえれば力になる!


 ルナは苦しそうに息を吐き、必死の表情でホフゴブリンを睨みつける。


にゃん民: よし、オレはツイでRT祭りだ

にゃん民: 俺、ひきこもりなんだけど、10年ぶりに部屋出て母ちゃんに頼んでくるわ!

にゃん民: ワイはラブヘイトで宣伝する

にゃん民: ヘイトだろうがラブだろうが、今は同接が必要なんだ!


 ルナは何も言わず、ただ敵を見据える。


「(負けない…私はVTuber、猫神ルナですにゃ!)」


 息を整え、ルナはもう一度拳を握る。

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