第2話

朝早くに立つ旅人はみな寝静まり、

起きているのは不寝番だけの時間だが今夜は違っていた。


 当てがわれた部屋で話し込んでいる

若い一団。男ばかりならばむさ苦しいの一言だが、1人女性がいた。

しかし女性と言えるかどうか意見が別れそうだ。12〜14と見える歳の頃。

嫁に行く話が出ておかしくはないが、

男が『女性』に求める艶、色気が全く無い。

あるいは見た目より幼いのだろうか?

遅くに到着した客を出迎えた少女は、

先に到着していた若い一団に部屋に呼ばれ、応じたのだった。

 蝋燭のあかりのみで薄暗い室内。

名をきかれ、アルテと言った。

結婚もだが、親元を離れて住み込みの仕事をしていておかしくはない歳ではある。

しかし夜盗相手の警護役に適当とは思えない。

椅子に落ち着いた相手に黒髪の青年が尋ねる

『こんな時間に厩を任されていたのは

どうして?』

冷静な口調に威圧はなく、むしろ見知らぬ

集団(ましてや男だけ10人近く)に囲まれている状況の少女(あいて)を気遣っている様子だった。テーブルには湯気の立つ温かい茶と菓子が用意されている。

『当番の人が食事を取りに行っていたからですよ』

相手は特に構える様子もなく答えた。

夜の当番もだが、やはり厩の仕事は女性のものとは言い難い。

『君の年頃なら普通は厩の見習いよりも

別棟の下働きとかじゃないかな?』

『だよな。なんで厩なんだ?』

2人目の口調はぶっきらぼうでこそあれど、

『小さい女の子』が男達に囲まれた職場で働く事を案じている様だった。

『屋内の仕事にしても、客の世話役と掃除、洗濯、台所の裏方とがある。

女性の職場だし、台所と洗濯は客の分と従業員の分がある。手はいくらあってもいいだろう?』

 関所をはさんで広がる街は道に沿って商店や宿屋が並ぶ。しかし今彼らがいる宿は道を外れて店を構えている。

空から見下ろせるなら、幾つもの棟や小屋が寄り集まって、別の小さな村が存在するかの様に見えるだろう。これだけ大きな宿であれば部屋の種類も様々。団体専用の棟だけでなく、個室用の棟、賓客用の棟もある。にもかかわらずどうしてと彼らは言っているのだ。

一方心配されている方はあっけらかんとしていた。

『周囲が言うに、わたしは『思い人』なんだと。自分では見えないし感じられませんが、いるだけでいいからって頼まれて。

でも何もしないでタダ飯食うのは問題だし、

気分悪いし。だから人手が足りない所で手伝いをしようって。その時々で忙しい所にいます。ご主人にも許可を貰っています』

自分を気づかう2人に笑って続けた。

『厩に居たのはほんとの当番の人が食事に

行っていたからです。その間だけって。

お客様が途切れる時分だったし。

今日は特に忙しくて、みんなくたくたになっていて。朝も忙しくなるのは間違いないから

他の人はもう休んでいたんです』

『思い人だって?』

『ほんとかよ?』

先の2人はもちろん、部屋にいる者それぞれ驚きを表した。

さらなる質問が彼女に飛びそうな流れを

『そんなのはどうでもいい』

ぶった斬ったのは最後に到着した客。

一瞬の間。

『だろうね。この部屋にいる人達にとって重要なのは、その姿をよりにもよって1番見せたくない若い娘に見られてしまった、1番避けたい事態が起こってしまった。どうするかの方だもんね』

平然と鋭く答えたのは、発言者の強面に最も怯えてしまいそうな少女、アルテだった。


 



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