第12話

テオは運び込んだチーズをつまみに葡萄酒の入ったグラスを傾けていた。葡萄酒の液面に満月が映り込む。


「さすがに寒いですね。これが無いとツライ」


「うむ、だが酒精があればなんとかしのげよう。そう、あの時もこれくらいの寒さであったように記憶しておる」


食事を終えたらしいネコがテオの膝の上に乗った。


「例の勇者様が暦に対して強く言う切っ掛けになったとかいう」


「うむ。その頃は大森林の南にあった国を魔族の手から解放せんと歩みを進めていた。その頃はまだあったその獣人たちの国を皆はツーノクと呼んだ」


「ええ、九つあった小国を初代の獣人王が纏め一つの国とした、国は栄えましたが魔王により滅ぼされた」


「であるな。旧友ともの奮戦むなしく王がたおれた」


「ええ。その後、ツーノクの民は宗教を共にする当時は帝国だった我が国に庇護を求め、これを併合。現在でこそ自治区ですが国際上は我が国の領土であり国民です」


「うむ、獣人王の血を継ぐものの無くなったあの時、ツーノクは国を九に分かつしか方法が無かった」


「しかし、それでは九つの国で再び争いが起こることは必至でしたでしょう」


「であるな。そこで旧友ともが骨を折ってまで各小国の王。否、族長と言うが正しいかのう、それらに話をつけて回った」


「ええ。そしてあの有名な氏族会議へと繋がる訳ですね」


「ああ。時には文字通りに骨をおり、寝る間を惜しみ、我からすれば魔王に決戦を挑む前夜以上に疲弊をしていた。のであるが…… 旧友ともはなぜそこまでして尽力をしたのか、この国での立場を失いつつあったからと言うのが定説のように昨今では聞き及ぶが、それだけでは無いと我は考えている、まあ、我にしても推測の域を出ぬが……」


「獣人王を救えなかったからでしょうか」


「うむ、うぬもそう考えるか」


「ええ。勇者様が壮年に書いた日記にも度々出てくるので、もしかしてと」


「ふむ、壮年というと旧友ともがこの国を去る前の物か」


「ええ。そのようです。この国を去る2年前あたりから」


「どのように書かれておるのだ? 直接的に死を悼むものか、それとも……」


「どちらかと言うと思い出を、獣人王と飲む酒は格別だったとか、夜通し会話したとか」


「ほう…… 夜通し……」


「ええ、気がつくと朝だった、あの頃が懐かしい、とかとか」


「なるほどのう。うむ…… まさかとは思うが……」


「まさか。ですか?」


「いや、なに。いらぬ考えに至っておった。今となればどうにもできまい、邪推と言うやつであろう。気にする事は無い」


「邪推ですか」


カタと音をたてテオがワイングラスを手に取る。


「あ、もしかしてその時の獣人王って女性でした?」


「ほほほ。聡いのう、うぬは。気づいたのは我と旧友とも、もしかすれば小僧は悟ったかもしれぬが小童は、よもや気がついておらんかったろうの」


「大魔導師様はどうなのでしょう」


「小娘はどうであろうな、気がつく以前に気にすることも無かったのではないか?」


「ああ、そうか。たしかに」


「して、うむはなぜそのように思った」


「獣人王が女性ってところですか? 決まってるじゃないですか。勇者様が男性と朝まで語りあうなんて事しませんよ。ましてや相手が王なんて肩書きであれば尚更です」


「ほほほ。ウヌもだんだんと旧友ともの人となりがわかって来たようであるな」


「ええ。お陰様で。ネコさんの」


「ほほほ、我のお陰と申すか」


「ええ」


「してウヌよ。我もさすがに寒うなってきた。それに月も隠れた、部屋に戻るぞ」


「ですね。僕も風邪をひいては明日からの護衛が務まりません」

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