第8話

 他にも庭木に猫が爪を研いだ痕だったりとか、抜け毛が枝葉に絡まっていたりしていたそうなのですが。やはり、決め手は亡くなった小鳥さんに付けられた歯型でした…… うーん、歯型というと少し違うのかも。牙の跡というか、その幅がツウちゃんの捕まえてきた猫ちゃんとぴったりと。

 指導役の下士官さんも、さらには中佐さんも最初こそ疑ってましたが、ツウちゃん以外の新人さんも猫が置いて行くのを見たと証言したんです。

 皆んなが皆んな人間が死骸を置いて行くものとばかり思ってましたから、私たちの家の門に近づく人ばかりに気をとられて、塀を軽々と乗り越えられる猫なんて誰も気にしなかったんですね。

 でも、ツウちゃんは気づいた、母に庭を見させてくれって言ったその日の夜には他の新人さんたちも説得して、庭を下見した時には逃走ルートも想定して。犯人が猫だったらって言って、そのルートを塞ぐように他の二人を説得の上で立たせたりして。そんな事まで事前に打ち合わせて。

 ツウちゃんが捕まえてから3日間、新人さん達が見張りをしたお向かいさんのお部屋で猫ちゃんを閉じ込めました。

 そうそう、ツウちゃんったらご実家に連絡して貴族様が使うような猫ちゃん用のトイレやケージなんかも用意したんですって。その上で少佐さんに掛け合って、この猫の犯行で無いのであれば明日、明後日と玄関先に死骸が現れるはずですって。張り込みも続けながら、猫の監視もさせて下さいと。


 ____


 ええ、止まりました。その日からぱったりと。

 そして猫ちゃんが捕まってから4日目の朝、出勤前の中佐さんが家に来て言ったんです。やはり、あの猫による犯行のようですって。父も母もなんなら中佐さんも不思議そうな顔をしてましたが、私は何故かホッとしました。こんな事を言うと変かもしれませんが、猫ちゃんが犯人だって事が私には凄く納得できたと言いますか。これからはあんな事に悩まされる心配は無いのだろうなって思えたんです。

 そのことについて昔、友人に言われたのですが。それは、もし新たに死骸が見つかっても猫による犯行なら気にやむ必要がなくなったからでしょう? ってそう言われたんです。でも、違うの。また変な事を言うって思われるかもしれませんが、それともまた違うんです。私も言葉にする事が難しいのですが、心配は無くなったんだなって、ただその時はそう思ったんです。

 そしてその思いも直ぐに確信に変わりました…… いえ、確信と言うと大袈裟かもしれません、その思いが強い物に変わったと言うほうが自然かもしれません。

 というのも、中佐さんが捕まえた猫をどうするか悩んでいると仰いました、このまま解き放てばまた死骸を運んでくるかもしれない、とはいえ中佐さんの家で面倒をみる事もできない。いま思うとこの頃には出世が決まってらっしゃったのでしょうね、出世とともに引越しも…… ええっと、話がそれちゃいましたね。

 私は咄嗟に私が保護しますって言ってました。なんの考えもなく、不意に言葉が口をでました。もちろん両親に相談も無く言った言葉なので、中佐さん以上に母も父も驚いてましたね。でも次の瞬間、母はやれやれといった表情で、父は眉根を上げながらささやかに微笑んでました。二人とも私がそう申し出る事を薄々はわかっていた、そんな表情でした。

 午後には新人さんが二人して囲と猫ちゃん用のトイレを我が家に運び入れてくれました。その直ぐ後に猫の首根っこを持って捕まえながら、ツウちゃんが家にきました。私はツウちゃんが抱っこした猫に語りかけてしまいました。これからは家のお留守番をお願いしますね、母さんを護ってあげてって。そしたら猫ちゃんがにゃあって返事したんです。その時ですね。ああ、これからは悩まされずに済むんだなって。そう強く思えたんです。

 猫ちゃんが返事をしてくれた後、ツウちゃんが言うです。賢い猫です、共に過ごしたのは三日だけですが私が保証します、もう安心ですって。そして私に猫ちゃんを手渡すと、エサを運んだりはもうしないもんにゃーってツウちゃんそう言って頭を撫でてました。

 それが、ツウちゃんと私の初めての会話というか、交流ですね。

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