第109話

尾道駅で祖父と合流した僕は、そのままフェリーに乗った。5分ほど水上を走ると、向こう側のフェリー乗り場に到着。ここが、しまなみ海道のスタート地点と言われている『向島』である。祖父母の家は、古い平屋造りの借家であり、集合住宅の中の一軒にあった。

引き戸を開けて声をかけると、台所から祖母が出てきた。5年ぶりの再会だった。15時のおやつの時間、僕は祖母と一緒にお菓子を食べながら近況報告をした。祖父母とは新年の挨拶の時に電話で話すことは毎年のことだったが、直接会うのは久しぶりで、祖母から言われたのは、声が父親に似てきたということだった。以前、祖父と電話で話した際、会話がかみ合わず、祖父は僕の父、つまり自分の息子と話していると勘違いしたことがあった。その話をしたら、祖母は腹を抱えていた。


晩になり、祖父と祖母と共に夕飯を囲んだ。今や死語となった『男子厨房入るべからず』という言葉がかつてあり、おそらく祖父母の時代ではまさしく専業主婦が多く、台所は女性が立つのが主流だった。が、当時から祖父は台所に立っており、思えば幼少期から祖父母の家に遊びに来た時は、いつも夫婦で台所にいるのが印象的だった。

この5年の間で、かつて原付バイクを運転していた祖母も免許を返納し、かつては近くの畑で野菜を耕していたが、今は家の前でプランターに植えた苗でちょっとした野菜を作ったり、干し柿を吊るす程度にとどまっていた。また、祖父母とも緑内障や白内障のため目薬が欠かせなかったり、祖母は寝る前に通院先から処方されている眠剤を飲んでいるなど、夫婦だけの生活の中で起きている変化を感じていた。

翌朝僕が起床すると、祖母は台所で卵の殻を細かくしていた。聞けば、肥料にするのだと言う。祖父は朝から自転車で買い物に出かけ、ふと僕は仕事や締め切りに追われず、こういう何ともない日常がいつまでも続いてほしいと思っていた。

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