第108話

広島駅の夜の街は、小雨に濡れていた。駅を降りた僕は、『広電』と呼ばれる広島市内を走る路面電車に乗り、ある駅で下車。そこは名古屋の大須商店街のように様々な店が立ち並ぶ商店街通りで、一角には飲み屋等が多いちょっとした繫華街になっていた。スーツケース片手に、僕は田舎から上京してきた者のように建物とスマホのマップを見比べながら、周囲を歩いた。

あるテナントビルの中に、小さなバーがあった。傘を閉じ、ドアを開けるとカウンターで接客をしている女性がいた。この人こそ、3つ上の父方の従姉である。5年ぶりに聞く広島弁に懐かしさを感じながら、従姉やたまたまカウンターの隣になった常連客と一緒に、酒を飲みながら楽しい一時を過ごした。僕は地元のお土産と一緒に、もう一つ持ってきたものがあった。それはちょうど20年前の夏、祖父母の家で撮った従姉と僕が映っている写真である。あれから、もう20年の歳月が流れているかと思うと、感慨深いものがあった。


店の閉店後、タクシーに乗って、従姉のマンションに向かった。歯科衛生士の専門学校を卒業し、そこから数年は歯科衛生士を続け、今は夜の仕事をしている従姉だが、いずれはまた戻るかもしれないと言われた。SNSで状況は分かっていても、直接会うのは5年ぶりということもあり、様々な近況報告を話し合った。お互い飲んだ後だったので、カップ麺を食べながら。

そのまま眠りにつき、目覚めたときには翌朝の9時を回っていた。従姉に近くの駅まで送ってもらい、そこから各駅停車の電車に1時間乗ると、尾道駅に到着。子どもながらに見た造船場やクレーンと言った懐かしい景観が目の前に広がった。スマホで祖母に連絡をすると、もうフェリー乗り場まで祖父が迎えに行っていると言う。少し歩いて、フェリー乗り場に行くと、どっしりとした体形の見慣れたシルエットがあった。「おじいちゃん!」と呼ぶと、祖父はこちらを振り向いた。

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