第106話

1月の第2週、この日は地元で成人式が開催され、我が家でも20歳になる弟が出席することに。普段はコンビニの作業服の弟も、この日はスーツ姿でビシッと決めていた。ネクタイ締めには当然慣れていないので、僕が教えながら何とか締めることができた。玄関前で家族の集合写真を撮ると、弟は僕が成人式を行ったところと同じ総合体育館へと向かった。

アカデミーレッスンは、基礎を学ぶことのできる環境だった。『外郎売』や『あめんぼ』、『腹式呼吸』、『発声練習』はこれまでのミュージカル等の稽古でもやってきたが、『演技概論』はこれまで教わったことがなかったため、新鮮であった。

また、歌唱レッスンではキーのずれに気づかなったり、手拍子のテンポが合っていなかったりと、相変わらず歌の苦手さが露見していた。それでも、新規一転、リニューアルしたこのレッスンの雰囲気は、これまでの稽古のような殺伐とした雰囲気はなく楽しいものだった。


あるレッスン終わりの日、僕はRAと一緒に近くの喫茶店でお昼を食べた。レッスン外で2人で会うのは初めてのことで、RAもさすがに13歳上の僕と一緒に食事をするのが緊張しているのか、いつもはタメ口で元気だったのに、急に大人しくなり、なおかつ敬語になっていた。この違いに僕は思わず驚いてしまったのだが、この春で小学6年生になる彼はこれから思春期を迎えることになり、大人との距離感を考える年頃になるのだろうと思った。

レッスンとのギャップに驚きながらも、これからも楽しくレッスンをやっていこうと思っていた矢先、テレビやネットでは中国へ渡航歴のある男性がウイルス感染で死亡したというニュースが取り上げられていた。そこから1ヶ月もしないうちに、日本国内の累計感染者数が100人を超え、数日後には時の総理大臣が3月2日から日本全国の小中高校の臨時休校を要請。これからどうなるのか、先の見えない不安だけが募っていた。

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