第102話

市民ミュージカル本番の後、非公式の打ち上げで僕はメンバーたちと久しぶりにゆっくりと楽しい時間を過ごした。この作品を最後に、メンバーたちは卒業をしていくことも名残惜しいものがあったが、まずは無事に本番が終わったことをお互いに労った。

翌日にはハロウィンライブを控えていたが、共に出演するNYは明日のライブに乗り気ではなかった。元々は市民ミュージカルの告知のための開催だったが、台風で延期になった今、自分が出演する意味があるのかと疑問を呈してのだ。脚本の都合もあるから今になって変更はできないだろうと、僕はNYを諭した。

翌日、僕は午前中に入っていた仕事の予定を終えた後、ダンススタジオを訪れ、最終リハーサルを行った。そしてそのまま会場に向かうと、エントランスには特設ページが組まれており、デジタルサイネージもハロウィンの映像が流れていた。ダンスや歌、演技という20分の演目が終わると、観客席にはミュージカルで共演した子どもたちや、メンバーも数人見に来てくれていた。これが、僕にとって最後のステージとなるとこの時は思っていた。


ミュージカルやライブが終わってからの1ヶ月は、ゆっくりとしたものだった。もう本番を迎えることがなく、僕はたまっていた仕事に精を出す日々。そして11月末には、専門学校の友人たちに誘われたグランピングのために、滋賀の琵琶湖を訪れていた。

初の琵琶湖だったが、やはりお互いに気心の知れている友人たちとの旅は楽しいものだった。友人たちと飲み会に行くことはこれまで何度もあったが、遠出の旅行は初めて。ふと海外研修でアメリカに行ったときのことを思い出した。冬を間近に控えた夜の琵琶湖は寒かったが、それでも夜のテントの中でみんなとワイワイ談笑する時間は楽しかった。

翌日はロープウェイに乗って展望台へ向かい、一面に広がる琵琶湖を眺めた。いろんなものがひと段落したことを、僕は感じていた。

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