第98話

市民ミュージカルの稽古は着々と進み、その中で一番僕が苦戦していたのはダンスだった。初舞台の時も振付を覚えるのに苦戦したが、今回はダンス教室を主宰するMMが振付をするということもあり、振付は本格的でテンポも早く、手と足が追いつかないことがよくあった。だがその中でもメンバーや小学生キャストたちとの交流もあって、団結して振付を覚えていった。

9月に入って間もなく、KKが休憩中にAYに相談をもちかけていた。それは、本番2週間前に会場のある公共施設のエントランスで行われるステージライブに、ミュージカルの告知も兼ねて主演のNYに出演をしてもらおうということだった。作中でほぼ出ずっぱりのNYにこれ以上の負担はかけられないと反対したNYだったが、告知のためにと急遽20分程度のプチミュージカルとしてKKが脚本を書き始めてしまっており、ミュージカルの稽古に影響が出ないようにという条件で、ステージライブの企画が決まった。


公民館の大会議室で場面ごとの通し稽古をするようになった一方、隣の小会議室でステージライブの稽古が同時進行で行われた。だが主演のNYが、ステージライブの稽古に参加しているため、メインである市民ミュージカルの稽古は代役で通すことになってしまった。

ステージライブには、もう一人の主人公ポジションであるJHや運営兼メンバーリーダーである僕も出演することになったのだが、案の定ステージライブの存在を快く思っていないキャスト陣がいるのは、空気を読んで感じ取っていた。この頃、AYを中心とした演劇中心派及びメンバー、小学生キャスト陣の保護者派、運営派という3つの派閥ができており、それぞれの意見を聞いて連絡調整や対応をしなければいけない僕は、もはや自分でもサンドバックと自虐とするほどの板挟み状態であった。やはり、リーダーとしては復帰したものの、そろそろ潮時なのかもしれないと思い始めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る