第97話

お盆明けから本格的に、市民ミュージカルの稽古が始まった。配役も正式に発表され、僕はアンサンブルとして、作中で店の行列に並ぶカップルの役となった。カップルとなると、当然相手役もいるのだが、その相手というのがフリーモデルをしているTAだった。とても不釣り合いだと思いながらも、稽古を共にすることに。

同じ場面に登場することになるMNも、同年代ということもあり、TAたちと一緒にこの頃から休憩時間によく話すようになった。MNはその温厚な雰囲気から、出演者である小学生からも人気のあるお姉さんポジションになっており、僕も小学生たちと一緒にコミュニケーションを取る時間が増えていった。

稽古は場面ごとに行われているのだが、主演のNYはほぼ出ずっぱりで、他の場面での共演者との練習ができないため、僕が代役として読み合わせに参加することも多々あった。こういう機会の中で、様々なキャストとのコミュニケーションを取るようになっていた。


平日の夜、NYは仕事帰りに公民館やカラオケの一室を借りて、演出のAYや少数の共演者と稽古することがあり、僕も代役として参加することに。アンサンブルで、台本上に僕のセリフがない代わりに、こういう場でメインキャストのフォローに入るのも重要な役目であることをAYから教わった。

仕事がある中、本編約90分出ずっぱりのNYだが、2回ほど台本を見ながら稽古をすると、もう3度目からは台本を外しているという驚異的な記憶力に僕は感心した。やはり高校演劇から、現場を知っている人間は違うと。

稽古の帰り道、僕はNYから今作が終わったらグループを卒業すると伝えられた。声優志望のNYは、来年4月には上京して養成所に行くのだという。また僕に対しても、いつまでグループにいるのかと尋ねてきた。グループとして次の予定がないのなら、今が引き際かもしれないと返って諭され、僕は今後のことを考えるようになった。

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