第32話

「なに…」




「いいから早く!!」




怒ったような環の声に思わず圧倒され、三瀧は声にならない声で悲鳴をあげ続ける青年を手探りで捕まえると、まだはっきりしない視界のまま外へ引きずり出した。




バタンと扉が閉まる音を確認すると環は静かに視線を上げた。




「……貴女には同情するよ」




ベランダの方を見据え相変わらず冷静沈着な顔で呟く。




すると、暗がりの中でカーテンがふわりと揺れ、次にうっすらと光に縁取られた女性の姿が宙に浮かんだ。




空気を含んだボブヘアに小花柄のワンピースを着て薄手のカーディガンを羽織る彼女は、見た目こそ愛らしいが体全体が透けている。

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