第25話

「じゃあ小野寺先輩、ごちそうさまでした。容器、洗って返しますね」



「あ、いいですよ、そのくらい…私の洗う"ついで"ですから」



慌てて奈月から空のお弁当箱を受け取る。



「そうですか……じゃあ今度お礼させてくださいね」



幼さの残る笑顔と甘い声を向けられて、夢は思わずうっとりとしてしまう。



奈月に続いて坂口も席を立ち、その場を去っていく。



と、何かを思い出したように坂口が足を止め振り返った。



気づいた夢と目が合う。



「玉子焼き、旨かった。ごちそーさん」



真顔でそう言うとすぐに背を向けまた歩き出した。



「え、と……は、はいっ…」



夢はもう届かない距離まで遠ざかった坂口に、恐らく聞こえないであろう声をかけた。



その様子を、人知れず奈月だけが見つめていた。



いつも楽しそうに細められる目は、なんの色も宿していないようだった。

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