第26話

* * * *


「小野寺さん、なんかいいことでもあったの?」



午後。少し離れた席の部長がコーヒーで一息つきながら声を上げた。



その声に経理部内の社員がチラチラと夢に目をやる。



「え、は…い、いいえ…」



夢はどもってしまい、どちらとも取れない答えを発しながらペコリと控えめに頭を下げた。



「小野寺さんが笑うなんて、吹雪にでもなるのかなー?」



部長の冗談に、部内からクスクスと笑い声が漏れる。



恥ずかしくなって両手で顔を押さえると、赤くなっているのかすでに熱かった。



どうやら無意識ににやけてしまっていたらしい。



こんなこと初めてだ。人前で笑うなんて、部長の言うように吹雪にでもなるかもしれない、と夢は思った。

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