第五話 「近いうちにまた……」

 あの女性を見かけてから二週間経った土曜日の正午過ぎ。僕は友人とハンバーグ店で食事をしていた。



「付き合ってた子に?」


「うん。髪型も含めてそっくりでさ。『もしかして……』と思って」



 中野勇斗なかのゆうとは僕の言葉に唸るように息をつくと腕を組み、窓の映る外の景色を眺める。



「何かが二人を引き寄せているのかもしれないな。もしかしてその子……」



 勇斗はその先の言葉を発することなく、視線を僕へ移す。



「『もしかして……』何だよ?」



 僕が問うと、勇斗は「自分で考えろ」と言うように口元を緩め、腕組みを解く。そして左手にフォークを持ち、ハンバーグを口へ運び、表情を緩める。


 僕は勇斗の言葉の続きが気になり、なかなかフォークを掴めないでいた。


 勇斗はフォークを置くとグラスを傾け、喉を潤す。グラスをゆっくりとテーブルへ置き、再び左手にフォークを持つ。そして僕の様子を見て、呆れたような笑みを浮かべ、こう語りかける。



「近いうちにまた姿を現すかもしれないぞ?」



 勇斗の言葉からすぐ、入口付近から女性従業員の声が僕の耳に届く。



「いらっしゃいませ」



 聞き覚えのある声に、僕は何かを期待するかのような気持ちを抱き、視線を入口付近に立つ女性の後ろ姿へと向ける。


 しかし、心の中に潜むもう一人の僕がその気持ちを抑え込む。



「そんなこと、あるはずないか……」



 僕は期待を打ち砕かれたかのようにポツリと言葉を漏らすと、ライスの皿を持った。


 同時に、どこからか視線を感じた。



 あの時と同じように、僕へ何かを語りかけるような視線を……。

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