二章 淡い桃色濃い恋心
第四話 序章・叙情・友情
小鳥の囀る声だけが聞こえる部屋で、僕は目を覚ます。カーテンを開くと、キラキラと日が差し込む。叔母さんと和解をして、僕の生活で変わったことがいくつかある。その一つが、部屋をもらったことだ。屋根裏から卒業したのだ。今振り返ると、屋根裏での生活も悪くなかったかなと、思ったり思わなかったり。でも、身体が痛くないのはやっぱり嬉しい。
相変わらず家具と呼べるものは少ない。勉強机と、さっきまで寝ていたベッド。そして、両親の写真。僕はその写真を手に取って眺める。この写真が変わったところの二つ目。叔母さんに仲直りの印にと、写真立てを買ってもらった。とくに装飾はないけど、木の温もりを感じるシンプルな写真立てだ。
僕はいつも通り写真立てに向かっておはようすると、そっと元の場所に戻す。当然、変わらないことだってある。
僕は制服に着替えて、ダイニングに向かう。
ダイニングにの中に入ると、何かを焼いてる音と味噌汁の香りがする。
「おはよう颯人。もうすぐ朝ごはんできるわよ」
叔母さんは忙しく作業をしながら、だけど僕を見て笑顔で挨拶をしてくれる。僕もそれに笑顔で応える。 これが変わったことの三つ目。叔母さんが朝ごはんを作ってくれるようになったことだ。
今日の朝ごはんは焼き鮭と味噌汁とお米だ。叔母さんの料理はいつも美味しい。
「仕事行ってくるね」
叔母さんは朝ごはんを作ると仕事に行ってしまう。スーツがバッチリ決まっててかっこいい。本当はずっと一緒にいたいけどそうもいかない。
朝ごはんを食べ終わると、支度をして後を追うように学校に行く。
今日はとてもいい天気だ。爽やかな風が頬を撫でる。自然と足取りが軽くなる。
―学校に着くまでは本当に幸せだ。
授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響き、委員長の号令で授業が開始する。
僕はノートの最新のページを開く。
「えっ?」
と、声が出そうになったのを必死に堪えて、慌ててノートを閉じる。そして、深呼吸をして恐る恐るノートを再確認する。だけど僕が見た光景は夢でもまやかしでもなく、紛れもない現実だった。「バカ」「アホ」などの低レベルな悪口が僕のノートを埋め尽くしていた。黒が密集していて、少し不気味だ。目を背けたくなる。僕は呆然とノートを眺め、一つ一つの悪口を確認してしまう。怖いもの見たさというやつだろうか。先生が何か言ってるが、全く耳に入ってこない。相変わらず自分のメンタルの弱さには呆れる。少し不都合が起こるとパニックに陥ってしまう。
ノートの隅から隅まで罵詈雑言を嫌というほど堪能すると、右端の方に一際長い悪口があった。正確に言うと、それは悪口ではなかったのだが。
「髪のことをバラされたくなかったら、今日もいつもの場所に来い」
いつもの場所というと、この前もボロ雑巾のようにボコボコに殴られたトイレだろう。わざわざ殴られに行くなんておかしな話だ。だけど、あいつらは僕の髪のことを知ってる。行く以外の道はないだろう。こんな僕にほんの少しの勇気があったら、お前らが虐めるからストレスで白髪になったとでも言ってやろうか。だけどそんな幻想は無駄だ。残念なことにこの髪は生まれつきだ。虐めとはなんの因果関係もない。妄想で復讐する事はなんの生産性もない。
代わりに推理をしてみようかと思った。授業そっちのけで。アマテラスみたいに。
「俺の驚くべき天才的な推理を全聴覚を酷使して拝聴するがいい」とアマテラスが言ってたのを思い出す。思わずニヤついてしまう。その天才的な推理をお借りしたいところだが、アマテラスは少し考え事をしたいらしく、呼びかけに応じない。きっと何か凄いことだろうし、邪魔しないでおこうと思った。虐められてるところも見られなくて済むし。
アマテラスは僕のことをどこまで知っているのだろうか。出会った時、知ろうと思えば僕の考えてることは全部お見通しだと言っていたけど、アマテラス的には僕の人生にできるだけ干渉したくはないらしい。
そんな事を考えていると、アマテラスのある発言が気になった。僕の身の周りの人が不幸になることについてだ。僕は"あの日の対話"頭の中で映像を流して振り返ってみる。
「俺の推理が正しければ―
何者かが糸を引いてるんじゃないか?」
「何者かって?」
何者かが糸を引いている?だとしたら、極端な話になるけど、お母さんとお父さんが事故にあったのも、僕が虐められていることも。叔母さんの身に降り掛かった不幸は、叔母さんが僕を絶望させるように仕向けたかったからになるのだろうか。だとしたら許せない話だ。この説が確定したわけでもないのに自然と怒りが湧いてくる。手に力が入る。爪が刺さっているけど、痛みを感じない。
「悪い。余計なことを言った。忘れてくれ」
そんな様子を察したのか、アマテラスがそんな事を言う。
僕は手のひらに貼ってある絆創膏を見ながら考える。冷静になって考えれば、不幸を誰かのせいにするなんて間違ってる。全部僕の落ち度なんだから。アマテラスの言っていた通りに忘れるしかない。
ガタガタと人が立ち上がる音が耳に入り、僕はハッとする。授業が終わり、終わりの挨拶に入っていた。僕は少し出遅れて立ち上がる。
僕はアマテラスの来世にも関わらず、アマテラスみたいに賢くない、推理の真似事をしたって何も得られなかった。授業も受けられなかった。ノートもまともにとっていない。自然とため息が溢れる。僕は次の授業の準備を始めた。
ずっと頭の中で待ち合わせの約束がぐるぐるしている。何もかもが上の空のまま時間だけが過ぎていった。給食もほとんど味を感じなかった。時間が止まって欲しいと願っても止まらない。時間はいつも僕を置いて先に行く。
あっという間に放課後になった。帰りのホームルームが終わる。ガタガタと椅子や机が床と擦れる音やザワザワと話し声が広がる。僕はその騒音の中に取り残されたように呆然と立ちつくす。
―たった数分殴られるだけで終わる。
いつもそうやって割り切ってたのに、今日はなぜだかすごく怖い。震えが止まらない。叔母さんと分かり合えて生きる希望を得たからだ。人に憎まれるのが怖い。恨まれるのが怖い。傷つけられるのが怖い。
だけどこの約束を破れば、きっと髪の色をバラされるだろう。髪の色をバラされれば、この程度の虐めでは済まない。きっと叔母さんにも迷惑がかかる。
クラスの八割、九割いや九割九分の人とは話したことがない。見た目がちょっと人と違うだけで嫌悪の対象にするなんて本当にくだらない人たちだと思う。
だけど、そんな事を考えている自分にほとほと呆れる。本当にありのままの自分を受け入れられていないのは"自分"なのに。
僕は引き寄せられるようにノロノロと"いつもの場所"に向かった。側から見ればただのトイレに行きたいだけの人だろう。
トイレの入り口が地獄の入り口だなんて笑えない話だ。
「よく来たなぁ」
ニヤニヤと笑いながらリーダー格の人が僕の目の前に立ち塞がる。そして、取り巻きの2人が逃げ道を塞ぐ。1人は見張り。いつもの面子だ。
僕は取り巻きの2人に取り押さえられる。抵抗も虚しく、身動きが取れなくなる。
「約束通り…髪のことは…!!」
僕は腕をポキポキと鳴らすリーダー格の男を見上げて言う。
「あぁ、黙っててやる…よっ!!」
話しながら、流れるように僕の溝を殴らる。取り巻には解放されたが、僕は掠れた声をあげてその場にうずくまる。
三人が僕を見下ろしてくる。嘲笑ってる。
―手が伸びてくる。僕の頭を目掛けて。
また髪を見られる。嫌だ。怖い。この人たちにはもうバレてるのに、どうして。
髪を見られたらまた笑われる。お母さんとお父さんがくれた僕の身体を笑われる。僕にはこれしかないのに。嫌だ。笑わないで。馬鹿にしないで。否定しないで。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。自分の肉体を許せなくなるのが怖いよ。受け入れられないのが苦しいよ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
そんな時"あの浮遊感"に襲われた。
「悪い。正当防衛だ。だがお前なんかに神の攻撃は
―過剰かもなぁ!!!!」
僕の声であって僕じゃない。僕の声帯で喋っているが、僕の意思で喋っていない。僕はリーダー格の手首を掴んでいる。この時点ですごく痛そうだ。血が止まりそうになってる。そしてぐるりと捻る。バキバキと痛そうな音が広がる。
「いででででで!!ストップ!ストップ!!!!」
「えっ?」
唐突に僕に身体の主導権が戻ってくる。僕は言われるがままに腕を離す。リーダー格は腕を押さえて僕を睨みつけながら距離を取る。取り巻きが心配している。
「ずっと掴んでりゃ良かったのに」
アマテラスは唇を尖らせながら言う。
「で、どうすんだよ。下手に回ってる人間に対していい気になってる人間なんて俺とお前の敵じゃねぇ」
それはそうだけど…。
アマテラスが来てくれた。圧倒的な力を手に入れた僕にとって復讐は容易い。目の前の敵に今までの分殴り返してやりたい。だけど、僕の心のどこかがそれを拒んでる。
誰だって復讐が大好きだ。自分を散々虐げてきた人間が酷い目にあう話はいつと人気だ。人は常日頃から実は自分は強いんじゃないかって妄想に浸りながら泣き寝入りしてる。
だけど、復讐はそんな浅はかな気持ちでしていいものなんだろうか。殴られたら殴り返す。蹴られたら蹴り返す。でも、それって一生終わらない。
大切な人を殺されたらその人を殺す。だけど、その人だって誰かにとっては大切な人かもしれない。そしたら、次殺されるのは自分だ。
もし、誰にも負けないくらい圧倒的な力を得たら。死ぬほど努力してでもそんな力を得てでも復讐したいというのは、僕には良いとも悪いとも言えない。だけど、僕は運がよかっただけだ。偶然アマテラスの来世だっただけだ。
法律とか、道徳とか以前に僕は彼らを殴って復讐したいと思わない。復讐はまだ先でいい。まず、分かり合えるかどうか試してみたい。―自分の力で。
「こ、こんな不毛な関係…!!やめにしませんか…?」
「あなた達のストレス発散の道具になるなんて、そんな筋合い僕にはないです…!!」
震えてるし、つっかえながらになっちゃったけど頑張って言い切った。
いじめっ子たちは暫く黙ったあと、舌打ちをしながら去っていった。
僕はポツンと取り残される。
「よかったのか?これで」
…分からない。
僕は約束を破ったから、相手だって約束を破るかもしれない。人に暴力を振るってまでストレスの発散がしたかったということは、何か事情があったのかも知らない。僕はサンドバッグになる役目を降りた。僕を失ったら他の誰かが虐めの対象にされるかも知れない。
―あるいは、更生してくれるかもしれない。僕はそれを祈りながら今いる場所を後にした。
トイレを出てから少し歩いた。側から見ればトイレを終えただけの人だろう。そんな僕が突如ある人物に声をかけられた。
「颯人君!!」
声のした方を振り返ると、心さんが立っていた。
僕が呆然と立ち尽くしていると、心さんが距離を詰めてきた。
「今日なんか予定ある?」
人生で初めて予定を聞かれた。予定を聞かれたということは、何かに誘われるという事だろうか。僕は口を無理矢理動かして言う。
「ないけど…」
僕は包み隠さずに予定がないことを打ち明ける。
すると、心さんは安堵した様子を浮かべて言った。
「私の家に来て欲しい」
心さんは僕を真っ直ぐに見つめて言う。日本語を忘れたのかのように、何を言われたのかを理解するのに時間がかかった。
僕は確かに家に誘われた。どういう風の吹き回しだろうか。僕は思わず邪推してしまう。
数えるほどしか話したことのない人を家にホイホイ着いていくなんて浮かれすぎだ。なんかカッコ悪い気がする。できるだけ傷つけない形で断ろう。
断る…。断る…。僕は必死に言葉を選ぶ。脳みその中の、全語彙が敷き詰められた部分を必死に漁る。
心さんはそんな僕の様子を眺めてる。僕はきっと目が泳ぎまくっていることだろう。
言いたいことを頭の中でまとめると、何度も頭の中でシュミレーションをする。
これでいける。
僕は口を開いて、考え抜いた断り文句を述べる。
―はずだった。
「散らかってるけど、適当に座ってね」
心さんは嬉しそうな様子で、そんなことを言う。僕は言われるがまま、何かモフモフしてる絨毯に座り込む。
部屋に入った瞬間に一瞬全貌を見たの後、敢えてジロジロと部屋を見回すような変態行為はせず、ぼんやりと一点を眺めているばかりだからよく分からないけど、心さんが言うほど散らかってはないとは思う。むしろ整頓されてる位だと思う。
淡い桃色を基調とした部屋だけど、落ち着かない感じではなく、可憐な雰囲気だと思う。思わず萎縮してしまうほど。
「颯人君を招待したのはね、見せたいものがあったからなの」
心さんは、僕の向かいに座るって言う。手には熊のぬいぐるみを持っている。少し緊張しているようだった。
緊張しているのは、僕も同じだ。警察に職務質問されたみたいな、何かしちゃっただろうかという思索が、ずっと頭の中をぐるぐるしている。
「私、お風呂入ってくるね」
「えっ?」
心さんの突然の申し出に、僕は困惑して自然とそんな声が出る。狐につままれた顔という表現の例になれる自信があるくらい、困惑している。
そんな僕を差し置いて、心さんは「すぐ終わるから待ってて」とだけ言い残して、どこかへ行ってしまった。
僕は部屋に取り残された。心さんがいなくなっても、他人の部屋に入ると言うだけで、僕にとっては心臓バクバクな状況だった。
僕は少しだけ部屋を見回す。心さんが持っていた熊のぬいぐるみは、ベッドの上に戻っていた。
次に、本棚が目に入る。色んな本がぎっしりと敷き詰められている。背表紙のタイトルを見ると、見事なまでにどれも全部聞いた事も見たこともない。一番下まで知ってるのが一つもなかったら、パーフェクトということにしよう。
僕の暇つぶしが極限に達した時だった。
「本が気になるの?」
扉が開くと同時に、心さんが言った。あまりに唐突だったので身体がビクッてなってしまった。
心さんの方を見ると、そこには衝撃の姿があった。
―髪がこの部屋と同じような淡いピンク色になっていた。
僕の驚いている様子を察して、心さんが口を開いた。
「驚いた?颯人君に見せかったのはこれ…」
心さんはそう言いながら、さっきと同様に僕の向かいに座る。制服から、部屋着に変わっている。ラフな感じになっていて、目のやり場に困る。僕は、下の方に目線を落とす。
「これが本当の私の髪の色。生まれつきこの髪の色でね、小さい時にお母さんが黒に染めようとしたんだけど、なぜか水に触れるだけで元の色に戻っちゃうんだって」
水に触れるだけで戻ってしまうというのは、知らなかった。僕も同じなのだろうか。
心さんはここまでしか言わなかったけど、毎朝遅刻しているのは髪を染めてから学校に来ているからなのだと察した。
今まで黒だと思っていた心さんの髪の毛の色が、桜のような淡いピンク色だったとは、驚いた。これを知ったからといって、何か変わるわけではないのだが。心さんも神様の生まれ変わりなのか?それより、なんで僕に打ち明けようと思ったんだ?
色んな疑問が僕の頭を交錯し、硬直してしまう。
「変…かな…?」
心さんは小首を傾げて僕に問いかける。身体が震えている。無理に笑顔を作っているのが分かる。
正直、僕個人としては全然変じゃないと思う。単なる個性に過ぎないと思う。
だけど、変だっていうのは、心さんが一番思ってるはずだ。だって、変だと思ってなければわざわざ髪を染めて学校に来ないだろう。僕だって同じようにウィッグを被って学校に行ってるし、今だって被ってる。変じゃないって言うのは、あまりにも無責任な気がする。
だから、僕の答えは―
僕は、自分の頭に手を伸ばし、ウィッグを外した。白銀の髪が露わになる。
人前で自分からウィッグを外すのは、初めてだ。正直、裸を見られるのと同じくらい苦痛だ。だけど、心さんになら見せれる気がする。
「颯人君…その髪…」
心さんは、さっきの僕と同じように驚いた表情を浮かべた。驚かれる側から、驚く側に廻った。サプライズだ。だけど、すぐににっこり笑った。今度は無理矢理作った笑顔じゃなさそうだ。
「颯人君も同じだったんだね」
そう言い終わるや否や僕に急接近してきた。そして、僕の手を両手で包み込んだ。白くて細く、綺麗な手だ。それに、温かい。
心さんは笑顔で、僕をまっすぐ見つめる。心さんの顔がすぐ目の前にあり、思わず目を逸らしてしまう。 僕は、全身が火照ってることに気づいた。心臓も今まで以上に高鳴っている。僕は耳まで真っ赤に染まっていることが、自分でも分かる。
「私、颯人君と真の友達になりたい」
そんな状態のまま、心さんは口を開いた。
「真の…友達…?」
自然と言葉が出てくる。この距離だと否応なしにほんのりと甘い香りが伝わってくる。その香りが僕の鼻腔を突くたびに、頭がフワフワして、上手く頭が働かない。
「私ね、優しい友達が沢山いるんだけど、いつバレるのかが気になって本音で話せてないんだ」
「だけど、颯人君には髪の事を気にしないで話せる」
「…ダメかな?」
僕は何も言わずにただ頷いた。なんか催眠術にでもかかったみたいだ。家に誘われたことを断ろうとしてたのが嘘みたいに、関係が深まっていることに驚いてる。本当に断らなくてよかった。いや、断れない僕でよかった。
そんな事を考えていると、心さんは僕の右側にスッと移動して、突然体を押し当ててきた。そして、耳元に顔を近づけてきた。
困惑している僕をよそに、心さんは僕の髪の毛を掻き分けて耳を露わにさせる。
「私と颯人君だけの秘密」
「―ッ!?」
心さんは、僕の耳元でそっと囁いた。声に吐息が混じっていて、耳元がくすぐったい感じに襲われる。やがて、それは全身にも伝わり力が抜ける。ゾワゾワして変な声が出そうになったのを必死に堪えた。
心さんは僕から離れると、悪戯っぽく笑った。そして、僕たちは"真の友達"になった。
その後、しばらく談笑をした。僕は終始ソワソワしてて、上手く返せたか全然覚えてない。
数分後、僕はお暇することにした。
心さんは、笑顔で手を振って見送ってくれる。
僕も手を振り返して、ドアに手を掛け外へ出た。まだ4時頃で、外はまだ明るい。
僕が突然帰ると言い出したのには訳がある。それは、アマテラスが何かを言いたそうにしていたからだ。
「お前らが熱々すぎて、中々言い出すタイミングがなかったぜ」
アマテラスは、呆れたように僕の脳内に語りかける。
熱々…。そう言われ、さっきの映像がフラッシュバックしてくる。そして、また顔が赤くなる。
心さんは友達だから…!!
「ま、何でもいいんだけどよ」
アマテラスは、話を切り上げる。そして、言いたがっていたことを言った。
「誰かが戦ってる気配がするんだ」
その一言で、空気が一気に張り詰める。僕は、アマテラスが気配を感じたところに急いで向かった。
私は、颯人君を見送った後部屋に戻った。颯人君が帰った後の部屋はいつも以上に静かで寂しく感じられる。
私は、ベッドにうつ伏せになって熊のぬいぐるみを手に取る。私の思い出が詰まったぬいぐるみだ。
それを見つめると、涙が溢れてくる。
「本当に、私のこと覚えてないの?」
私はぬいぐるみに語りかける。すると、一筋の涙がこぼれ落ちる。それを皮切りに、とめどなく溢れてくる。
「どうして、私を頼ってくれないの…」
颯人が色恋にうつつを抜かしている頃、一人の少年が平和のために暗躍していた。
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