第6話 勇者パーティの苦戦と真実の重さ

次の討伐の日がやってきた。


意気込んで臨んだものの、状況はますます悪化していた。


これまでアレンが片手で倒していたようなモンスターたちが、今のパーティでは到底手に負えないものに思えた。


イリスは全力で攻撃を繰り出すが、その一撃ではモンスターに深いダメージを与えることができない。


戦闘は長引き、パーティ全体が疲弊していく。


「くっ……まだ倒せないなんて……!」


イリスは苛立ちと焦燥を押し隠し、槍を振りかざした。


隣で戦うリリアも聖剣を振るってはいるが、その剣先がモンスターに届くたびに、かつてのアレンの剣技と比べる無力さが突きつけられる。


「イリスさん、今まで通りにはいきません……アレンがいないと……!」


リリアが切羽詰まった表情で訴える。


リリアの緑の瞳は不安に揺れ、次第に手の動きも鈍くなっていた。


イリスはその様子を見て何とか励まそうとしたが、自分の中にある同じ不安がそれを許さなかった。


「大丈夫よ、リリア。私たちならきっと……」


声を震わせながら言ったものの、自分自身にすらその言葉の裏にある確信を見つけることができなかった。


攻撃の手数が尽きかけているのをモンスターに悟られたのか、凶暴な咆哮をあげて襲いかかってくる。


セリーナが必死に双短剣で防御するも、勢いに押され、ついに彼女の肩が大きく傷ついてしまった。


「くっ……だめ……!」


セリーナが血を流しながら後退し、フィオナが急いで治癒魔法を施す。


しかし、フィオナの魔法も疲弊のためにその効果が薄れており、傷の癒えが遅いことに全員の表情が曇る。


「イリス……このままでは全滅する……!」


フィオナの叫びが戦場に響いた。


パーティ全員が限界に近づいているのを感じていたが、イリスは必死に体を支えながら自分を鼓舞しようとした。


しかし、その瞬間、心の中に抑えきれない思いが湧き上がってくる。


「アレンがいてくれたら……!」


その一言が、喉元まで出かかったが、すぐに噛み殺した。


アレンに頼ることなく、彼を追放した今こそ自分たちの力で戦うべきだと決意していたのだ。


それでも、今ここにいる自分たちの戦力が、アレンがいた時と比べてどれだけ弱まっているかを痛感せざるを得なかった。


「ダメだ、私は弱気になってはいけない……」


必死に自分を鼓舞しながらも、次々と押し寄せるモンスターの猛攻に彼女の体力も限界が近づいていた。


ついにイリスはモンスターの突進を受けて大きく吹き飛ばされ、地面に倒れ込んだ。


ぼやける視界の中で、仲間たちの叫び声が聞こえる。


「イリス!」


リリア、セリーナ、そしてフィオナが彼女を守ろうと集まり、再びモンスターと対峙するが、イリスたちもすでに限界に達していた。


全員の疲労は極限に達しており、戦闘力が低下しているのが明白だった。


「私が……もっと強ければ……」


イリスは無力さを痛感し、苦い涙が浮かんできた。


かつての勇者パーティのリーダーとして、彼女は仲間に負担をかけまいと強く振る舞ってきたが、今の戦いの中で、それがどれだけ脆いものであったかを理解せざるを得なかった。


必死に起き上がろうとするイリスに、フィオナがそっと肩を支えた。


彼女もまた傷だらけで、息も絶え絶えだったが、イリスに微笑みかけようと努力しているのがわかった。


「イリス……私たち、ここまで来たんだもの……もう少しだけ、踏ん張ってみよう……」


イリスは頷き、再び立ち上がろうとする。


イリスの瞳にはまだ戦い続ける意思が宿っていたが、その身体はもう限界に近かった。


しかし、パーティ全員の気力が今この場で尽きようとしているのを理解しているイリスは、最後の力を振り絞り、決意を固めた。


「アレンに頼らなくても、私たちはきっとやれる……!」


その瞬間、モンスターが最後の突進を仕掛けてきた。


イリスたちは全力で立ち向かい、最後の力で攻撃を繰り出す。


しかし、それでもモンスターは立ち上がり、再びイリスたちに襲いかかろうとしていた。


その時、不意に遠くからの轟音が響き渡った!


轟音の正体は、偶然発生した山崩れだった。


巨大な岩が崩れ落ち、地面が激しく震える音が森中に響き渡った。


その音に驚いたモンスターたちは一瞬動きを止め、別方向へと意識を向けた。


その隙を突いて、イリスたちは全力でその場から逃げ出した。


森の奥から続く不気味な音に気を取られたモンスターたちが徐々に去っていくのを確認すると、ようやく安堵の息をつき、イリスたちはその場に力尽きて倒れ込んだ。


イリスたちは結局、その場で全力を尽くしても倒しきることができず、どうにか生き延びるだけに留まったのだった。


地面に横たわるイリスは、無力感と深い苦悩の中で、胸が締め付けられる思いに駆られた。


「……これが、私たちの実力なの?」


イリスはただ呆然としていた。

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