第5話 勇者パーティの苦境
その頃、勇者パーティの方では。
アレンを追放してしばらく、勇者パーティは思いがけない困難に直面していた。
これまで当たり前のように討伐してきたモンスターたちが、突然歯が立たなくなってしまったのだ。
パーティリーダーである女勇者イリス・アルベリアは、仲間たちを鼓舞しながら戦おうとするが、成果が思うように出ない。
「イリスさん、やっぱりアレンがいないときついです……」
聖剣士のリリア・アストリアが肩を落とし、ため息をついた。
「大丈夫よ、リリア。私たちだけでも何とかできるはず。これまでもアレンに頼りすぎていたけれど、ここでしっかりと力を合わせて戦えばきっと……!」
イリスは強がってみせるが、内心では動揺を隠しきれなかった。
アレンのスキルは確かに扱いづらいが、その圧倒的な攻撃力と仲間を守るための剣術は絶大な戦力だったのだ。
しかし、アレンを追放したことに関して後悔はしていなかった。
むしろ、アレンの存在がパーティ全体に与える圧力から解放され、気持ちがすっきりしているとすら感じていた。
「アレンがいなくても、私たちならやれるわ」
イリスはそう呟きながら剣を握り締めたが、戦闘が進むごとに厳しさが増していく。
結果、討伐は失敗が続き、国王の耳にもその状況が届くこととなった。
ラヴィリス王国の壮麗な王宮の大広間に、イリスたち勇者パーティが集められた。
荘厳な調度品に囲まれ、国王ロマン・ルミエール三世が威厳をもって彼女たちを見下ろしていた。
ロマン国王は優しげな表情を浮かべながらも、その瞳には鋭い光が宿っていた。
「勇者イリス・アルベリア。最近、君たち勇者パーティの討伐が失敗続きだと聞いているが……何があったのかね?」
イリスは深々と頭を下げ、謝罪の言葉を述べた。
「陛下、ご心配をおかけして申し訳ありません。少し困難な状況が続いておりまして……しかし、私たちは最善を尽くし、必ず討伐を成功させてみせます」
ロマン国王はゆっくりと頷きながらも、さらに言葉を続けた。
「では、あの剣士アレン・カガミを追放したのは本当に良い決断だったのか?もし討伐に支障が出るならば、アレンを呼び戻すという手もあるだろう」
イリスの心に一瞬、不安がよぎったが、すぐにその感情を打ち消した。
イリスは毅然とした表情でロマン国王を見上げ、はっきりと答えた。
「その必要はございません、陛下。アレンがいなくなったことで、私たちのパーティは真の絆と共に戦うことができるようになりました。確かに討伐が難航していることは否定できませんが、それでもアレンを戻す選択はありません。アレンのスキルや職業は、私たちの戦いにおいて大きな障害となるものですので」
ロマン国王は少し考え込み、再び口を開いた。
「しかし、それが本当にアレンを追放する理由になるのかね?アレンの攻撃力は国中でも有名だったし、国民もアレンに大きな期待を抱いていた。君たちが無事に魔王討伐を果たすためには、アレンの力が必要だったのではないか?」
イリスは僅かに表情を曇らせたが、力強く首を横に振った。
「陛下、私たちはアレンが持つスキルに困惑し、不快感を感じていました。私たちのパーティは、お互いの信頼と絆に基づいたものであり、アレンのスキルがそれを曇らせる原因となっていました。アレンを戻すことで一時的に戦力が向上しても、長期的にはチーム全体に悪影響を及ぼすと考えています」
他のメンバーもイリスの言葉に頷き、賛同の意を示した。
特に炎の使い手セリーナ・ヴァーミリオンは強く同意し、ロマン国王に向かって発言した。
「陛下、アレンの力に頼ってばかりでは私たちも成長できません。アレンがいなくなった今こそ、私たちは本当の力を試されているのです。だからこそ、今後は私たちだけで戦い抜く覚悟があります」
ロマン国王は、彼女たちの覚悟に感じ入るものがあったのか、微笑みを浮かべながら頷いた。
「なるほど、君たちの意思は固いようだな。だが、国民は君たちが討伐に失敗していることを不安視している。勇者パーティとしての誇りを保つためにも、結果を出すことが求められている」
その言葉を聞いたイリスは緊張を増し、手に汗を握った。
イリスはこれ以上の失敗が許されないことを痛感し、国王に再び頭を下げた。
「ご心配には及びません、陛下。私たちは必ずや討伐を成功させ、国民の期待に応えることをお約束します」
その後、ロマン国王は再び頷き、彼女たちに対して次の指示を下した。
「良いだろう。次の討伐で結果を出し、国民に安心を与えるのだ。それが果たされなければ、さらに厳しい対策が必要になるかもしれん。その覚悟ができているのであれば、引き続き励むがよい」
イリスは
「はい、陛下」
と力強く答え、国王の前から退いた。
しかし、イリスの心には不安が渦巻いていた。
討伐の失敗は、今のパーティの実力が問われていることを痛感させられるものだった。
アレンがいなくなったことで、パーティの戦力がどれほど落ちているかを否応なしに理解することになったが、イリスは仲間たちに弱音を吐くわけにはいかなかった。
その日の夜、宿舎に戻ったイリスたちは静かな食事を取っていたが、誰も口を開かなかった。
討伐失敗の記憶と、国王の言葉が心に重くのしかかっていたからだ。
「私たち、本当にやれるのかしら……」
リリアがぼそりと呟いた。
すると、セリーナが冷たい声で言い返した。
「そんな弱気にならないで、リリア。私たちはもう後戻りできないんだから」
フィオナも頷き、少し震えながらも決意を固めていた。
「そうよ。アレンがいないからって、私たちが無力になるわけじゃない。私たちには私たちなりの戦い方があるはずだわ」
イリスは仲間たちの言葉に心を打たれ、ゆっくりと微笑んだ。
イリスはパーティのリーダーとしての責任を再び胸に刻み込み、仲間たちを鼓舞するように口を開いた。
「そうよ、みんな。私たちならできる。アレンに頼っていたことはもう過去の話だわ。これからは私たちだけで新しい歴史を作り上げましょう」
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