多一の将来

第15話

多一が幼稚園に入園してから12年が経っていた。



「千夏?どうかしたの?」


「えっ、ううん。なんにもないよ?」


「嘘。千夏が嘘つく時ね、絶対に左手で髪の毛に触れてる。これ、出会ってからずっと」


「う。よくわかってるね、、、」


「で、どうしたの?」



香の左手で肩に手を回され、右手で顎を支えられ、香と目線を合致させられる。



「うぅ、照れる」


「早く言ったらやめてあげる」


「いや、その、ね?」


「それじゃわかんない。ちゃんと言って」


「その、多一の将来のことで」


「ことで?」


「別に、多一の将来に文句を言う気はないけど、後悔、しないかなって」


「しないと思うよ」


「うぅ、ね?言った。言ったから、離して?」


「えー、どうしようかなぁ」



そう言うと香の左手にはもっと力が入った。そして右手で、私の顎を自身の口元へと運んだ。


かと思うと、私の首筋に歯を立てて言う。



「だめだよ。他の男に目移りしちゃ」


「う、くすぐったい、、、」


「わかってるの?多一は、千夏を親として見てるんじゃない。1人の女性として、女として見られてる。わかってる?」


「う、そう、なの?」


「そうだよ。まさかだけど、この12年間気づかなかったの?」


「うん、、、」


「それはそれで傑作だけど、ちゃんとわかってね?」


「う」



私が“うん”と言う前に唇は塞がれた。



「ふっ、千夏、顔真っ赤」


「も、もう!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る