第36話

「失礼致します」


「…お入り」



中からはか細い声が聞こえた、



「奥様、、、体調は問題ありませんか」


「あぁ、大丈夫だよ。ありがとう」


「、、、はい。失礼致します」



そして案内してくれた女性は出て行ってしまった。



「よく来ましたね。深凪。そして楓さん。このような格好で申し訳ありません」



という彼女は、白い寝巻きで敷き布団で横になっている。奥にベッドもあるようだけれど、敷き布団の方が楽だったりするのかもしれない。



「い、いえ、、、」


「初めまして。私は深凪の母の美也子、と申します。こちらで眠っているのは私の夫である日向。私の世話で疲れてしまって寝ています」


「は、はい」


「私は昔から体が弱いのです。申し訳ない気持ちですが、このまま失礼いたします」


「は、はい」


「楓さん。初めて会ったのにもかかわらず、図々しいお願いなのは承知の上です。ですが、ひとつだけ、頼みがあるのです」


「た、頼み、ですか?」


「はい。深凪との、式を挙げていただきたいのです」


「、、、式?」


「はい、、、結婚式でございます」


「、、、え?」


「無理にとは言いません。ただ、出来ることならあなたの花嫁衣装も深凪の花婿衣装も見たいのです。死ぬ前にどうか、叶えたい願いなのです。お願いできませんか、、、」


「や、やります!」



食い気味で言ってしまった。

だって、美也子さんは、本当に深凪さんが大好きで、大切なのがわかる。そんな人が頼む願い、私は叶えたい。断る理由なんてない。

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