第5話 帰り道にて…



今日は、席替えという一大イベントこそあったもののその他には特に何事もなく、無事に放課を迎えた。


「怜ー、今日も一緒に帰ろー。」


私がそう言うと、怜は

「いいよー。帰る支度してるからもうちょっと待ってねー」


と返してきたが、その時にクラスの他の子達が、

「怜様ー、ちょっとお話しましょー!」

「怜さんー、一緒に帰りましょうよー」


などと声をかけてきていた。怜は困ったような表情をしながら対応していたが、

「君たち、少しだけごめんね。」


というと、私のところまでやってきて、

「ごめんね、今日はこの子達の相手をしてから帰ることにするよ。誘ってくれてありがとうね。」


そう言うと、怜は彼らの方へと戻っていった。


私は、じゃあひとりで帰ろっかなーと思いながら教室を出ようとしていると、


「あの…良かったら一緒に帰りませんか?」


そう誰かが声をかけてきた。


誰かと思って振り返ってみると、そこには玲奈さんが立っていた。


「玲奈さん?玲奈さんは怜と一緒に帰らなくていいの?」


思わず私はそう聞いてしまったが、玲奈さんは

「いえ、怜さんは忙しそうなので…せっかく近くの席になったんです。亜鈴さん、一緒に帰りましょ!」


そう言って私のことを誘ってきた。


「じゃあ一緒に帰ろっか。玲奈さんのお家ってどっちの方角なの?」

「私の家はあっちの方ですねー。」

「ほんと!?私の家もあっちの方角なんだよね。じゃあ途中まで一緒に帰れるね!」

「そうみたいですねー、じゃあ、道が分かれるところまで一緒に行きましょう、亜鈴さん!」

そのような話をしながら私と玲奈さんは教室を出ていったのだが、私は気づいていなかった。

教室に残っていた怜が、少しだけ険しい顔をしてこちらを見ていたことに…



ー帰り道にて


「へー、玲奈さんも魔導バースやってるんだ!何か好きなキャラクターとか居たりするの?」

「うーん、私はサーシェナっていうキャラが好きかな…?」

「へ…?サーシェナちゃんのこと玲奈さんも好きなの!?実は私もサーシェナちゃんが一番好きでさ!」

「う…うん…?」

「いやー、あの可愛さ、あの美しさ、あの尊さ、あの無邪気さ、無垢さ、八重歯、髪の毛、全てが完璧なんだよね!…ごめん、つい感情が昂っちゃって…」

「いや、大丈夫だよ…?ちょっとだけびっくりしちゃっただけで…」


いけないいけない、推しが絡むと限界オタクみたいになってしまう私の悪い癖だ…怜にも


「ボクの前ならいいけど、そうじゃない人の前ではあんまりやらないようにね!」


って言われてたんだけどなあ…


私が少し反省していると、

「私は本当に気にしていないから大丈夫だよ?それよりも、そんなにサーシェナのことが好きなんだね。今度一緒に魔導バースプレイしようよ。お互いサーシェナを使えるデッキでやってみるとかいいんじゃない?」


そう玲奈さんが提案してきた。

私は、

「是非!」

そう二つ返事で了承した。


そのまま魔導バースについての話をしながら歩いていると、玲奈さんが


「じゃあ、私はこの十字路をこっちの方角だから、またねー!」


そう言ってきた。


私も

「玲奈さん今日はありがとうー!また明日ー!」


そう返して、その日は別れた。


そこからひとりで家まで帰る間、ずっと私がサーシェナちゃんの素晴らしさを共有できる人が怜の他にも現れた喜びを噛み締めていたのであった。



ー一方その頃。


玲奈は、亜鈴と帰った後に一人帰路に着いていた。


「いやー、やっぱり事前に調べた通り、サーシェナの話題には食いついてきたわね…

亜鈴くん、ほんっとに可愛いなあ…このままどんどん距離を詰めて、ゆくゆくは…!」


そう独りごちる玲奈には学校で見せる自信無さげな雰囲気などはなく、そこにあったのは獲物を見つけた虎のような獰猛な雰囲気であった…




ー更にその頃。


怜はまだクラスメイトに捕まっていた。


「みんながボクのことを好いてくれるのは嬉しいんだけど、君たち、まだ帰らないのかいー!?」






登場人物紹介


・小鳥遊 亜鈴(たかなし あべる)

 主人公。サーシェナちゃんの素晴らしさを語れる人が増えてすごく喜んでいる。


・平田 怜(ひらた れい)

 秘密を抱える完全無欠の王子様。モテすぎて逆に困っている。


・橋本 玲奈(はしもと れな)

 亜鈴のクラスメイト。クラスでは天然。しかし、何やら裏の顔があるようで…?


・サーシェナ

 大人気ゲーム「魔導バース」に登場するキャラクター。亜鈴の推し。可愛い。尊い。美しい。

アイドルのような姿をしているボクっ娘の幼い見た目の女の子。物語では、「破滅」を司る「魔王」の一人。

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