第6話 裏の顔…
亜鈴と玲奈が別れた頃、怜は一人で帰路についていた。
「あの感じ…もしかして…
あとで少しあの玲奈って子のことは調べておくか…」
そう意味深に呟くと、怜は夜闇の中に消えていった。
ー次の日
ピンポーン
「んにゃ…?」
玄関のチャイムで私は目を覚ました。時間を見ると、まだ朝の6:30だ。
「こんな時間にだれえ…」
寝ぼけ眼を擦りながら玄関に行くと、そこには制服姿の怜が立っていた。
「にゃあ…怜、こんな朝早くからどうしたのー…?」
そう私が聞くと、怜は
「ごめんごめん、昨日はなんだかんだ帰り道話したりできなかったからさ、ちょっと朝の間に話したくって」
「そういうことね…ちょっとだけ待っててー」
私はそういうと、部屋に戻って着替えを済ませ、顔を洗ってから再び玄関へと向かった。
「お待たせー、まだ朝早いし、部屋まで上がっていく?」
「いいのかい?だったら、お言葉に甘えてお邪魔させてもらおうかな。」
そう言うと、怜は靴を脱いで我が家へと上がってきた。
ただそれだけの所作なのに、怜がやるとすごく上品に見えるのだから不思議だ。
私の部屋に着くと、早速怜が話を切り出してきた。
「そういえば、昨日は橋本さんと一緒に帰っていたようだけど、どんな話をしたんだい?」
「うーん、どんな話かあ…あ、昨日は魔導バースの話したよ!玲奈さんも魔導バースやってるんだって!しかもさ、なんと一番好きなキャラはサーシェナなんだってさ!ただ、私ちょっと調子に乗りすぎちゃったかなって反省はしてるよ…」
「なるほどねー、…なるほど」
「怜?どうしたの?」
「いや、なんでもないよ、亜鈴は変わらずサーシェナのことが好きだねーって思っただけだよ。」
「いいじゃん好きなんだし!」
「それはそれとして、他にはどんな話をしたりしたの?」
「…うーん、ちょっと待ってね。」
そして私は昨日のことを思い返す。
ー昨日、帰り道にて。
「そういえば、亜鈴さんと怜さんってどんな関係なんですか?」
「怜は私の親友だよ。中学校は別々だったから、ちゃんと会うのは久しぶりだったりするんだけどね。」
「そうなんですか…あ、ちなみに怜さんのことを亜鈴さんはどう思ってるんです?」
「うーん、まず、怜はなんで私と仲良いんだろうって思うレベルには完璧超人だよねー。ただ、たまに抜けてるところあったりするからなんかほっとけないんだよねー。
他はねー、すごく優しいんだよね、怜は。誰に対しても、それこそ見知らぬ人に対しても優しいんだけど、なんか、自分のことよりも他人のことを優先しがちなところがあるから心配にもなっちゃうんだよね。
他にも、嘘が下手だったり、変に頑固なところもあったりと、あれで人間くさいところもあるから、そこもいいよねー。
私が怜のことをどう思ってるかっていうのをまとめると、私には勿体無いほどの超人だけど、なんかほっとけないって感じかな?」
「なるほどなるほど…少なくとも私がここ数日見る限りだと怜さんは穴なんてなさそうなくらいのすごい人に見えたんですけど、案外人間臭いところもあるんですねー。」
「そうなんだよねー。でもたまに思うんだよねー…なんで私に気を遣ってくれるんだろうって。
怜ならもっと釣り合うような人がいるだろうに…ってなっちゃうんだよね」
「そんなことないよ!亜鈴ちゃんだっていいところいっぱいあるよ!」
「…ちゃん?…まあいいや、ありがとね玲奈さん。まだ知り合ったばかりなのにこんなに親身に話聞いてくれて。」
「あ…いえいえ、私も亜鈴さんと怜さんの話を聞くことができて楽しかったです!ありがとうございました!」
「みたいな話があったかなーそういえば…」
「なんか…ボクがいない間にボクの話を結構してたみたいだね…」
「でも、さっき思い出して不思議だったけど、なんで私のことをちゃん呼びしたんだろうなあ…これまでに玲奈さんに会ったことがあったかなあ…?」
「…」
「ありがとね、聞いててこっちも楽しかったよ。」
「だったら良かった良かった。そういえば、私が帰ったあと、怜は大丈夫だった?」
「ん?ボクは全然大丈夫だったよ…結構長い時間捕まっちゃったから、帰るのは遅くなっちゃったんだけどね…」
「あらら…お疲れ様…」
「ありがとう…」
そうして話していると、いつの間にか登校するのに都合のいい時間になって
いた。
私と怜は、軽く身だしなみを整えてから学校に向かった。学校に向かっている途中の十字路に差し掛かったあたりに、向こうから歩いている人影を発見した。
「あれ玲奈さんかな?」
「そうみたいだね。」
「あ、亜鈴さーん!怜さーん!おはようございますー!」
玲奈さんが手をブンブン振りながらこちらの方に向かってきた。
「おはようございますー。一緒にいきましょー。」
「いいよー」
「一緒に行こっか、道すがら、少し『聴きたいこと』もあったしね。」
「怜さんが私に聞きたいことですか?なんでも仰ってください!」
…やっぱり怜ってモテるんだなあ…と側から見ながらそう思った。
う、羨ましくなんてないんだからね!
そうして、私のことを放置して二人で盛り上がっている状態が少し気まずくなった私は、二人に断りを告げてからひとりで先に向かうことにした。
見た感じお似合いの二人だし、私が邪魔するべきじゃないよね!
ー亜鈴が去った後
怜と玲奈の二人は登校しながら会話をしていた。
「…単刀直入に聞いてもいいかい?」
「…?なんでしょうか?」
「玲奈さん、どうして亜鈴ではなくボクに興味があるように振る舞っているんだい?」
「…バレないと思ったんだけどなあ」
「残念だけど、ボクは幸か不幸かいろんな人に好意を向けられることが多くてね、そのせいか、ボクは人が人に向ける感情というものが分かるんだ。そして、玲奈さん。君は、パッと見だとボクに興味があって、たまたま近くにいた亜鈴とも話していたという体を取っていたけど、その実、君はボクではなく亜鈴のことしか見ていなかったんだ。どうだい?間違っているかい?」
すると、玲奈はこれまでのニコニコ顔から一転、無表情になると
「そこまでバレているなら隠す必要なんてないわね…少なくとも、このことは秘密ね。」
「わかった。」
「私はずっと昔から亜鈴ちゃんのことを調べていました。亜鈴ちゃんの趣味、亜鈴ちゃんの好きなもの、亜鈴ちゃんの特技…そして亜鈴ちゃんがどの学校に行こうとしていたのか…とにかく調べました。そして、ついに合法的に亜鈴ちゃんに近づくことができる立場になったんです!」
いつの間にか玲奈は少し紅潮しながら熱く語り始めていた。
「なのに…いざ会ってみたら亜鈴ちゃんはあなたとばかり話している…だったらあなたを利用して、亜鈴ちゃんに悟られないように近づこうとしました。」
「…多分亜鈴はかなりの朴念仁だから、普通に行っても気づくか怪しいけど…?」
「うるさいですよ…まあ、確かにそうかもしれません。ただ、恐らくですけど、あからさまに好意を見せようとしていたら、あなたは妨害してきましたよね?」
「…どうしてそう思うんだい?」
「私はさっき言いました。亜鈴ちゃんについてずっと調べていたと…その過程で明らかに不自然なことがあったんです。
亜鈴ちゃんは、不自然なほどに仲のいい女性がすくなかったし、不自然なほどに女性の方が亜鈴ちゃんから離れるまでが早かったんです。これまでは、何故かというものはわかっていましたが、それの理由は詳しくはわかりませんでした。しかし…」
「なるほどね、もう大丈夫だよ玲奈さん。」
すると、怜は普段とは違い少しだけ怖い表情、低い声で
「このことを察しているのは君だけだよね?」
と玲奈に尋ねた。
「私だけですが…」
急な変化に、玲奈も少し戸惑っている。
それを聞くと怜は普段通りに戻ると、
「なら良かった。」
と言った。
「よし、そろそろチャイムもなるかもしれないし少し急ごうか!」
「あ、待ってくださいよー!」
そういって二人は登校路を走り始めた。
その胸中に、とある決意を抱きながら…
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