4. 開く宇宙への扉 終戦の後


 喜びと悲しみは交互にやってくる……これは誰の言葉だっただろう?

 何度かの交代の後、私たちの国を導くことになった為政者は若く活力に満ちた男で、戦争中に果たせなかった夢を思い出したらしい。


 失われた命は──彼は人々に語りかけた──、私たちがあきらめることを望んではいない。今わたしたちに必要なのは、再び挑戦する勇気ではないか。


 ほとんど尽きかけていた宇宙局の灯が、再びともる日がやってきた。自分たちの国を覆っていた哀しみを、皆が何かの形で昇華させたかったのかも知れない。

 才能や夢のある者たちが再び呼び集められ、今度は慎重に、しかし着実に、人を宇宙へと飛ばす準備が進められた。



 4人目の飛行士に選ばれたのは、彼女だった。



 特別な力が働いたわけではない。

 理由は単純で、最初の候補生の中で宇宙局に残っているのが彼女だけだったという話だ。他の候補生は、この国が再び立ち上がってから宇宙局の扉を叩いた者たちだった。


 今度は彼女一人が、宇宙へと飛び立つことになる。


 彼女と地上を結ぶ役目は、私に回ってきた。優秀な通信士たちが宇宙局を離れる中、他の道を選ぶこともできず、将来のあてもなしに静かに身を潜めていた私に。



*


 打ち上げを明日に控えたその日、皆が忙しく動き回る中でぽっかりと空いた休憩時間に、彼女から屋上に誘われた。

 同じ宇宙局に属しているとは思えないほど、普段の彼女と私の距離は遠い。こうして話ができるのも、本当に久しぶりのことだった。


 屋上から見える夕焼けは、いつも以上に美しく見えた。私も少しは感傷的になっていたのだろう。


 彼女を宇宙へと運ぶ細長い機体は、全ての準備を終え、今は静かに夕陽に照らされている。空を行く飛行機の軌跡の他には雲一つなく、明日の打ち上げも良い状態で迎えられそうだ。


 しばらくは無言のまま、私たちは空や機体を眺めていた。それからおもむろに、彼女が口を開いた。


 ──私の声、ちゃんと拾ってよね。


 ──宇宙空間との交信は、この計画の最重要事項の一つよ。通信の設定には最善を尽くしたし、バックアップも三重にかけてある。安心して飛んでちょうだい。最初の交信はみんな聞いてるんだからね、打ち合わせ通りにお願いよ。


 ──相変わらず、夢のない言い方で安心するわ。ねえ、あの小さな窓から、ここを見ることはできるかしら?


 ──計算上だけど、あなたの乗った船は1時間半くらいで地球を一周すると思う。時計をよく見ていて。天気が良ければ、きっとわかるはずよ。


 ──あなたのそういう所、私、嫌いじゃない。


 そう言った彼女の手が私の腕をつかんだ次の瞬間、引き寄せられた体は意外なほど強い力で抱きしめられていた。

 思わず声を上げようとした私の口を、彼女の唇がふさぐ。


 静かで、長い口づけ。ほのかに暖かく、柔らかいその感触。


 遠い遠い昔、学院の屋上で、裏庭で、お互いの部屋で交わした口づけの感覚がまるで失われていなかったことに、私は少し驚いていた。

 彼女が私を抱きしめ、私が彼女を抱きしめる。夕焼けと夜の帳が、私たちを包む。



*


 ある人は言った。

 自分の幸せを捨てて、人類の夢に賭けた彼女たちを尊敬すると。


 別のある人は言った。

 満ち足りた結婚生活や温かい家族を棒に振ってまで、彼女たちがやるべきことなのかね。


 私は心の中で思う。

 何一つ、犠牲になんかしていない。私は自分の生きたいように生きてきたし、本当に大切な人とは今、同じ夢を追いかけている。


 明日、陽が昇れば、彼女は一番遠い場所へ行く。

 一度は運命に見放され、今度は同じ運命に引き寄せられた彼女と私は、静かにその時を待つ。

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