第30話「ダブルデート計画」


「やっぱりさ~わたしはちょっと気になるな、君を助けたっていう女の子のことがね」

「うっ」

「そうだぜ、正直さ、かなり元気そうだし、何かあったんじゃないのか?」

「新しい彼女とか、いてもいいと思うよ?そんなひどいことがあったのなら、冬美ちゃんに義理立てする必要もないし」

「いや彼女とかではないんだけど」

「じゃあ、大人の関係ってことか?」

「そんなことはない!」

「うおお、びっくりした」

「ああ、ごめん、つい」



 声がつい、大きくなってしまった。

 ただ俺達の関係を一言で説明するのは、難しくて。

 一つだけ言えることがあるとすれば、決して、そんなに安くも軽くもない。

 


「ちゃんと話すから、聞いてくれる?」

「もちろん」

「聞きたいしね」



 俺は、冬美の件だけではなく、春季のことも正直に話した。

 冬美の妹であること、絶望していた俺を励ましてくれたこと。

 それを、なるべく俺の言葉でしっかりと伝えた。

 もちろん、何の意味もなく見闇やたらに話したわけではない。

 俺が立ち直っていることを、二人に伝えるためには必要だと思ったから話したまで。

 ちなみにだが、春季からの許可は得ている。

 冬美の浮気に際して春季は、俺に味方を作るようにと言ってくれた。そして味方を作るためなら自分のことを話しても構わないと。

 それは、彼女という最大の心のよりどころを失った俺が孤立しないようにするための配慮だと思う。



「そっか、そんなことがねえ」

「いや~甘酸っぱいねえ。なんだか高校生の恋愛を見てる気分」

「お前らなあ」



 ナプキンで口元をぬぐいながら、俺は二人を睨む。

 大体なんだ、その言い方だと現役高校生の春季はともかくとして俺がガキみたいじゃないか。

 

「それで、いつ決めるの?」

「え?」



 思わず反射的に聞き返してしまった。

 二人は、顔を見合わせて首をかしげる。

 ナチュラルにのろけるのやめない?



「そうだよな、もう何回かデートしてるんだろ?付き合えばいいんじゃないか?」

「捨てる神あれば拾う神あり、だよ~。観念して拾われなさい」



 マルコと恵美はニヤニヤしながらこちらを見てくる。

 畜生、だからこいつらには言いたくなかったんだ。



「少なくとも、俺はそういうことは考えてないよ」

「えっ」

「ええっ」





「まあ、お前がそれでいいならいいけどさ、逆にその子がかわいそうじゃないか?」

「そーだよ、それだとキープしてるみたいになっちゃうよ?都合のいい女的な?」

「ぐぬっ」



 反論しようとしたが、できなかった。

 確かに何度もデートして恋愛感情がありませんというのは、逆に失礼かもしれなかった。いや間違いなく失礼だ。

 春季とここ一か月くらい過ごしている俺自身が、一番よくわかっていた。

 春季は、俺のことを――。



「わかってるよ、それは、ちゃんとする」

「へえ」

「ふーん」

「なんだよ」

「別に?」

「とりあえず、心配しなくてもよさそうだなと思ってね~」



 二人とも全く同じ顔をしていた。

 とどのつまり、ニヤニヤしていた。

 仲良しかよ。いや仲良しだったわ、こいつら。



「というわけで、四人でダブルデートしようぜ」

「待って待って」



 随分話が飛んだ気がするんだけど。



「いったん俺に任せるって話じゃなかった?」

「そんなこと言ってないけど?」

「健五郎君一人でやらせたら、めちゃくちゃ時間かかっちゃうかもって思うんだよねー」

「それはそうなんだが……」



 実際、俺はゆっくりと関係を進めるつもりだった。

 春季が未成年であることや、俺の心の傷が、まだ完全にはいえていないこと。

 何より、すぐに交際をスタートさせると春季が悪者になりかねないこと。

 それこそ、心無い人の中には冬美と付き合っていたころから通じていたのではと邪推する者もいるだろう。

 もちろん、他人の言葉なんて無視しておけばいいという意見もあるし、どちらかと言えば俺もそちら側だ。

 ただ、春季はどうだろうか。

 俺と冬美の間に割って入ってしまったといううわさが流れたとして、彼女は冷静でいられるんだろうか。

 俺と冬美の邪魔をしたくなくて距離を置いた彼女が。

 そんな懸念もあって、関係はゆっくり進めるつもりだった。

 しかし、それが春季の心を弄ぶ結果になるのではないかというこいつらの指摘もまた的を得ている気がした。



「わかった、とりあえず声をかけてみるよ」

「おっ、決まりだな。場所はどこか決めてるのか?」

「あー、一応最近ボドゲカフェの話をしてさ、一緒に行きたいって」

「ふーん」

「ふうん」

「言いたいことがあるならはっきり言えよ」



 俺は声を震わせながら、二人を睨みつける。



「まあまあ、とりあえず午後の授業がそろそろ始まるから急ごうぜ」

「うまいことはぐらかされた気がする」



 ため息をつきつつ、俺は椅子から立ち上がった。



 ◇



 「いいよ!ダブルデートだね!おにいさんの友達に会うのも楽しみ!」という返信が帰ってきたのは、RINEでメッセージを送ってからわずか三十分後のことだった。

「返信早いなー」



 そう言いながら、俺は口元が緩んでいるのを自覚していた。

 あの日から、毎日途切れずに続いているRINEを見ながら、俺は自分の思考を整理していった。

 春季に救われて、一緒にいる時間を心から楽しんで。

 元カノの妹で、友人で。

 じゃあ、これから先はどうなるのか。

 俺は春季を、どうしたいのか。



「答え、もう出てるよなあ」



 俺は、自分のちょろさに苦笑しながら、日にちを決めるためのメッセージを送るのだった。


◇◇◇


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