【叙述トリックの名著】アガサ・クリスティ「アクロイド殺し」
アクロイド殺し (クリスティー文庫) Kindle版
アガサ・クリスティー (著), 羽田 詩津子 (著, 翻訳)
発売日 : 2003/11/30
「ぜったいに映像化できない」というキャッチフレーズがついて回るアガサ・クリスティ作品といえば、本作「アクロイド殺し」をおいてほかにない。読めば納得する。ああ、なるほどそういうことだったのかと。読書のよろこびが、ミステリーのよろこびがここに詰まっている。
主人公は、医師のジェームズ・シェパード。田舎町キングズ・アボットで、おしゃべり好きで詮索好きで口の軽い姉のキャロラインとふたりで暮らしている。
そんなある日、名家の未亡人であるフェラーズ夫人が投薬自殺する。キャロラインの姉によれば夫を同じ薬で殺害したといういわくつきの女だった。
フェラーズ夫人との恋の噂があった富豪のロジャー・アクロイドは、ずいぶんとおびえていた。ジェームズはロジャーになにかあったことを察知する。
その夜、ロジャーは死体で発見されるのだった。
はたして犯人は誰か? 執事パーカーとロジャーの義理の娘セシルの証言によると、ある特定の時刻の間に部屋を訪れたものが犯人ということになる。そうなると、セシルにまで疑惑がかかってくる。
誰も彼もが怪しい。ロジャーの義理の息子ラルフ・ペイトンが姿をくらませる――彼は、父親とちがって金銭にだらしがなかった。また、ジェームズは怪しいアメリカ人の姿を目撃している。執事のパーカーは金銭問題で、前の家を追い出されている。
セシルはジェームズを頼って、キングズ・アボットにやってきた元探偵だという男のもとをたずねる。もちろん、事件解決のためである。その男の名はエルキュール・ポアロ。有名人の登場に町はいろめきたつ。
当初こそ変人あつかいされているものの、探偵ポアロは、数々の謎をひもといていき、やがて真実へといたる。
――果たして犯人は誰なのか? 数々の謎が示すものとは?
一読すれば、本作がミステリーの名著と呼ばれていることを実感するに違いない。叙述トリックの面白さに知的好奇心を大いに刺激される。行間の空白をうまく使ったトリックの卓抜さに、読み返し必至である。
「ぜったいに映像化できない」という理由にも納得をするところであろう。本作のトリックの醍醐味は、小説という文章を使ったメディアでしか表現できないからである。何もかもをありのままに写してしまう映像とは食い合わせが悪いのだ。
とはいっても、本作の映像化は三谷幸喜脚本でなされているようだ。その名も『黒井戸殺し』。舞台を日本に置き換えてあるらしい。私は未見だが、どんなできばえになっているのか見てみたい。
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