どくしょ感想百篇

馬村 ありん

【なぜ書くのか?】スティーヴン・キング「書くことについて」

書くことについて ~ON WRITING~ (小学館文庫)

スティーヴン・キング (著), 田村義進 (翻訳)

発売日 ‏ : ‎ 2013/7/10



 なぜ人は小説を書くのか――その理由は人によってさまざまだ。


 では、世界的作家であるスティーヴン・キングは? その答えが詰め込まれているのがこの一冊だ。

 小説の指南書であり、キングの半自伝書であり、そして人生観を語った一冊である。キングファンは言うまでもなく、小説家志望者、趣味で書いている人、読書家に強くおすすめしたい。


 大きく分けて本書は三つのパートに分かれている。「履歴書」「書くことについて」「生きることについて」の三つだ。

「履歴書」は自伝パートになっており、幼少期からさかのぼって自分が物語を書きはじめるようになったいきさつを語っている。「書くことについて」は小説指南書のパートであり、実用的な知識や箴言しんげんがふんだんに盛り込まれている。そして、最後の「生きるということ」では、半死半生の事故で自分を見つめた作家が、なぜ書き続けるのかをつづっている。

 なお、「道具箱」というパートでは、英文法について語っているのだが、日本語に置き換えて読んでも十分効果的だ。こちらも目を通しておくと、すばらしい発見がある。


「書くことについて」で語られるのは、キングの創作方法についてだ。とりわけユニークな点は、プロットを用いないことである。『ストーリーは自然にできていく』というのがキングの基本的な考えだ。キングは作家が文章を書く行為を、石の中から化石を掘り出すのに例える。

 そのため、「状況設定」をスタートにキングは物語をかいていく。例えば、「ミザリー」は実際に見た夢から着想を得た作品で、「小説家の男が、頭のおかしいファンに捕まり、あとで豚に食われる」という状況設定からはじまったのが、書いているうちにキャラクターへの理解度が深まっていき、ストーリーが成長していった。小説家の男は知的に優れた人間となり、ファンの看護婦も複雑な人格になった。ストーリーは育てるものなのだ。


 キングによれば、ストーリーの原石を磨くことでダイヤモンドができるというわけだ。小説家志望者の端くれである私も、このキングのメソッドで書いている。短編も長編もすべてがこの方法によるものだ。この方法が楽しいのは、自分でも想像もしなかった形でストーリーが結ばれたときだ。思わず感激に震える瞬間をいくつも経験できた。


 もちろん、キングもプロットで組み立てる創作方法を無視しているわけではない。『不眠症』『ローズ・マダー』『デッド・ゾーン』などはプロット主導の作品であると明言しているし、なかでも『デッド・ゾーン』は文句のないでき栄えだと自負している。プロットを使った創作を全否定しているわけではない点に要注意だ。


 この本については、紹介したいことが山程ある。創作者に役立つ箴言しんげんが並んでいる。一節を抜き出してみよう。


「作家になりたいのなら、絶対にしなければならないことがふたつある。たくさん読み、たくさん書くことだ」

「毎日四時間から六時間を読んだり書いたりするのにあてるべし」

「大事なのは、読者が本を閉じ、書棚に戻したあと、しばらくのあいだその頭と心に余韻が響くことだ」


 ぜひとも一読を!

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