どくしょ感想百篇
馬村 ありん
【なぜ小説を書くのか?】スティーヴン・キング「書くことについて」
なぜ人は小説を書くのか――その理由は人によってさまざまだ。
では、世界的作家であるスティーヴン・キングは? その答えが詰め込まれているのがこの一冊だ。小説の指南書であり、キングの半自伝書であり、そして人生観を語った一冊である。キングファンは言うまでもなく、小説家志望者、趣味で書いている人、読書家に強くおすすめしたい。
大きく分けて本書は三つのパートに分かれている。「履歴書」「書くことについて」「生きることについて」。
「履歴書」は自伝パートになっており、幼少期からさかのぼって自分が物語を書きはじめるようになったいきさつを語っている。「書くことについて」は小説指南書のパートであり、実用的な知識や
なお、「道具箱」は英文法について語っているパートだが、日本語に置き換えて読んでも十分通用する内容が含まれている。ここも目を通しておくと、すばらしい発見がある。
「書くことについて」で語られるのは、キングの創作方法についてだ。なかでも、ユニークな点は、プロットを用いないことである。「ストーリーは自然にできていく」というのがキングの基本的な考えだ。キングは作家が文章を書く行為を、石の中から化石を掘り出すのに例える。
だから、「状況設定」をスタートにキングは物語をかいていく。例えば、「ミザリー」は実際に見た夢から着想を得た作品で、「小説家の男が、頭のおかしいファンに捕まり、あとで豚に食われる」という状況設定からはじまったのが、書いているうちにキャラクターへの理解度が深まっていき、ストーリーが成長していった。小説家の男は知的に優れた人間となり、ファンの看護婦も複雑な人格になった。ストーリーは育てるものなのだ。
キングによれば、ストーリーの原石を磨くことでダイヤモンドができるというわけだ。小説家志望の端くれである私も、このキングのメソッドで書いている。短編も長編もすべてがこの方法によるものだ。この方法が楽しいのは、自分でも想像もしなかった形でストーリーが結ばれたときだ。思わず感激に震える瞬間をいくつも経験できた。
もちろん、キングもプロットで組み立てる創作方法を無視しているわけではない。『不眠症』『ローズ・マダー』『デッド・ゾーン』などはプロット主導の作品であると明言しているし、なかでも『デッド・ゾーン』は文句のないでき栄えだと自負している。プロットを使った創作を全否定しているわけではない点に要注意だ。
この本については、紹介したいことが山程ある。創作者に役立つ
「作家になりたいのなら、絶対にしなければならないことがふたつある。たくさん読み、たくさん書くことだ」
「毎日四時間から六時間を読んだり書いたりするのにあてるべし」
「大事なのは、読者が本を閉じ、書棚に戻したあと、しばらくのあいだその頭と心に余韻が響くことだ」
ぜひとも一読を!
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★36 エッセイ・ノンフィクション 連載中 29話
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