【読書はノイズか】三宅香帆「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」

なぜ働いていると本が読めなくなるのか (集英社新書) Kindle版

三宅香帆 (著)

発売日 ‏ : ‎ 2024/4/17



 部屋中が本であふれている。毎週何冊か買うというのを何年も続けてきた結果である。買った以上は片っ端から読んでいくべきなのだが、ついついスマホに手を伸ばしてSNSを見たり、ゲームをプレイしたりしてしまう。結局、毎日の読書時間がぐっと少なくなってしまうという始末。


 どうしてこんな現象が起きるのか自分でも疑問だった。「飽きっぽく」「面倒くさがり」であることは間違いないのだが、一度火がつけば何時間でも読書していられるタイプである。なぜ読書の前にスマホに手を伸ばしてしまうのだろう?


 そこに天啓のごとく現れたのが、本書だった。

 まさしくドンピシャな内容だった。

 本書では、映画「花束のような恋をした」のワンシーンを引き合いに出し、「本は読めないのに『パズドラ』はプレイできる」という登場人物の描写が取り上げられていて、これはまさしく自分のことを言っているではないかと思った(なお「パズドラ」はプレイしたことはない)。

 働いていると本が読めなくなってしまうのは、自分だけの現象ではない。現代人特有の病理なのだ。


 じゃあ、なぜ働いていると本が読めなくなってしまうのか?


 その謎を解くために、著者は、明治、大正、昭和、平成、そして令和と、「仕事」と「読書」の両立の観点から、日本人と読書の関係についてひもといていく。

「階級を乗り越えるための教養」として読書が尊ばれた明治~大正時代。「大衆の娯楽」として広がった戦前~戦後。高度経済成長期には「娯楽」としての意味がよりつよくなった。バブル経済崩壊後以降は、「自己啓発」としての読書が広がる。そして情報化社会を迎えた現在、読書は「ノイズ」と化してしまう。


 我々は、仕事に全身全霊を捧げてしまうからこそ、「読書」のような土地性・歴史性・時代性といった「文脈」を背負ったものをノイズとして捉えがちになってしまう。インターネットで得られる手軽な回答をこそ尊び、ノイズを遠ざけてしまう。それこそが働いていると本が読めなくなってしまう原因なのだ。


 では、このように読書を「ノイズ」と捉えてしまう働き方を、どのように変えるべきだろうか?

 著者は、そこで「半身社会」という概念を提唱するのだが、その詳しい内容についてはぜひとも本書をご覧になっていただきたい。

 きっと生きるためのヒントが得られることだろう。


 私は、読書というものが内包する「ノイズ」を忌避していたようである。ノイズに向かうよりわかりやすい「情報」へとつい身体が向かってしまうのだ。

 読書へ全身を傾けようとして、逆に忌避感を生み出してしまっていたのかも知れない。これからはなにごとも「半身半霊」で取り組むことにしたい。

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