第15話 最終回!みんな集合!!
ハッ、と気づくと、私は現実の教室に戻っていた。
意識の無い坂切さんと、イリヤくんと手をつないでいる私を、ライムさん、エルくん、そして西園寺さんが心配そうに見ている。
私の右手を握っている、イリヤくんの手に力がこもった。
「お前が、この子の心を取り戻したおかげで、マンティスの力が弱り、やつをバーナッチャに送り返せた。今頃は、あちらの牢獄につながれているはずだぜ」
「じゃぁ、坂切さんも……」
「無事だ。もうすぐ目を覚ます」
その言葉通り。私が握っている坂切さんの右手に、力がこもった。
「う、う~ん」
目を覚ますと、坂切さんはキョトンとして言った。
「あれ? 山野辺さん? 西園寺さん? 授業はどうしたの?」
◆
その日の放課後、私と西園寺さん、そして坂切さんは、イリヤくんのダンジョンにいた。
エルくんが文句を言いながら魔法を使いまくり、戦いで壊れた物を直し、マンティスやケルベロスに関する記憶を、学校の皆から消した。
だがイリヤくんたちは、西園寺さんと坂切さんの記憶は消さなかった。
いつもの議会の間には、私も含めた聖陽学院の女生徒三人、それにイリヤくん、ライムさん、エルくん、そして男の子の姿のベロちゃんがいる。
イリヤくんの説明によると、マンティスをバーナッチャに送り返したものの、私たちの学院の周囲には、まだ数匹のフェアリー・モンスターが潜んでいるのだという。
そして坂切さんはマンティスと、西園寺さんはベロちゃんと接した事で、モンスターの「気配」が、魂にしみついてしまった。そう、イリヤくんと生命のやり取りをした私の様に。
二人は今後、その「気配」を狙うフェアリー・モンスターに、襲われる可能性があるのだという。
「だから君たちの記憶は消さなかった。私たちのそばにいて、なにかあったら連絡して欲しい。仲間がすぐに駆けつける」
そういうイリヤくんに向かい、西園寺さんが、おずおずとたずねる。
「あの、ベロちゃんは、どうなりますの?」
「彼にかけられていた魔法はといた。もう凶暴化はしない。だが君と一緒には、暮らさない方がいいだろう。君だって、いつまでも彼の正体を、家族に隠せないだろう」
「そ、そうですわね」
落ち込む西園寺さんに向かい、イリヤは優しく言った。
「ケルベロスには、このダンジョンに住んでもらう。放課後や休日に、君も遊びに来るといい」
「じゃぁ、いつでもベロちゃんと会えるんですの?」
「ねぇちゃん!」
西園寺さんと、ベロちゃんが抱き合って喜ぶのを見て、ホッとする私に、坂切さんが耳打ちしてくる。
「いやー。私はよく覚えてないんだけど、なんか大変な事になっちゃったねぇ」
うなずきながら、私は思った。
私を含めたクラスメイトの皆が、坂切さんに頼り過ぎたから、彼女のネガティブ感情を増やしちゃったんだ。
これからは、坂切さんに甘えないで、自分の力で頑張らないと。
「あ、そうですわ。ベロちゃんに会いに、ここに来た時に、勉強するお部屋を貸していただけますか?」
そのお願いにライムさんがOKサインを出すと、西園寺さんは私に言った。
「山野辺さん、あなた中間試験で一九八位だったんですって? 私がここで、勉強を見てあげます」
「えぇっ、そんなの、しなくていいよぉ」
「よくありません。あなたが成績不振で退学する様な事になったら、クラスメイトとして、ご両親に申し訳が立ちませんわ!」
「いいじゃない、見てもらいなよ。私も一緒に勉強しようかな」
坂切さんにまでそう言われて困る私を、イリヤくんが笑いながら見ていた。
◆
イリヤくんがマンティスを故郷に送り返して、学院に平和がもどった。
そんな中、私に言ったとおり、西園寺さんはホームルームで、今まで「外勢」の生徒をバカにしてきた事を謝った。
私は「無理しない方がいいよ」と言ったし、クラスのみんなに「何を今さら」みたいに思われるんじゃないかと、心配だったけれど。
西園寺さんが謝ると、一番後ろの席の、普段あまりしゃべらない柔道部の山下くんが、感心した様に「普通、先にやった人がいたとか、他にもやった人がいるとか、他人のせいにするのに、西園寺は堂々と謝った。立派だ」と言った。
それに合わせて、クラス中からパチパチパチと拍手が起こり、いい雰囲気になったんだ。
あの拍手は西園寺さんに向けてというより「山下くんの声、初めて聞いた」という感じで起こった気がするけれど。まあ丸く収まったのならよしだ。
その後の西園寺さんは、相変わらず取り巻きの子たちとおしゃべりしていて、私とは友達という感じではないけど、毎日、帰る時に「はい」と私に宿題を渡す。
休み時間に、その日の授業の内容から、私向けの問題を作ってくれるんだ。
「復習になっていいですわ」と言うが、授業についていけない私にとっては、ポイントをしぼってある西園寺さんの宿題は、本当にありがたい。
私は家に帰って、頑張ってそれをとき、翌朝、西園寺さんに提出していた。
そして週に一、二回、イリヤくんのダンジョンで、西園寺さんの家庭教師をみっちり受ける。
毎日の宿題から、私が、どこが苦手なのかリサーチして、西園寺さんは、わかりやすく教えてくれる。
しかもケルベロスのベロちゃんと遊びながら、私に勉強を教えてくれるんだから、彼女は本当に優秀なんだな、と思う。
そんな私と西園寺さんを、ダンジョンに遊びに来た坂切さんが、ニコニコしながら見ている。
そうそう、私は坂切さんに誘われて、ボランティア活動を始めたんだ。
通学路の掃除をしたり、近くの小学校や幼稚園の子供と遊んだり、老人ホームをたずねたりするんだよ。
勉強もスポーツも苦手な私にはちょうどいいし、なにより、いろいろな人に出会えるのが楽しかった。活動を通じて、坂切さん以外の友達もできたしね。
西園寺さんのおかげで、勉強が少しずつ得意になった。
坂切さんのおかげで、少しずつ友達が増えた。
そして家では、こんな事があった。
ある夜、叔父さんと叔母さんが、私をリビングに呼んだ。
二人は私と向かい合ってソファに座り、私の横には恵ちゃんが座った。
そして叔父さんが言ったんだ。
「響ちゃん。今の学校が辛いのなら、転校してもいいんだよ」
入学して落ちこぼれて、さらに上ばきを盗まれた頃、私の様子がおかしかったのを、三人は気づいて、心配してくれていたんだ。
叔母さんも、続けて言った。
「亡くなったご両親が、今の学校に入れたがっていたけど……。響ちゃんが辛かったら、やめてもいいのよ。小学校の時のお友達がいる、近所の中学校に移る?」
隣の恵ちゃんも、黙って手を握ってくれた。
私は胸が熱くなった。
やっぱりこの三人は、私の本当の家族だ。ここまで私を心配してくれるんだもの。
でもその時、私の心には、坂切さんや西園寺さん。そして他のお友達の姿が浮かんで、私は学校をやめたくないな、って思ったんだ。
私は叔父さんたちに、正直に話した。
入学して、落ちこぼれた事。
学校が嫌いで、やめたいと思っていた時があった事。
でも友達を作って、勉強を頑張って、今では学校を好きな事。
「私は、今の学校と、お友達が大好き」
そう言うと、恵ちゃんが私に抱きついて、叔父さんと叔母さんは喜んでくれた。
そんな風に、私が学校生活を好きになった初夏。
ものすごい驚きが、やってきたんだ。
「今日は皆さんに、新しいお友達を紹介します」
丸山先生の声に、クラスはざわめいた。
私立であるこの聖陽学院には、基本的に転校生が来る事はないからだ。
「海外の姉妹校から、日本の文化を学ぶために、留学生を受け入れる事になりました。紹介します」
先生の言葉に、ドアを開けて入ってきたのは……。
「イリヤくん!?」
思わず声を上げた私に、クラス中の視線が集中する。
それに気づいて顔を真っ赤にする私に、少し離れた席の西園寺さんが「バカね」と声を出さずに、口の動きで伝えた。
「あら? 山野辺さん、彼と知り合いなの?」
学園マンガでありがちな問いかけを、丸山先生にされて、目を白黒させる私を、坂切さんがフォローする。
「先生、私と山野辺さんは、前にボランティア活動で、イリヤくんと知り合ったんです」
ありがとう、坂切さん。
何とビックリ、私たちのクラスにイリヤくんが。となりのクラスにエルくんが。そして高等部にライムさんが、留学生としてやって来たんだ。
あと、もう一人。
「ねぇちゃん!」
男の子の姿になり、うちの小等部の制服を来たベロちゃんが、昼休みにやってきたかと思うと、西園寺さんに抱きついた。
「ちょっと、ベロちゃん、ここは教室ですわよ」
あわてながらも、うれしそうに、西園寺さんは周囲に、ベロちゃんを「昔、海外旅行をした時に、なかよくなった現地の子」として皆に紹介した。
イリヤくんをはじめ、ダンジョンの仲間たちが、留学生として私たちの学校にやって来た理由は……。
「魔界プリンス、イリヤ様が、この世界を征服する為だ!」
言った瞬間、イリヤくんの頭を、スパァン、とライムさんがハリセンで叩く。
咳払いすると、イリヤくんは言い直した。
「この学院と、その近くにひそむフェアリー・モンスターを探すためだ」
昼休み。エルくんの魔法で、誰も上がってこないようにした屋上で、私と西園寺さんと坂切さんは、イリヤくんの説明を聞いていた。
「それに、君たちを守る為でもある。もしフェアリー・モンスターが襲って来ても、俺たちが近くにいれば安心だろう」
あとベロちゃんは、人間社会の常識を勉強させるために、うちの小等部に入れたらしい。
自分で肩をもみながら、エルくんが言った。
「学校の、おえらいさんたちに魔法をかけて、ウチらを留学生と思いこませたんや。えらい大変やったわ」
「そういう事で、しばらくの間よろしくね。みんな」
そう言ってほほえむライムさんは、高等部で、早くも美少女転校生として話題になっているらしい。
その正体がスライムだと知ったら、みんなビックリするだろうな。
そんな事を考えている私に、イリヤくんが言った。
「フェアリー・モンスターを探し出し、君たちを守るのが第一だが……。俺としては、こちらの世界の事も、いろいろ勉強したいと思っている」
私は冗談めかして、たずねた。
「それって、この世界を征服するために?」
ニヤッと笑って、イリヤくんが答える。
「いや、大好きな人が住む、世界の事を知るためだ」
「じゃぁ私が、いろいろ教えてあげるね」
そう言った私に、イリヤくんは微笑みながら言った。
「ああ、よろしく頼む。響」
私の中学生活は、楽しくなりそうだ。
放課後ダンジョン! ~魔界プリンス拾いました~ 東紀まゆか @TOHKI9865
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